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2011-01-10

東京ディズニーリゾートからの妊婦救急搬送 「マタ旅」は妊婦とその家族を不幸にする第一歩→2007〜2009年の3年間で順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科で飛び込み出産1例、命に関わる常位胎盤早期剥離1例、子宮外妊娠1例、流産が18例、入院加療が必要な切迫流産が1例・切迫早産1例

最近、
 妊婦に旅行を勧める「マタ旅」
などという言葉を耳にするようになった。
 妊婦が高齢化してるのに何を勧めてるんだ
と思うんだが、当然ながら
 旅行先で緊急搬送される妊婦さん
がいるわけだ。

で。
「琴子の母」さんのblog「助産院は安全?」の1/8付記事経由で
 去年の周産期新生児学会で、東京ディズニーリゾートからの妊婦救急搬送について発表があった
と知った。
演題はこちら。
 PO-298「東京近郊の巨大テーマパークからの産科緊急症例についての検討」 順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科 今野 秀洋 他
今のところ
 日本周産期・新生児医学会雑誌
の去年の分が
 工事中
になってるので、該当する発表が論文化されてるかどうか謎なんだけど、もし、すでに発表されているのでしたら、どなたかご教示下さい。

しかし
 旅行先からの緊急搬送の危険性
って、わかってて
 マタ旅
などという愚にも付かない
 母子の安全を損ない兼ねない「旅行需要喚起のためのキャンペーン」
を行っているのか?
流産・死産を招く危険性が低くない上に、ヘタすると
 母体死亡の危険もある
んだけど。
 子どもの誕生日がママの命日
というのは、生まれてきた子どもにしてみれば、一生つきまとう実に不幸な話で、
 自分の誕生日を心から祝って貰えない
ことになる。大人だって、両親の死は重い痛みを伴うのに、ましてや子どもにとって、
 ママが死んでしまって、この世にいない
というのは恐ろしい事実であり、その上に、
 自分が生まれたから、ママは死んでしまった
ということを、毎年イヤと言うほど思い知らされるのだ。その母体死亡が、例えば
 母親が、「赤ちゃんがお腹にいる今の内にディズニーランドで遊びたかったから」
なんて軽率な行動が引き金になっていたとしたら、子どもにとっては、その旅行先は、一生行きたくないだけでなく、名前を耳にすることすら忌まわしい場所となるだろう。

「マタ旅」というので頭が痛いのは、10年以上前から旅行関連サイトでひっきりなしに繰り返される
 子育て中は自由に行動できないから、お腹に赤ちゃんがいる間にハワイに行きたい!
という妊婦さんと、
 妊娠は病気じゃないから、旅行の保険では出産費用が下りず、アメリカの医療費は高額なので、もし、異常分娩だとトンでもない額を請求される
という話である。大体
 ハワイで入院して1000万円かかりました
なんて当事者が掲示板に出てきて、自分の恥ずかしい経験を語るわけもない。ヘタすると、その高額請求のせいで、家庭が崩壊しちゃってるかも知れないし。ま、大体
 お前がハワイに行きたいなんていうからだ!!!
から始まって、家庭内がうまくいかなくなっている危険はかなりあると思う。つか、
 安価なツアーでハワイ行き
した庶民的な家庭だったら、請求額がまず想像を絶しているだろう。
だから、この手の相談では、
 成功例
を誇らしげに語る人しか出てこないのである。そういう人の
 わたしは大丈夫でした(普通、この手のメッセージの最後はハートマークとかその手の飾り文字が満載だったり、助詞の「は」を「わ」と書いたり、小文字のひらがなてんこ盛りだったり)
なんてのは
 あくまでも個人の体験
である。
 ある1例について経験を語っているに過ぎない
のだ。その
 たった1例の「無事」が「自分にも当てはまる」
と信じて、
 誰かが大丈夫だったから、自分も絶対に大丈夫ということは残念ながらあり得ない
わけで、
 将来の子どもと自分の幸せを願う
のであれば、
 マタ旅は勧めない
し、
 高齢初産もしくは不妊治療による妊娠であれば、当然、全妊娠期間慎重な行動を求めたい
と考えている。
 高齢初産もしくは不妊治療による妊娠で流産・死産をした場合、「これが最後の妊娠だったかも知れない」
恐れがあると言うこと、つまり
 次の妊娠が望めるかどうかわからない
ということも、
 高齢妊婦もしくはもしくは不妊治療で妊娠した場合に「マタ旅」したい
と考えている方には申し上げたい。

続き。(11:48)
惨禍医先生、麻酔科医先生、僻地の産科医先生、どうもコメントをありがとうございました。
惨禍医先生が抄録を送って下さったので、引用する。


PO-298 東京近郊の巨大テーマパークからの産科緊急症例についての検討

The investigation of the maternal transport from the huge theme park on the outskert of Tokyo

順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科
今野秀洋、田嶋敦、祖川侑子、丸山真由子、野島実知夫、吉田幸洋

【目的】今回我々は、レジャー旅行中の妊婦における産科救急搬送の実態の把握とその問題点を明らかにし、また実際の対応について調査することを目的とした。
【対象】2007年1月1日から2009年12月31日までの期間、レジャー施設およびその周辺施設より当院惨禍に緊急受診した症例を検討した。
【結果】受診患者数は
 2007年は41人
 2008年は23人
 2009年は22人

 総数86人
であった。
年齢は
 19〜45歳(中央値は30歳)
妊娠歴は
 0〜5回(中央値は1回)
分娩歴は
 0〜4回(中央値は1回)
であった。
来院週数は、
 4週〜40週および産褥期
で、
 12週までが40人(46.5%)[補足 妊娠3カ月未満]
 12週〜21週が22人(25.6%)[補足 妊娠3カ月〜5カ月 ここまでは妊娠中絶が許される週数]
 22週〜36週が22人(25.6%)[補足 妊娠5カ月〜9カ月 28週=7カ月までは男女ともに1000gに満たないこともあり、ここで生まれると超低出生体重児、32週=8カ月では普通なら1500gを越えているが、1500g未満なら極低出生体重児]
 37週以降が1人(1.2%)
 産褥期が1人(1.2%)

であった。
診断は
 切迫流産一番多く、40人(46.5%)
 流産が18人(20.9%)
 切迫早産およびその疑いが11人(12.8%)
と続いた。このうち
 入院を要したのは7人(8.1%)
で、
 流産が2人
 切迫流産が1人
 切迫早産が1人
 陣痛発来が1人
 子宮外妊娠が1人
 常位胎盤早期剥離が1人
であった。
【結語】過去3年間に総数86人と多くの方々が受診していた。そのうち、おおよそ半数近くが軽症例であったが、子宮外妊娠や常位胎盤早期剥離といった重症例も存在していることがわかった。今回は施設内の妊婦への対応を調査して併せて報告する。

ええと、まず驚くのは
 37週以降、産褥期までの何時生まれてもおかしくない妊婦さんが東京ディズニーリゾートから緊急搬送
されている、ということである。
 どうして37週以降に、遊びに出かける
のか、不思議で堪らない。でもって、
  陣痛発来が1人
ということだから
 かかりつけの産科でない順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科

 飛び込み出産
したってことでしょ?
かつ
 常位胎盤早期剥離1人
という
 通常の分娩でも恐ろしい重症例が東京ディズニーリゾートから担ぎ込まれた
という事実は
 臨月の妊婦の意識の低さが「死亡例に繋がったかも知れない」症例
である。てか
 助けてくれた順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科が凄い
のであり、
 場合によっては、そのまま命を落としてしまう危険の高い例
である。

流産という言葉は
 妊娠週数21週まで
に使われ、それ以降
 妊娠21週〜36週は早産
になる。そうすると、上のデータは
 妊娠12週〜21週で緊急搬送された妊婦さんが62人
いたのだから、その内
 18人が流産で赤ちゃんを失い、その内2人は入院治療、1人は「流産しかかった状態」である「切迫流産」で入院治療
ということだ。で
 妊娠22週〜36週の22人の内、1人が「切迫早産」で入院治療
したわけである。

残る1人が緊急搬送してから
 子宮外妊娠で入院
で、これは
 放置すれば、母体死亡に至ることもある重症
だ。恐らく、ディズニーリゾートで激痛に襲われたのだろう。この例では、妊娠を自覚してなかったかも知れない。

安易な
 マタ旅の勧め
の裏には、こんな事実が厳然として存在するのである。
 緊急搬送された62人の妊娠21週までの妊婦さんの内、18人が流産
というのは、率にすると
 29%
である。妊娠初期の流産は15%程度と言われているから、医学的には
 赤ちゃんの側に問題があったのかもね
で済むのだが、家庭的には
 東京ディズニーリゾートに行って流産
というのは大きな事件となる。少なくとも、何らかのもめ事の元にはなるだろう。もし
 不妊治療で授かった赤ちゃんや高齢初産の赤ちゃん
だったとすれば、残念な話だが、
 次の妊娠は二度とないかも知れない
わけで、代償はあまりにも大きい。
幸いに赤ちゃんを失わずに済んだとしても、切迫流産・早産と診断されれば、
 以後、しばらくは絶対安静
だ。バリアフリー完備と謳われるテーマパークだから、と
 軽いキモチでディズニーリゾート
が、
 重大な結果を引き起こす
のだから、
 もっと条件の悪い旅行
であれば、何が起きているのか。全体の統計が取りにくい事例であるだけに、この順天堂大学附属浦安病院産婦人科の報告は実に貴重である。

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コメント

世に出ているのは抄録しかないと思いますが、メールで送らせていただきました。

投稿: 惨禍医 | 2011-01-10 11:05

http://www.jspnm2010.jp/jspnm2010_program.pdf
P199 PO-298ですね。

投稿: 麻酔科医 | 2011-01-10 11:21

今、家中探してみたのですが、その号と去年の号
(参加したときの抄録は持ち歩くためになくなることが多い)が見つかりません(涙)。
もうちょっと探してみます。

投稿: 僻地の産科医 | 2011-01-10 11:24

惨禍医先生、麻酔科医先生、僻地の産科医先生、コメントありがとうございます。
惨禍医先生、抄録をありがとうございました。
ということで、僻地の産科医先生、お骨折りをいただきましたが、大丈夫です。ありがとうございます。

投稿: iori3 | 2011-01-10 13:16

沖縄で新生児やっていると、
やはり同様の症例がいます。
早産で、具合が悪く、大変です。
お母さんは数ヶ月の沖縄滞在を余儀なくされます。
病人ではないかもしれないですが、
ちょっと考えてから、計画立ててほしいです。

投稿: fz1rider | 2011-01-10 19:53

 ディズニーランドからの要請に応える大学がまだあって良かったですね。まぁ、濹東や奈良のように、誰か死ななければダメなのか?という感じが・・・ありあり。あとはディズニーランド内で生じたハイリスク分娩を受けていて他の患者さんが医療訴訟を生じるようなことがあれば、変わるかもですね。
 いずれにせよ35週を超えて行くのは考えものです。

投稿: 通りすがりのスルー | 2011-01-11 00:43

切迫早産で入院していて、退院させた直後にまた入院してきた妊婦の退院後の行動を問い詰めたら、千葉県の某巨大テーマパークに行ってたということがありました。順天堂の皆様には感謝申し上げますが、地元にもどってから周産期病床を圧迫している例も少なからず存在しているものと考えます。

投稿: REX | 2011-01-13 01:34

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» 注:マタタビと言っても猫の大好物のことではありません [ぐり研ブログ]
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