地域医療崩壊 高齢者人口が36%を越える旧産炭地三笠市が病院職員を高知で募集「志が高い」とは「安い給料で死ぬほど働く」という意味か?
北海道の
旧産炭地
といえば、
炭坑閉山後の窮状
は目を覆うなどという生やさしいレベルを超えている。何かと話題の
夕張市
を始めとして、特に空知地方の産炭地でいまも市である自治体
芦別・赤平・三笠・歌志内
と、町である
上砂川
と合わせて、
空知支庁の旧産炭地6市町
では、
2006年に旧産炭地振興を目的とした基金から不正な長期融資を受けていたことが発覚
している。2006年6月23日付の朝日より。
道も加担 旧産炭地6市町、基金不正融資
2006年06月23日■ 監視役の道も加担
――早期是正 再建団体増の恐れ
財政再建団体の移行を決めた夕張市や周辺の自治体が、地方財政法で定められた手続きをせずに旧産炭地振興を目的とした基金から長期融資を受けていたことが発覚した。市町村財政の監視役であるはずの道も加担し、不正な融資を演出していた。道は、早期に是正する意向だが、融資が引き揚げられる事態になれば、旧産炭地の自治体の厳しい財政に追い打ちがかかる。今後の展開次第では、第2、第3の財政再建団体が出てくる恐れもある。
舞台となったのは、「空知産炭地域総合発展基金」(95億5千万円)。旧産炭地の産業振興を目的に、国の補助金を得た道や、自治体、企業が出資して92年度に設立された。管理運用規程では、空知支庁の夕張、芦別、赤平、三笠、歌志内の5市と上砂川町に対して優先的に資金を融通できる。1年以内に返済する短期は一時借入金として融資し、長期は地方債の引き受けをすることで、資金を融通する。同基金は、実際に地方債を引き受けていた。
■ 運用規定変更
ところが、6自治体は人口・税収の減少で、財政難に陥った。すでに引き受けてもらっていた地方債の償還に困る一方、新規地方債を発行しようにも、財政状態の悪化から、発行に必要な知事の許可が得られる可能性はなかった。
そこで01年初旬、基金の出資者でもある道、基金を管理する社団法人「北海道産炭地域振興センター」と6自治体が協議。知事の許可がいる地方債を発行せずに基金から長期資金を融資することを決め、センターの管理運用規程も変更した。
■ 違法性を認識
道はこうした融資が、地方財政法に違反すると認識していたが、結局は黙認した。この際、道庁内部では、融資について外部から問い合わせがあれば「地方債を引き受けて、融通したもの」と虚偽の説明をすることにしていたという。ある道幹部は「何も手だてを講じなければ、旧産炭地は財政破綻(はたん)しかねなかったからだ」と釈明する。
6自治体のある財政担当者は違法に調達した資金について「10年償還で資金繰りに使っている。道も知っていたこと」と語る。別の自治体の担当者は「センターの運用規程に従っただけだ」と悪びれずに言う。
■ 「北海道特例」
道は近く、この不適正な融資について、総務省や基金を所管する資源エネルギー庁に報告し、違法状態を早期に是正することにしている。
だが、問題は是正の中身だ。基金から6自治体への融資総額は約71億5千万円。早急に返済させることになれば、その年度の歳出額が大きく膨らむ。ただでさえ厳しい財政状況なのに、返済額の大きさやその年度の収支によっては、夕張市以外の4市1町も財政再建団体に転落することになりかねない。
道は、自治体の財政を悪化させないような形での是正策を提案し、了承してもらいたい考えだ。「旧産炭地の大変さを理解して何とかしてほしい、と政府には言いたい」(ある幹部)。しかし、道外にも旧産炭地はある。このような形の「北海道特例」が認められる保証はない。
■基金から空知支庁の5市1町への融資残高(今年3月末時点)■
夕張市 13億9355万円
芦別市 6億6720万円
赤平市 13億4950万円
三笠市 11億2370万円
歌志内市 14億9680万円
上砂川町 11億1400万円
合計 71億4475万円
■ 夕張市議会が特別委を設置
夕張市の「財政再建団体」移行の表明を受けて、夕張市議会は22日、財政再建調査特別委員会を設置した。財政運営の実態解明と、財政再建のための諸制度の研究、市民の生活基盤の安定に向けた活動をするとしている。
こうした
旧産炭地優遇の税金をアテにした財政
がうまく行くわけもなく、夕張が
財政再建団体
になったのは周知の通りだ。
2006年の段階では
三笠市は夕張の轍は踏まない
ということで、地道な自主再建を目指していた。平成20年当時の財政状況は以下の報告に詳しい。
地方公共団体財政健全化法に基づく健全化判断比率等の公表(PDF)地方公共団体の財政の健全化に関する法律の規定に基づき、平成20年度の各会計決算の健全化判断比 率及び資金不足比率について算定したところ次のとおりの結果となりましたので、法第三条第一項及び 第二十二条第一項に基づき公表します。
1 算定結果の概要
(1) 健全化判断比率について 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率の全てにおいて、基準を超え ていない。
(2) 資金不足比率について 水道事業会計、病院事業会計、公共下水道事業会計のうち、病院事業会計において資金不足を生 じたが、比率は基準を超えていない。
(略)健全化判断比率及び資金不足比率について
●実質赤字比率 一般会計等の実質収支は、今年度も黒字となっている。
●連結実質赤字比率
一般会計、育英特別会計、国民健康保険特別会計、介護保険特別会計、後期高齢者医療特別会 計、老人保健特別会計、水道事業会計、市立三笠総合病院事業会計、公共下水道事業特別会計の うち、市立三笠総合病院事業会計において資金不足を生じたが、他の会計の黒字額または資金の 剰余額によって資金不足を補うことができた。
●実質公債費比率
平成19年度決算は25.1%となり早期健全化基準を超えていたが、公債費適正化計画に基づく適 正な起債発行によって、平成20年度決算より比率は改善していく計画である。
●将来負担比率
将来負担となる地方債の現在高や公営企業債等の繰入額も減少しており、次年度以降も比率は 改善していく計画である。
●資金不足比率
市立三笠総合病院事業会計において資金不足を生じているが、市立病院における経営健全化計 画等に基づき経営健全化に向け努めている段階であり、次年度以降も経営健全化の基準値を超え ない計画である。
(以下略)
で、三笠市の人口構成。
三笠市の現況
(略)
【気候】・・・温暖な気候だが冬の降雪量は多い
◇ 日本海側特有の気候で、比較的温暖な地域である。風は弱く、日照時間も長いことから 過ごしやすい環境のまちといえるが、年間平均降雪量843cmの豪雪地帯であることから、 冬の生活面では厳しい一面も有している。
【歴史】・・・産業・経済振興を支えた炭鉱の歴史、北海道初の鉄道開通
◇ 明治元年に幌内地区で石炭が発見され、明治12年に音羽坑大坑道の開削に着手、本格 的な採炭が始まった。その後、明治15年には、石炭運搬のため幌内と小樽手宮間に北海 道初の鉄道が開通した。最盛期には10を超える炭鉱が稼動していたが、エネルギー変革が進む中、昭和46年に住友奔別炭鉱が閉山し、最後まで稼動していた北炭幌内炭鉱は平成元年に閉山した。
【人口】・・・ピーク時の5分の1に減少し、高齢化が進んでいる
◇ 平成16年3月31日現在、人口は12,600人、世帯数は6,155世帯である。 昭和35年のピーク時と比較すると、人口は約5分の1に減少している。
![]()
◇ 年齢構成 平成16年3月31日現在の年齢構成をみると、14歳以下の年少人口が10%を下回り、一方、65歳以上の老年人口は36.8%に達し、高齢化の状況が進んでいる。 また、平成12年の国勢調査における老年人口の割合を比較してみると、全道及び全国平均より2倍近い割合になっている。
【産業別就業者人口】・・・第2次産業が特に減少している
◇ 昭和 35 年と平成 12 年の就業 人口を比較してみると、第1次・ 第2次産業就業者の割合が減少し、 第3次産業就業者の割合は増加し、 全体の約6割に近くなっている。特に第2次産業は、炭鉱閉山による鉱業の衰退が著しく、単一基幹産業への依存度が高かったといえる。
※鉱業就業者数:昭和 35 年全体の 46.2% → 平成 12 年全体の 0.5%
(略)
【福祉】・・・独り暮らしの高齢者が増加している
◇ 65歳以上の高齢者数は、年々 増加しており、そのうち、単身者 も増加傾向にある。また、高齢者 に占める単身者割合は約32%と なっている。
【教育】・・・小・中学校の児童・生徒数は減少している
◇ 小学校、中学校の数はあまり変化していないが、児童・生徒数については年々減少し、 平成14年は昭和63年の約38%となっている。
(略)
【財政】・・・地方交付税への依存体質で、財政が硬直化
◇ 普通会計決算における収入 平成14年度の収入決算額は104億900万円で、平成9年度と比較し37億3,900万円の減少となっている。また、平成14年度決算額の内訳は、地方税(市 税)が9.9%で、全国平均の34.4%、全道平均の21.8%と比較して低く、一 方、地方交付税は49.8%で、全国平均の16.8%、全道平均の28.3%を大き く上回り、交付税への依存度が高くなっている。(以下略)
どうみても
市立病院を維持できる財政状況にない
上に、
人口構成比から行くと、今後も税収の増加は望めないどころか、産業の誘致にも失敗しており、高齢者世帯の単身化が進み、医療サービスの需要がうなぎ登りになる
のは明らかだ。子どもの数が減っているのは
子どもを持てる若い親の世帯が三笠を離れている
証拠である。
老いていく一方の町
なのだ。
しかも、平成20年の段階で
市立三笠総合病院事業会計において資金不足を生じているが、市立病院における経営健全化計 画等に基づき経営健全化に向け努めている段階であり、次年度以降も経営健全化の基準値を超え ない計画
と
医療従事者の給料がどう考えても下がる計画
であるのも、はっきりしている。
すでに一つの市として市立病院を維持できず、かつ医療従事者の給料を減らす計画
である市立三笠総合病院なのだが、
医療従事者不足
を解消しようと
高知にリクルートに来た
らしい。
読売より。
志高い医師北海道に 高知 病院職員、呼びかけ医師不足に悩む北海道三笠市立三笠総合病院の職員が5日、高知市の市中央公園で、医師確保のためのPR活動を行った。人口10万人当たりの医師数が高知が都道府県別で全国4位であることから選んだ。職員は坂本龍馬にふんしてチラシを配り、「知り合いの医師や看護師の紹介を」と呼びかけた。
三笠市は北海道のほぼ中央に位置し、人口は約1万人。唯一の総合病院だが、研修医が研修先に都市部や給料の高い民間病院を選ぶ傾向が高まった影響で年々医師が減り、現在12人に減少。約110人いる看護師も平均年齢48歳で今後3年で約20人が定年退職する。病院運営に支障を来しかねず、4月に医師・看護師確保対策委員会を発足。PR活動に乗り出した。
この日、高知入りした職員3人が、委員会で制作した三笠市と同病院を紹介する映像を流し、チラシや市の観光パンフレット約200部を配った。磯辺正道・委員長は「龍馬のような志の高い医師に来てもらい、市の医療を変えたい。高知の人は気さくに話しかけてくれ、親しみやすい」と期待を込めた。
委員会では、医師とその家族を対象にした「体験視察会」への参加を随時募集中。病院の施設をはじめ、市内や周辺を案内する3泊4日のツアーで、交通費や宿泊費などの旅費はすべて委員会が負担する。問い合わせは同病院(01267・2・3131)。(2010年6月6日 読売新聞)
ええと、
龍馬のような志の高い医師
って、ひょっとして
安くこき使っても文句を言わない、労基法違反に目をつぶってくれる医師
ってことですか?
三笠市立三笠総合病院の医師の募集要項。
医師を募集しています診療科 診療各科 (特に内科、整形外科)
勤務内容
平 日 : 8時15分 ~ 16時45分
宿日直 : 月3回程度年 収
1,100 ~ 2,000 万円退職金制度 北海道市町村職員退職手当組合に加盟しています
休 日
土曜日、日曜日、祝祭日
夏期休暇3日、年末年始5日
冠婚葬祭や病気などに応じた特別休暇制度有り年次有給休暇
4月から勤務いただける場合、1年目15日、2年目以降20日
※前年度の残数を加算し最大40日学会出席
出張扱い (一定金額は病院で負担します)
(以下略)
人口比率の
40%近くが高齢者の三笠市で特に内科、整形外科募集
って、まあ、そうなるでしょうね。
待遇は
都市部の勤務条件と比較しても厚遇ではない
ので、
一万人規模の自治体立病院に医師を集めよう
と思っているなら、多分、相当難しいだろう。てか
症例に偏りがある
だろうと思われるので、研修医を集めるにも
待遇面でも、臨床面でも「ウリ」がない
のだから、これも苦戦するだろう。
てかさ〜
空知の旧産炭地
って、こんだけ固まってるんじゃん。先ほどの三笠市の現況を見ると、
【面積】・・・緑豊かな森林が市の約86%を占めている
◇ 周辺を岩見沢市、美唄市、芦別市、夕張市に囲まれ、総面積は302.64 km2。そのう ち、約86%は自然豊かな森林である。
こんな感じだ。
それこそ
旧産炭地自治体が医療サービスを集約して、医療圏に総合病院を一つ建てる
方が
よほどちゃんとした医療サービスが受けられる
と思うのですが。ちなみに二次医療圏でいうなら、三笠は
南空知医療圏(夕張市・岩見沢市・美唄市・三笠市・南幌町・由仁町・長沼町・栗山町・月形町)
に属し、芦別・赤平・歌志内・上砂川は
中空知医療圏(芦別市・赤平市・滝川市・砂川市・歌志内市・奈井江町・上砂川町・浦臼町・新十津川町・雨竜町)
に属する。で、北海道医療計画南空知地域推進方針(PDFファイル)によると、
平成18年の5月国保レセプトによる受療動向
というわけで、入院を要する疾病の場合、
32%の患者さんは三笠から岩見沢に行く
10%の患者さんは札幌に行く
というのが、標準的な受療動向のようだ。
高額医療費(80万円以上)を要する疾病は、南空知医療圏全体で、
全187件中
脳卒中 53件(28.3%)
心疾患 110件(58.8%)
うち虚血性心疾患 90件(48.1%)
である。
エネルギー政策で
炭坑でウハウハ
できた時代は終わり
炭坑後の「リゾート等開発」も不発
に終わったんだから、足元をしっかり見て
似たような状況にある自治体同士が協力して、医療の集約を行う
方が、今後のことを考えても、まだマシなのではないのかしら。それとも
どこに総合病院を持ってくるかの綱引きでモメる
のか。
空知の旧産炭地には
炭坑で賑わった頃の「いい思い出」
が地縛霊のように残っていて、自治体は特にそのことが忘れられず、21世紀の今になっても、頭の切り替えが出来てないんじゃないか、という気がする。
高齢化が著しい地域での医療サービスの充実が難しい
のは、何も北海道には限らない。
| 固定リンク
« さいたま、さいたま 2008年4月20日に講習用AEDを使った「蘇生ごっこ」をやったのが今頃バレ、消防隊員処分 | トップページ | 小惑星探査機「はやぶさ」よ、地球で待っているよ(その4)Mission Complete! »
コメント
これら旧産炭地は、合併特例債の出る市町村合併からもシカトされたから、負け組ばかり
残ったという色彩ですね。夕張市は論外ですが、他の自治体もこうした「粉飾」が発覚
したので、まるごと「財政再建団体」にしてしまったほうがいいような気が。
三笠市病院の「資金不足」って「赤字」じゃないのですね。
赤字ならまだしも「資金不足」って、市が裏保証(債務保証予約とか経営指導念書)か
何か入れないと、業者が物を納入しないということなのでしょうか。だとすれば、非常に
ピンチというか、むしろ潰した方が市財政に影響を与えないきがするのですが。
投稿: SY1698 | 2010-06-07 21:17
産業も失われた過疎の町、
存在し続けようとすること自体が誤りかと。
投稿: nyamaju | 2010-06-10 10:42