「外国語が出来ない、は怠け者の言い訳」
わたしの中国語歴は27歳から始まる。
外国語は25歳まで
という
身に着くか、着かないかの閾値を超えてからの習得
だが、そんなことを気にする余裕はなかった。
今回の台湾訪問は3度目である。1度目は全然中国語が通じなくて難儀した。2度目、3度目と繰り返して行く間に
いわゆる「普通話(大陸準拠の北京語)」と國語(台湾の中国語)との調音点や口・口腔の開き加減、声の高さの違い
が分かってきて、2度目の後半から、言葉が通じるようになってきた。
國語は、普通話に比べると、トーンは低く、口腔の後方の緊張が緩く、唇も緩めで、送気音の送気が弱め(話者によってはほとんど聞き取れないくらい弱い)で、捲舌音がなく、儿化しない。調音点は、喉音以外は普通話より後ろ目なので、日本人には多分、國語の方が話しやすいだろう。それと喉音は、普通話よりも前寄りに発音するので、
國語を話していると、普通話で起こりがちな「中国語を話し始めると、数日で、風邪を引いたり、喉を痛めたりしやすい」ということがない
のが特徴かも知れない。中国大陸で、以前はそこら中においてあった痰壷は、普通話の喉音の発音、特に"h,k"の発音に依拠するところが多い、というのがわたしのいい加減な感想だが、教科書通りの普通話の発音をすると、どうしても喉を痛めやすい。日本語では、そこまで口蓋垂(のどちんこ)を空気にさらす発音を常用しない。國語もその傾向がある。
まあ、台湾人同士は台湾語もしくは台湾語と國語の混じったような中国語で話しているし、客家語話者も少なくないので、トーン高めで送気音をはっきり発音(というか普通話の初学者はこれにかなり時間を費やす)するという
普通話の特徴
とは、まったく違った発音形態になっている。
大体、中国語を話すときは
一声をどこに置くか
が、問題なんだけど、台湾の國語では一声はかなり低く取った方が
通じやすい
のである。あと
陸客(大陸からの観光客)
が、台湾で、いろいろと公衆衛生やマナー等でトンでもないことをしでかしているので、大陸風の普通話で話すよりは、國語寄りの緩い発音で話をする方が絶対に
ウケがいい
のである。うっかり
儿化を入れて話す
と、向こうが俄に緊張し出したりするのを見ると、
両岸交流(大陸と台湾の人的交流)
で、基本的には親切な台湾の人たちが、かなりしんどい思いをしているらしい、というのは察せられる。
で。前もそうだったんだけど、機内でも、台湾でも
日本人が中国語を話す
と、
大いに歓迎される
のであった。いかに
日本人が外国語を「話そうとしない人たち」だと信じられているか
がわかる。2回目は、JALで行ったんだけど、松山空港で案内してくれる地上係員のおねえさんが
ローマ字を棒読みしようとしていた
ので、中国語で話しかけたとたん、緊張した表情が一挙に弛んだ。
日本語話者は、日本語以外話さないだけでなく、クレームが多い
と恐らく、申し送りされてたんじゃないのかな。かわいそうに。以後は、ずっと國語で説明してくれた。
今回も、行きのキャセイ機内で、日本語担当のCAのおにいさんに中国語で答えたら、やっぱりさらに愛想が良くなって、すごく親切にしてくれた。キャセイのおにいさんは香港ベースの筈なので、母語は広東語だったが、それでも
普通話
の方が、日本語よりはウケがいいのである。
台湾を根城に、世界を飛び回っている畏友amdoさんとも
なんだって日本人が中国語を話すと、あんなに歓迎して貰えるんだろう
という話になった。当然、
大陸でも同じことはいえる
わけだ。で、amdoさんがいうには
英語を話しても歓迎される
んだって。つまり
日本人は「日本語以外ほとんど話さない」自閉的な人たち
と思われているらしい。
日本で外国人観光客が来ると
ちょっと日本語を話すと大歓迎する
わけなんだけど、日本人が外国に行く場合
現地の挨拶さえも覚えていかない
のだったら、やっぱりあんまり歓迎はして貰えないかも知れないね。日本人の持っている
お金
は歓迎してくれるかも、だけど。
いま、まさに中国人が
中国マネー
で、日本人を札束で張り倒す勢いになりつつある。いろんな店が
中国語対応
を打ち出しているのを見ると、
金を見て、ヒトは見てない
わけだ。要は
ATMとしての中国人が大事
なわけで、これこそが
かつて海外で、日本マネーでぶいぶい言わせていた日本人観光客の「海外での見られ方」
だってことがわかる。
以後、現在の日本の凋落は
日本語学習者が増加しない
ってことで説明がついている。極端に減少してないのは
アニメと漫画のおかげ
だったのだが、そのアニメや漫画のバブルも弾けたとかいう話で、一定数は必ずいる「オタク」以外に、爆発的に日本語話者が広がるか、というと、結構難しいだろう。なんたって
日本語を習得していて、経済的メリットがある(商談等で日本語必須)
というと、こっちが怪しいわけだから、
だったら、ひらがなとかカタカナとか「音読み」「訓読み」などの面倒な手続きのいらない、「漢字一本勝負の中国語」学習へ
と勢いは着いていく。
ま、日本人は比較的外国語を習得している筈なんだけど、多言語展開だと、どうだろう。
最近、若手気鋭の研究者が
フランス語が読めないから
とかつぶやいているのを見て、愕然とした。大学の後輩に当たるんだけど、
フランス語みたいな、必要語彙数が極めて少ない言語
を、
読めない
とか、少なくとも
世界に丸見えのtwitterで言っちゃう
って、恥ずかしいんだけど。まさかと思うけど
教養は第一外国語が英語で第二外国語が中国語
とかいう、
省エネ選択
だったんじゃないだろうな。中国学をやるんだったら、中国語の習得は当然だとしても
ヨーロッパの言語をもう一つ入れる
てのが、あるべき心構えだと思ったんだけど、最近は違うのか。まあ、フランス語は読めるようになるまでにそんなに時間のかからない言語だから、頑張ってくれ。オレは悲しいよ。フランス語がダメってことは、たぶん
ギリシャ語ラテン語等古典語もダメ
なんだろう。フランス語でたじろいでるというのはたぶん
文法にたじろいでいる
んだろうからな。ギリシャ語ラテン語のどちらかやっていれば、フランス語は恐るるに足らない。京大はフランス語のインテンシブコースという有り難い授業が毎年開講されていたんだけど、最近はどうなんだろう。
5コマ目を使った授業で、初級週4コマ、中級週3コマ
で、いやでも実力が付く。
フランス語のインテンシブコースでフランス語の単位を取って、いまは某国立大学でドイツ語を教えている同級生
もいる。まだ、このコースがあるのなら、在学生は是非利用してくれ。日仏へ行くよりはお得だと思う。
まあ、最近は
英語さえ出来れば大丈夫
だって、みんな思ってるみたいだからな。それって結構な落とし穴があるんだが、日本の大学ではそこまでは教えてくれない。
で。誰が言ったか忘れたけど
外国語が出来ない、というのは怠け者の言い訳
という言葉を、噛みしめて自戒したい。そういう意味で、昔中国の小学校の教室に掲げられていた、この言葉は外国語習得の真理だ。
好好学習、天天向上!
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コメント
話しても話しても「聴不懂」の繰り返しで筆談せざるを得なかったわたしはいったいどうすれば。向こうに4年以上いてほとんど身につかなかったというのは論外級かもしれませんが(新加坡人の上司にさえ「中国語話されてもわかんねーから英語で話せ」という仕打ちを受けたほど)、上海で話す普通話と、一般的な普通話ではまた発音が違うので厄介です。上海で普通話を覚えても、他地域ではまず通じないところが困ったものです。中国東北部だと普通話がきれいなので学習向きではあります。
自分が学生の頃の第二外国語は「発音が楽なドイツ語、文字で分かる中国語、女性受講者が多いフランス語」という選択でしたが、今だったらもっと発音が楽なスペイン語を取っているところです(スペイン語が第二外国語という大学は余り無いですね)。
投稿: SY1698 | 2011-02-22 17:59