W杯2010 「負けないサッカー」では勝ち上がれない
日本の決勝リーグ一回戦のパラグアイ戦。
4試合不動の先発メンバー
というアナウンスを聞いて
今日はダメかも知れない
と思った。標高1200mの高地で4試合目を同じメンバーで闘う。疲労はピークに近づいているはずだ。
相手のパラグアイは、高地戦の経験が少なくない南米の国だから、高地の試合には慣れているだろう。イエローカードの累積もあり
メンバーを5人入れ替えてきた
のだった。体力的なアドバンテージの彼我の差はこの時点で明らかだった。
試合はもつれた。ともかくも点が入らない。
決定的な瞬間でも、グループリーグでは決まっていた場面なのに、ちょっとズレてしまう。
疲労が思考力を奪い、身体のキレも損なっている
のではないか、と感じた。
最後はPK。
PKは運だから、これはしょうがない。
勝てなかった。
今回のワールドカップで日本が得た教訓は
予選や本選のグループリーグは「負けないサッカー」でやっていけるが、決勝リーグでは「勝つサッカー」をやらないと勝ち残れない
ということだろう。
岡田監督は
負けないサッカーはできる
が、勝つサッカーについてはどうだろう? その辺りが不安だ。
ワールドカップに限らず、
勝ち上がることが必須条件のトーナメント
には
勝ち方
がある。どんなスポーツでもそれは変わらないだろう。
NBAやMLB、NHLでも
レギュラーシーズンはそこそこ勝てるのに、プレイオフでは勝ち上がれないチーム
がある。95-96年シーズンのChicago Bullsが82試合中72勝して、このシーズン優勝したというのは例外中の例外で、普通はプレイオフに勝ち残ることが決まれば
レギュラーシーズン後半では、レギュラーを休ませたり、若手に経験を積ませ、プレイオフに向けて力を蓄える
ものだ。レギュラーシーズンが良くても、プレイオフでさっぱりな戦績になるチームがあるのは、
プレイオフでの勝ち方を知らない
からで、そこはベテランの経験が生きる。そういう意味では
今回の日本には決勝リーグを生き延びた経験のある選手は一人もいなかった
し
監督にも決勝リーグを勝ち上がった経験はない
のだった。日本は
グループリーグを全力で戦う
ことで、決勝リーグに上がった。
日本は、今回
負けないサッカーで、決勝リーグに残る
ことはできたが
勝つサッカーで、決勝リーグを勝ち上がる
ことはできなかった。この間には大きな差がある。しかも
4回とも「不動の先発メンバー」
というのでは
決勝リーグを勝ち上がる余裕がまるでない
と自ら認めているのと同じである。
個人的な希望を言えば
パラグアイ戦後半に森本を見たかった
のだが、今大会で森本は一度も試合に出るチャンスを与えられなかった。少なくとも
結果的にゴール前でシュートを躊躇した玉田を出す
よりは、森本に賭けてもよかったように感じた。
それでも前回2006ドイツ大会のように
日本のゴールが見たい〜
とサポーターが歌わなくて良かったのは収穫だ。
84歳の母は、ワールドカップ開幕前に本田を見て
日本にも、こういう点を取りに行く気迫を持った選手がいないとダメなのよ!
と、いたく気に入った様子だった。
岡田監督の「博打」
が当たって、今回は本来はMFの本田をFWに据えることでグループリーグを勝ち上がったが、本当は
本職のFWがいないといけない局面
だった。海外で揉まれてきた本田が、一瞬の隙を逃さず放ったカメルーン戦のシュートが
日本の快進撃の原動力
となったのは論を俟たないだろう。だがそれは
あくまでも結果論
なのであり、4年後も同じことが出来るとは限らないし、
時間を掛けてチームを作り上げる戦略
とは、正反対の「成功」であった。日本の快進撃は、サッカーの神様が極東の小国にもたらした、ちょっとした
僥倖
だったと言ってもいいかもしれない。
確かに
運も実力の内
であり、日本が入っていたE組は
強豪国が2つ以上入ってない組
であり、
オランダ以外のどの3か国にも勝ち抜けるチャンスのある組
だった。今後、こうした
抽選の幸運
が常に日本にやってくるとは限らないわけで、実際のところ
今回のワールドカップは数少ない「日本がベスト8以上を狙える大会」
だった。このことは、今後何度となく語られることになるかも知れない。
しかしながら
運は決勝リーグ進出で使い果たしてしまった
わけで、PK戦を勝ち抜く「運」は日本には残っていなかった。
今後の楽しみは
今回の日本代表の活躍が世界のサッカー市場の目に留まった
ことで、海外でプレイする選手が増えることだ。
Jリーグでレギュラーでも、海外では、そうは簡単にはいかない。
言葉の壁もある。
プレイスタイルの違いもある。
監督の好き嫌いもある。
それでも、真摯に練習を続け、与えられたプレイ時間で結果を出すならば、出場時間は増え、実力も上がっていくだろう。
若い選手こそ、海外で揉まれて欲しい。
球際の強さ
と
シュートに賭ける執念
が、Jリーグと海外の上位リーグでは段違いだ。それは経験によってしか、高められない技能であり、貪欲さだろうと思う。
森本を見たかった、というのはまさにその点で、
イタリア語を流暢に操る森本のインタビュー
が流れたりしているのを知ると、余計に残念に思う。森本の日本でのプロデビュー戦は今でも印象深い。
今年22歳の森本が海外でここまでやって来られたのは、本人の絶えざる努力の賜物である。その成果をピッチ上で見たかった。
次期日本代表監督は
決勝リーグを勝ち上がったことのある人物
が望ましい。
勝ち方を知っている人間の叡智
こそが、
海外開催のワールドカップで決勝リーグ進出を果たした日本
の次なる課題
決勝リーグでの勝ち上がり
を解決する力になる。
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