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2010-12-14

アメリカの高等教育機関の日本語学習者数は増加 大学院では中国語専攻は増加、日本語専攻の学生が減少 古文を学ぶ院生はついにゼロに@アメリカ→アメリカの日本研究は「古文のいらない分野」に今後シフト

俗説では
 アメリカの日本語学習者は減少
というのだが、それは
 嘘
である。アメリカ最大の言語教育学会MLA(Modern Language Asssociation)は1958年から、アメリカの高等教育機関における外国語学習者について調査しているが
 2009年度のアメリカの高等教育機関(短大・4年制・大学院)での外国語学習者の統計
を発表した。
 アメリカで外国語を学ぶ学生数は全体として増加、日本語学習者も増加
している。
Enrollments in Languages Other Than English in United States Institutions of Higher Education, Fall 2009

プレスリリース(PDF)では、顕著な特徴として
 Comprehensive nationwide report shows significant increases in the study of Arabic, Korean, Chinese, and American Sign Language

 顕著な学習者増加率を示す言語

 アラビア語、ハングル、中国語とアメリカ手話(American Sign Language)
である、としている。アメリカの大学で
 外国語教育で教えられる言語
には
 アメリカ手話(ASL)
が含まれているのがユニーク。
この
 顕著な学習者増加率

 学習者数
とは必ずしも一致しない。
2009年の外国語学習者数。


Language Enrollments Change since 2006
1 Spanish 864,986 5.10%
2 French 216,419 4.80%
3 German 96,349 2.20%
4 ASL 91,763 16.40%
5 Italian 80,752 3.00%
6 Japanese 73,434 10.30%
7 Chinese 60,976 18.20%
8 Arabic 35,083 46.30%

9 Latin 32,606 1.30%
10 Russian 26,883 8.20%
11 Ancient Greek 20,695 – 9.4%
12 Biblical Hebrew 13,807 – 2.4%
13 Portuguese 11,371 10.80%
14 Korean 8,511 19.10%
15 Modern Hebrew 8,245 – 14.2%

というわけで、伸び率からすると
 アラビア語>ハングル>中国語>アメリカ手話
だが、学習者数は
 アメリカ手話>中国語>アラビア語>ハングル
である。
 アメリカ手話が9万人余、中国語は6万人余、アラビア語は3万5000人余の学習者
がいるのに比して
 韓国語はわずか8511人
である。これは
 短大・4年制・大学院でのすべての外国語学習者数の総計
だから
 いかにアメリカで韓国が言語的にスルーされているか
というのがよくわかる。
実は
 アメリカの東アジア研究
というのは
 中国と日本が中心
で、手持ちのアメリカの東アジア研究の教養課程で使われる教科書では
 朝鮮半島は完全にスルー
されている。まったく記述がないのだ。これはハーバード等で使われていた教科書だそうだから、
 韓国はこれからいかに自国文化に関するアカデミックポジションを大学内に獲得するか
に、躍起になるだろう。

さて、日本語学習者は、上の統計のように
 アメリカではいまのところイタリア語に次いで第六位
だ。アメリカ手話を除けば
 西欧の言語以外でトップは日本語
なのである。大多数は
 日本のポップカルチャー好きが日本語を取っている
と考えた方がよさそうだ。つか
 漫画読んだり、アニメ見るために日本語を取っている学生がいる
ってことね。というのも
 初級は取るけど、中級は取らない学生の率(短大・4年制)
というのも上記の統計では上がっていて、日本語の場合は
 初級 59892人 中級 12825人 5:1
中国語の場合は
 初級 47676人 中級 12291人 4:1
と、
 日本語の中級を取る学生の割合は、中国語より少ない
のである。
 中級では漢字仮名交じり文の読み書き
が面倒に思われるのではないかと推測する。その点
 中国語は漢字だけで行ける
からな。
 中国語学習者の増加
だが、
 中国語への関心
は確かに増加しているだろう。それと
 アメリカで増えているアカデミックポジションを獲得した中国人研究者の数
も無視できない。
 アメリカでは、元々、外交政策では、東アジアでは中国がトップ扱い
なのだが、更に
 声も人数も大きくなる
とすれば、この傾向は続くだろう。
 日本語学科のスタッフを削って中国語学科のスタッフを増やす
ってこともあり得なくはない。

そのことを予感させるのが
 大学院での外国語学習者の数
である。大学院の外国語学習者とは、とりもなおさず
 大学院にその言語の専攻があるかどうか
という話だ。つまり
 研究者を養成するスタッフがいるかどうか
ということを示す。
現代日本語と現代中国語だけで、
 東アジア研究ができるわけではない
ので、
 漢文と古文のコース
が、3回生以上の課程には設けられている。まず学部。
 漢文 2006年 101人 2009年 163人
大学院。
 漢文 2006年 12人 2009年 39人
と、
 順調に漢文学習者が増えている
のである。
一方、古文だが、学部。
 古文 2006年 23人 2009年 22人
一方、大学院は大変なことに。
 古文 2006年 7人 2009年 0人
というわけで
 昨年度(2009年秋から2010年夏まで)大学院で古文を学んだ学生はゼロ
なのだ。
これは
 アメリカでは、日本語の古典を研究する大学院生がいない
ことを示す。つまり
 アメリカの日本研究の若い世代は「古文を必要としない」分野に移行した
のである。

日本政府は
 日本文化の普及=日本の古典文化の喧伝
みたいな幻想を抱くのはそろそろやめた方がいい。
 アメリカでは、古文が読めない大学教員が今後増える
のである。というか
 古文なんか読めなくてもOKな分野しか研究されなくなる
ということだ。もっとも
 漢文の需要は伸びている
から、
 今後、中国古典を含む分野のアメリカでの中国研究の伸び
は期待されるだろう。そうでなくても
 孔子学院とかばんばん建てている
わけで。

それと
 日本研究者は日本語も中国語も両方出来た時代がいつまでだったか
も、この統計が教えてくれた。


 1960 1970 1980 1990
Japanese 1,746 6,620 11,506 45,717
Chinese 1,844 6,238 11,366 19,490

1960〜1980年までは
 中国語と日本語学習者の数がほぼ一致
しているが、1990年では
 いきなり日本語学習者の数だけ増えている
のがわかる。1980年大学入学というと、現在50歳。40〜50歳までのアメリカの東アジア研究者には、
 中国語と日本語が出来る研究者と、どちらか一つしかできない研究者が混じっている
ことになるのだろう。

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