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2010-10-16

ショパンコンクール2010 3次予選 ショパンを弾くのか、ピアノを弾くのか

若いピアニストたちが、己の技をショパンの作品で競い合うのが、5年に1度のショパンコンクールだ。予選に残るだけでも大変なんだけど、そこから勝ち上がっていくのがこれまた大変だ。

さて、先ほどまでで3次予選の16人までが終わった。午前の部の
 Yury Shadrin (Russia)
が、体調不良で棄権、今日は7人が演奏した。全部をちゃんと聴いたわけじゃないけど
 Nicolay Khozyainov (Russia)YAMAHA
 Marcin Koziak (Poland) Steinway
 Ingolf Wunder (Austria) Steinway
の3人が良かった。特に午前の部最後のNicolay Khozyainovの演奏には心を揺さぶられた。日本時間夜の9時過ぎに午前の部は終わるのだけど、聴いたあとしばらく興奮が残る、そんな演奏だった。
出だしは、それほどでもなかった。
 ああ、馴染みのあるヤマハの音だ(うちのピアノもヤマハ製だった)
と感じるくらい平板で、ピアノが鳴ってなくて、正直がっかりしかけていた。それが、曲ごとによくなり、
 え、これがヤマハの音なの? こんな音が出るの?
と驚くような多彩で美しい音色が奏でられるようになり、最後の
 Fryderyk Chopin - Sonata B-flat minor op. 35
で、爆発した。
第一楽章を弾ききると、ちょっと間を空けた。
それから第二・第三・第四とほとんど間を置くことなく、弾き続ける。なにかに取り憑かれたような、それでいて、タッチに細心の注意を払い、一音もムダにしない演奏をする。見た目は、
 ロシアの王子様キャラクター

 くるくる巻き毛の18歳
なのだが、その相貌から受けるイメージに反して、音は成熟し、演奏は充実している。
このソナタは、普通は
 ソナタ二番 葬送
で知られる。第三楽章が、あの
 葬送行進曲
である。そして、変幻自在でとらえどころのない第四楽章に続くのだが、この第三から第四までの流れを見事に弾ききった。技術的に難しい上に、音楽的にもどう演奏するのかが非常に難しいのだけれども、この18歳の若者は、楽譜に振り回されず、己の技量を操り、美しい音の世界を現出させた。
演奏が終わってからの方が、感動が続いた。ああ、なんていい演奏を聴いたのだろう。なんて素晴らしいショパンだったのだろう。特にソナタは、これまで聴いたことがない、魅力に満ちた演奏だった。
コンクールでは、
 演奏者も成長する
のだ。18歳という恐い物知らずの年齢に、互いにせめぎ合うコンクールという場が、さらにNicolay Khozyainovを、彼自身も知らなかったステージに押し上げて行っている。そのことを痛感したのが、ソナタ二番だった。そして
 コンクールで成長する演奏者
だけが、恐らく、この厳しいコンクールを勝ち抜けるのではないか。

残念ながら、早々に姿を消した日本のピアニストたちの多くからは
 コンクールで成長する
どころか、
 コンクールに飲み込まれている演奏
しか聞き取れなかった。
 ただピアノを弾く
のでは、ショパンコンクールはもちろんのこと、どんな国際コンクールでもよい成績を収めることは出来ないだろう。それは日本人に限らない。3次予選に至っても、まだ
 ピアノを弾く
だけしかできないピアニストたちがいる。譜面に振り回され、音楽を忘れ、ただ、鍵盤で指を動かすことだけで一杯一杯になっているピアニストたちである。彼ら彼女たちがこのコンクールにやってくるまでに重ねた練習が、実は
 練習のための練習だった
という悲しい結果になってしまっている。本当はもっと力があり、もっとピアノを鳴らすことができるのかも知れないけれども、ともすると、
 叩き、走る演奏
に終始している。
 大きな音で速ければうまいのではない
のだが。

3次予選は
 幻想ポロネーズが課題曲
で、
 ソナタも必須
である。体力が限界を迎えつつある状態で、こうした大曲をこなし、しかも
 音楽的にも厳しい要求
があるわけで、
 ただピアノを弾くだけ
では、もはやいたたまれなくなってくる。恐らく、3次予選で、不本意な演奏をせざるを得なくなったピアニストたちの何人かはそれをステージの上で感じているのだろう。気力の失せた演奏をいくつか耳にした。
 いかに説得力のある表現をするか
が、3次予選のテーマであり、難曲幻想ポロネーズは、
 ただの技量自慢を粉砕
し、
 おまえはどういうショパンを弾くんだ、聞かせてみろ
という課題を突きつける。この難題を解くのは
 自由に鍵盤上を走る指と、豊かな表現力、そして解釈
である。この内どれが欠けても、とたんに演奏は色褪せ、魅力の乏しいものとなる。

3次予選2日目最後の演奏者となった
 Ingolf Wunder
は、ショパンコンクール再挑戦組の最後の1人だが、どうやら
 ソナタ三番の第一楽章で何か大きなミスがあった
らしい。「らしい」というのは、わたしは自分で演奏しないから、どこを間違ったのかよくわからなかったのだが、ショパン弾きの人たちが
 ああ、やっちまった
と慨嘆していた。ネットには、使われている楽譜がどの版なのか、ちょっと聴けばたちどころにわかる位、ショパンの音楽に習熟した人たちが集まって、その日の演奏をああだこうだと言ってるんだけど、その彼らがいち早く気がついていたのである。
しかし、Ingolf Wunderは、プログラムの最後に
 幻想ポロネーズ
を持ってきた。これが極めて素晴らしく、弾き終わらない内に拍手が始まり、スタンディングオベーションの嵐になった。もっともIngolf Wunder自身は納得してない表情だった。ソナタでのミスを痛感しているのだろう。

2次予選以降、演奏者たちは
 50分以上の演奏
を求められている。50分まるまる
 まったくミスなく演奏する
のは至難の業で、それはほぼ不可能なのだが、
 50分あれば、最初のミスは取り返せる
のだ。そうした光景を何度か目にした。
日本人演奏者は真面目すぎるのか、一般的に
 ミスしたらおしまい
と考えすぎる傾向があるように思うのだが、この場で求められているのは、
 少々のミスよりも、演奏全体のクオリティ
だ。
 正確に弾く
だけなら、打ち込みでも出来る。そうではなく
 魂を持った人間の弾くショパン
をいかに表現するかが、このコンクールで勝利する鍵だろう。
 楽器の音色を引き出せない演奏者
も少なからずいた。鳴らないピアノでは勝利はおぼつかない。

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