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2010-09-07

医療崩壊 医学の進歩が生んだ怪物「多剤耐性菌」 帝京大学病院院内感染の「犯人捜し」は更なる医療崩壊を招く (その2)帝京大学病院はどこまで本気だったのか→追記あり(9/8)書類で通達さえ出せば責任を逃れられる厚労官僚が、現場の疲弊を加速させている

昨日は先日からニュースになっていた遺伝子NDM-1を持つ多剤耐性菌が日本でも見つかっていたと判明し、一挙に多剤耐性菌に関する報道の流れが変わってきた。昨夜から今朝にかけて、民放でもニュース枠で解説を入れるなど、かなり大きく取り上げられている。
朝日より。


相次ぐ多剤耐性菌 厚労省、全国調査へ

2010年9月7日1時39分

 厚生労働省は6日、帝京大学病院(東京都板橋区)で院内感染を起こした多剤耐性菌の全国調査に乗り出す方針を決めた。独協医科大学病院(栃木県)で見つかった別の新タイプの多剤耐性菌への対応も検討し始めた。いずれも海外で先行して感染が広がっており、国内での拡大に危機感を強めている。
 帝京大学病院で発生したのは複数の抗生剤が効かない細菌アシネトバクターだ。健康な人なら感染しても自分の免疫力で抑えられるほどの毒性だ。福岡大学病院や藤田保健衛生大学などで一昨年から今年にかけ、20人以上の患者が院内感染しており、集団感染事例が増えている
 一方、6日に独協医科大学病院がインドから帰国した患者から見つかったと発表したのは「NDM1」という新型の多剤耐性の遺伝子を持つ大腸菌だ。インドやパキスタンで広まっているとみられている。欧州では、多くの人が医療費が安い現地へ美容外科手術などを受けに行く。治療の際に感染し帰国する例が問題になっていた。
 国立感染症研究所の荒川宜親・細菌第二部長は「大腸菌は誰もが持っている。必要以上に怖がることはないが、(健康な人でも)膀胱(ぼうこう)炎などの症状がある場合、原因の可能性もあるので早めに医療機関を受診して欲しい」と呼びかける。
 英医学誌ランセットの姉妹誌に8月に掲載された論文ではインドやパキスタン、英国などで見つかった180例を分析「NDM1は他の菌にうつりやすく、他の菌が多剤耐性化する危険性がある」と警告している。すでに海外では、毒性は強くない菌だが、肺炎桿(かん)菌でも広まっている。食中毒を起こすサルモネラなど毒性の強い菌にうつる恐れも指摘されている。
 世界保健機関(WHO)は論文を受けて「各国政府は耐性菌の発生をきちんと監視すると同時に、抗生剤の誤った使い方を是正し、医療従事者らに手洗いなどの感染対策を徹底するよう改めて周知して欲しい」という声明を出した。
 アシネトバクターは集団感染例が複数出始め本格的な拡大が心配される。NDM1は集団感染ではないが1例目だ。厚労省や研究者は警戒を強めている。

日本の場合
 ウイルス性であることが大部分である風邪に、ウイルスには効かない抗生物質を出す
という投薬が長年漫然と行われてきた。そのため
 抗生物質を出してくれる先生はイイ先生
という誤った認識が広がっている。しかし、
 不要な抗生物質の濫用は、耐性菌を増やすだけ
なのである。WHOの
 抗生剤の誤った使い方を是正 という勧告に、一刻も早く従うべきだ。

ところで、なぜ昨年には多剤耐性アシネトバクターによる院内感染が判明していた帝京大学病院で、これまで感染症対策委員会がうまく機能してなかったのか、という点について、アルゴン金先生から貴重なコメントがあったので、再掲しておく。


概ね同意なんですけど、帝京の場合特定機能病院にしては感染制御のレベルが低すぎた憾みはなしとしませんね。
特に感染症対策委員会が十分に機能していなかったんではないかという感じがします。
厚労省は何かあるとすぐに「病院内に○○委員会を設置せよ」とお達しを出します。
病院側ははいはいと形だけのなんちゃって委員会をでっちあげる、というか議事録を作成する、というのが常なんですが、
感染症対策委員会だけは「なんちゃって」では済まされない、本気でやんなきゃただじゃおかないぞ、というのが最近の流れです。
どれくらい本気かというと、この委員会だけは出席者が名指しで決められている。院長看護部長事務長薬局長検査部門の責任者、代理出席はNG。
適当な議事録でお茶を濁していたら、監査の時に議事録と出勤簿をつき合わせて「この日は薬局長は定休のはずですが」とやられちゃう。
「ちゃんと会議はやったし、副薬局長が出席してました」と言ってもアウト。委員会自体が成立していないことにされちゃう。他の議事録も「クロ」扱いされる。
そうするとどうなるかというと、他の委員会と違って感染症対策委員会は入院基本料を算定する根拠の一つになっているから、入院基本料の「自主」返還を要求される。ちっちゃいとこでも月数億、何ヶ月分返すのかは向こう様の腹一つ。簡単に病院を潰せます。
それくらいペナルティが大きい「本気の」委員会なんですよ、というのを、帝京がちゃんと理解していたのか? だってアシネトバクターが出たなんてトピックス、その月の委員会に上がらなきゃおかしいもん。
ひょっとして「なんちゃって委員会」のままだったのかも。もしそうなら、帝京やっちゃったな。弁護できない。特定機能病院返上くらいあるで。
だって感染制御のスタッフを拡充するのはお金がかかるけど、委員会をちゃんと運営するのはコストゼロで、やる気の問題だもん。
そのうち「帝京大学病院、感染症対策委員会機能せず。院長不参加が常態」だなんて見出しが踊るんじゃないかしら。

アルゴン金先生、ご教示ありがとうございます。
果たして、帝京大学病院での感染症対策委員会運営がどうであったのか、今の段階では分からないのだが、アルゴン金先生が憂慮されるような状況でなかったことを祈りたい。

(追記 9/8 9:00)
匿名希望の方から次のような大変貴重なコメントを頂いたので、再掲する。どうもありがとうございます。


どうも、中の人ですよ。

>アルゴン金先生が憂慮されるような状況でなかったことを祈りたい。
そこで突っ込みを食らわない程度の体裁は整えていますって。
機能不全な感は否めませんけどね。

恐らく外部の一般の人たちの認識とは逆に、
上層部より各病棟、各科代表委員の熱意の方が思いっきり低かったんで。
これもアルゴン金先生先生ご指摘の
>「病院内に○○委員会を設置せよ」とお達しを出します。
この影響です。
通達で無駄に沢山の委員会が作られたあげく、仕事内容まで重なる始末
それに対して各科、人員に余裕があるわけではないので、
科によっては一人が幾つもの委員会を掛け持つハメになり、
そのどれもがべつに出席しなくてもOKなんて事を言うわけもなく、言うわけにもいかず、
一方で、委員会出席のための臨床業務軽減なんて事があるわけもなく
結果、どの委員会も責任者達はそれなりに熱心なものの各委員は士気ゼロ。
というか不可能。
常人には無理
です。

>院長不参加が常態
最近、院長は体調不良だったので、参加できなかった会議もあったかも知れません。
でも、さすがにそれでダメ出しは無いでしょう。
そんなことを言ったら風邪で半日寝込んだだけで
院長を交代しなければならなくなりますので。
(以下略)

帝京大学病院としては、やるべきことはやっていたが、到底常人がこなせる労働量を超えていたとのお話で、やはり
 大学病院の人手不足を無視した厚労省の過重な要求が必然的に機能低下を招いた
のが原因のようだ。
 書類一本で済む厚労省
とは異なり
 委員会には、そうでなくても多忙で人手不足現場から、医療スタッフが診療時間等を削って参加
するんだからな。
 厚労省が「委員会を作れ」と書類一本出せば、同時に現場の人間が魔法のように増えるわけじゃない
ので、
 厚労省の通達は、現場を疲弊させているだけ
ってことで、
 厚労省にしてみれば、「通達に従わない奴が悪い」と厚労省が招いた現場の惨状を他人の振りをしてさらに晒しモノにする
ことができるっていう恐ろしい話。
 自分の不手際を減点されたくない厚労官僚の「通達による責任逃れ」
が、
 現場を疲弊させ、肝心な委員会を機能麻痺に追い込んでいる
ってことですね。ま、
 「ミスター年金」厚労相は、医療行政に関しては素人以下で、現場を疲弊させることしかできない
ってことですな。民主党の党首選が終わったら、さっさと交代して頂きたいのだが、果たして民主党に医療行政のわかりそうな人材がいるのか、甚だ不安。
 

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コメント

どうも、中の人ですよ。

>アルゴン金先生が憂慮されるような状況でなかったことを祈りたい。
そこで突っ込みを食らわない程度の体裁は整えていますって。
機能不全な感は否めませんけどね。

恐らく外部の一般の人たちの認識とは逆に、
上層部より各病棟、各科代表委員の熱意の方が思いっきり低かったんで。
これもアルゴン金先生先生ご指摘の
>「病院内に○○委員会を設置せよ」とお達しを出します。
この影響です。
通達で無駄に沢山の委員会が作られたあげく、仕事内容まで重なる始末で
それに対して各科、人員に余裕があるわけではないので、
科によっては一人が幾つもの委員会を掛け持つハメになり、
そのどれもがべつに出席しなくてもOKなんて事を言うわけもなく、言うわけにもいかず、
一方で、委員会出席のための臨床業務軽減なんて事があるわけもなく、
結果、どの委員会も責任者達はそれなりに熱心なものの各委員は士気ゼロ。
というか不可能。
常人には無理です。

>院長不参加が常態
最近、院長は体調不良だったので、参加できなかった会議もあったかも知れません。
でも、さすがにそれでダメ出しは無いでしょう。
そんなことを言ったら風邪で半日寝込んだだけで
院長を交代しなければならなくなりますので。

ついでなんでブラックなネタを。
高度医療を行う病院を普通に運営しながら、
多剤耐性アシネトバクターを100%発生させない方法が一つだけあります。
何しろ、この菌による感染症は死にそうなくらい状態の悪い人でしか発生しませんから。

投稿: 匿名希望 | 2010-09-07 23:39

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