連携がない
石井公成さんが、去年の道教学会で
大山誠一説の逐次論破
を試みたとき、誰も質問をしなかった。道教学会だったから、ってこともあると思うが、たぶん
個人攻撃に過ぎる
というのが、その時の参加者の偽らざる感想だったと思う。その時は、あまり生産的だとは思わなかったし、別な機会に日本古代史研究者に聞いてみると
大山説は面白いけど、古代史研究者は誰も相手にしてないから、石井先生にはそれとなく教えてあげた方がいいんじゃないですか
という返事で、まあ、普通に文献を読んでいれば、そうなる話だから、それ以上突っ込まなかった。
で、石井さんが、
聖徳太子研究の最前線
というblogを最近始められたのを知った。
最近の論文を読み込み、合わせて、その元となっている文献を精緻に読むことで反論する体裁で始まっている。
何回くらい続くかわからないけど、石井さんのblogは
聖徳太子伝承の成り立ち
について知るためには、非常に有益だと思う。
個人攻撃ではつまらないけれども、それが出発点になって、新たな見地が開かれるならいいのではないかと思う。
もっとも、プロパーの古代史研究者がどこまでこの石井説につきあうのか、そっちも気にしてみたい。
てか、
日本古代仏教史研究者と日本古代史研究者
って、連携が取れているのか取れてないかというと、
取れてない
というのが本当のところのように思う。古代史研究者が
『日本霊異記』を不用意に奈良時代の史料として使う
とか、まあ
テクストクリティックをちゃんとしてから使えよ
とか思うことはよくあるわけで、こうした境界領域では、
「お見合い」状態
が起きて、
誰かやるからいいや
的な動きが起こる。巻末とか頭注についてる校勘くらい見ろよ。
てかさ〜、日本の古代史分野をやる人たちは、ちゃんと中国語ベースで漢文読んで論文書こうね、というのは、中国学の人たちはみんな思ってるわけで。もちろん
テクストは校勘を見て、校勘については諸説を勘案してから、テクスト本文の読みを決めて読む
という作業までを含むのは大前提。
文献批判なしで史料使うって態度は、中国学からすると、
あり得ない
ってことになるんだけど、その点、日本学は甘いよね。文献を読むにしても
異本を見ない
って普通だし。印度学でそれをやったら瞬殺されるし、中国学でも、かなりの程度危ないんだけど。つか、中国では
善本
にも、大抵、校勘はついてるよね。それが当たり前だし、テクストに対する
敬意の表れ
でもある。
異本といえば、一番文献学的に凄かったのは、前にもちょっと書いたが
梶山雄一先生の授業でたしかラトナーカラシャーンティを読んでいた時
だったかな。これは写本が良くなくて、公刊されているテクストも良くない。で、最後に
コラプション
がある、というものだった。従って
出来のよくないテクストを元に、本来の文章を復元しながら読む
という作業が必要なのであった。字義通り訳していけばいいというものではなく、
ラトナーカラシャーンティの論理から行けば、ここはテクストは△△となっているけど、××に直して解釈した方がいい
という指摘をしながら、あの、そうでなくても読みにくい後期仏教論理学末期の論書を読むのである。その上、梶山先生も仰るように
ラトナーカラシャーンティはそれほど賢くない
ので、自分で言ってることが、
途中で論理的に辻褄があわなくなってくる
のだ。その
ラトナーカラシャーンティ自身の誤解
も含めて、是非を判断しつつ、その都度コメントしながら読み込んでいくという、これはかなり面倒なテクストだった。
仏教学の授業は
学部生からODあるいは他大学で就職しているOBまでやってくる
ので、サンスクリットの実力から行けば
赤ん坊から先生クラス
までが受講生で
梶山先生は、聳え立つヒマラヤの高峰に住まう神様クラス
になる。で、出来の悪いわたしも担当して、全くサンスクリットに向いてないことを実感させられたのだが、この授業が学期末に終わるときに
このコラプションの部分を復元できるかな、とそれをやるつもりだったんですけどねえ
と梶山先生が仰った。受講生一同、そのレベルに達していなかったのは、梶山先生には申し訳のないことであった。
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