« 福島第一第二原発事故 輪番停電のスケジュール表が格好いい件 | トップページ | 東北地方太平洋沖地震 NHK、救出男性の病院到着時、搬送ルートにカメラを構えて追っかけ撮影→「9日振り救出」ではなかった模様 »

2011-03-19

福島第一第二原発事故 昔理系の学生だったお父さんお母さん達へ

これは、今大人で、昔、理系の学生だった方達への呼びかけです。

twitterの物理クラスタの有志の方達が、アメリカのカリフォルニア大学Ben Monreal教授が作って下さった
 福島原発の放射能を理解する(PDF 全32枚)
という講演スライドを、日本語訳してくれました。


福島原発の放射能を理解する カリフォルニア大学のMonreal氏によるスライド

オリジナルバージョンへのリンク

翻訳者:
野尻美保子(高エネルギー加速器研究機構/東京大学IPMU)
久世正弘(東京工業大学理工学研究科)
前野昌弘(琉球大学理学部)
衛藤稔・石井貴昭・橋本幸士(理化学研究所仁科加速器研究センター)
  翻訳の許可をオリジナル作成者よりいただいています。
2011年3月18日:バージョン1を公開

素粒子原子核分野の研究者/院生の皆さん

今回の震災に起因した福島原発の事故について国民の不安が高まっています。チェルノブイリのようになってしまうと思っている人も多いです。
放射線を学び、利用し、国のお金で物理を研究させてもらっている我々が、持っている知識を周りの人々に伝えるべき時です。

アメリカのBen Monreal教授が非常に良い解説を作ってくれました。もちろん個人的な見解ですが、我々ツイッター物理クラスタの有志はこれに賛同し、このスライドの日本語訳を作りました。能力不足から至らない点もありますが、皆さん、これを利用して自分の周り(家族、近所、学校など)で国民の不安を少しでも取り除くための「街角紙芝居」に出て頂けませんでしょうか

よろしくお願いします。

全部で32枚あります。
もし、あなたが、理系の学生だったことがあるなら、理解出来る内容だと思います。(高校以来、物理をやってないわたしでも理解出来る、きちんとした説明です)

まず、あなたが読んで理解して下さい。
そして、理解出来たら、あなたの周りで、今回の
 福島第一第二原発事故の影響に不安を覚えている方々
に、説明してあげて下さい。そう難しくはないだろうと思います。

教育課程にもよりますが、原子核物理学の初歩は、高校の物理II等でも教わったかと思います。大学の教養課程では、更に難しい内容を勉強したでしょう。思い出して下さい。
同位体を扱う仕事をされている方、学校の先生方、子育て等でいまは大学からも研究からも離れてしまったけど知識のある、特に女性の方々、職場で、学校で、近所で、家庭で、きちんと説明してあげて下さい。
大学には、国公立・私立を問わず、国から補助金が出ています。言い換えれば、大学生は皆、少なからず国民の税金で援助して貰って、勉強しているのです。あなたの大学での学問を支えてくれた国民に対し、恩返しができるのは、いまこの時です。

このスライドのさわりの部分を引用しておきます。

わたしたちは普通に暮らしていても、放射線を浴びています。
その量は、住んでいる場所、環境、ライフスタイル(飛行機に頻繁に乗るなど)によって違いますが、1年間で
 1.5〜7mSv(ミリシーベルト)/年
です。これは
 1年間で浴びた放射線の総量が1.5〜7mSv(シーベルトは放射線量の単位)になった
という意味です。
Bm1

放射線の量は
 時間当たりの放射線量×時間
で表します。だから
 mSv/h

 1時間で〜ミリシーベルトの放射線量
という意味になります。

そうそう、「単位が苦手」という方のために、ミリ・マイクロのおさらいをしておきましょう。
長さではどうでしたっけ?
 1cmの1/10が1mm(ミリメートル)
でしたよね? 日本人の髪の毛の太さの平均は
 0.08mm
ですが、これは
 80μm(マイクロメートル、以前はミクロンと呼んでいた)
になります。
 1m=1000mm=1000000μm
です。だから、
 ミリ(m)は1/1000(1000分の1m ここまでは小学校で習いました)
 マイクロ(μ)は1/1000×1000(100万分の1m)
でしたね。

一体、どれだけ放射線を浴びたら、健康に被害が出るのか。
これは放射線被曝とガンの発生率をまとめたものです。
Bm2

1000mSv、つまり1Svの放射線を浴びるとどれだけガンが増加するか。
 1万人あたり白血病の患者が3人増えます
 1万人あたり乳がんの患者が7人増えます
 1万人あたり甲状腺がんの患者が1.6人増えます
 1万人あたり肺がんの患者が4人増えます
 1万人あたり胃がんの患者が5人増えます
 1万人あたり結腸がんの患者が2人増えます
というわけで、劇的にガンが増えるわけではない、というのがおわかりになるのではないでしょうか。

じゃ、急激に放射線に晒された場合、どのくらい放射線を浴びると危険なのか。
過去の不幸な事例は
 5Sv=5000mSv以上で命の危険がある
ことを示しています。
Bm3

アメリカのニュースでも、福島第一原発事故での放射線量を報道しています。
いま、福島第一原発の復旧作業に携わっている50人の作業員の方達、"Fukushima50"は、どれだけの放射線に晒されているのか。
Bm4
枝野官房長官が
 400mSv/h
という測定値を発表したのが3/15でした。
 400mSv/h×12.5時間=5000mSv=5Sv
になります。もし、この非常に高い値が12時間半続いていて、そこに止まっていたとしたら、それだけで
致死量の放射線を浴びたことになるのです。従って
 400mSv/hを人体に影響を及ぼす可能性のある数値
と発表したわけです。実際には、その後、放射線量は下がりました。

いま、東京周辺で
 放射線量の測定値
がニュースになっています。朝日の3/15の記事ですが、


新宿で通常の最大21倍放射線量 都「人体に影響ない」

2011年3月15日15時35分

 東京都は15日、新宿区内で同日午前に実施した放射線量調査で、通常の最大21倍の放射線を検出したと発表した。最大値は0.809マイクロシーベルトだった。都は「ごく微量で、人体に影響を及ぼすレベルではない」としている。

 15日午前3時台までは0.038マイクロシーベルト程度だったが、4時台に0.147マイクロシーベルトに上昇。7時台には0.051マイクロシーベルトまで落ちたが、以後は急上昇し、9時台は0.465、10時台に0.809マイクロシーベルトを記録した。


 21倍もあるの? 大丈夫なの?
という不安を煽るのに十分でした。これは見出しが悪い。
先ほども言ったように
 放射線量は時間当たりの放射線量×時間
ですから、もしこの時間、1時間新宿を歩いていたとしても、その時浴びた放射線量は
 0.809μSv/h×1時間=0.809μSv
です。確かにごく僅かな量ですね。

こんな風に、このスライドはいろいろな疑問に答えてくれると思います。
ただ、アメリカ人がアメリカで説明するために作ったスライドなので、その点は考慮して、説明の材料に使ってみて下さい。
 このスライドを説明する
のではなく
 このスライドを「使って」説明する
んだ、という、昔、発表でたいてい誰もが一度は教官に「指導」されたポイントを思い出して、ご利用下さい。

|

« 福島第一第二原発事故 輪番停電のスケジュール表が格好いい件 | トップページ | 東北地方太平洋沖地震 NHK、救出男性の病院到着時、搬送ルートにカメラを構えて追っかけ撮影→「9日振り救出」ではなかった模様 »

コメント

p.30 (原文p.29), 「注意すべき核種」で、セシウム137の線量は30年で1mSvという(非常に小さい)解釈でよいのでしょうかね?
それとも年に1mSvが30年続いたのでしょうか?

投稿: keigoi | 2011-03-19 11:03

それなりの規模の病院には放射線科があり、
放射線科は放射線関係の測定機材を持ち
独自に観測できる。
つまりウソをついたら即、バレる。
被災地には各国の救助隊が、沖合には米海軍が展開している状況は
原発事故関係でウソを付ける状況ではない。
その程度のことすら理解できない人がなんて多いことか。

嘆かわしい。

投稿: nyamaju | 2011-03-19 17:31

私も大学・大学院で物理を専攻していました。(物性物理なので原子炉は素人ですが)
福島原発の事故では友人・知人・家族もかなり動揺しており、説得に苦労しています。
この資料はわかりやすいですが、下記の問題があると思います。
1. 内部被曝についての言及がない
2. 1号機、3号機の水素爆発とそれに伴う放射性物質飛散についての言及がない
3. 使用済核燃料プールの水が蒸発し核燃料が露出していることへの言及がない
上記3点も解決可能で大きい問題ではないと説明する必要があります。
(3/18時点の報道では原子炉格納容器よりも3.が最も問題だとされています)

投稿: HN | 2011-03-20 03:27

HNさん
>1. 内部被曝についての言及がない

甲状腺シンチグラフィという検査があります。
放射性ヨードを患者さんに直接投与し、
甲状腺に集積した放射性ヨードの放射線を計測、画像化する検査なんですが、
このときに使われる放射性ヨードの被爆量が7MBqちょい。

東京都内北部のうちの病院で観測された大気中の放射性ヨードのデーターだと
大量放出された日(確か北風)の最大値で50μBq/mlちょっと
仮に50μBq/mlとし、体重70kgの人なら、1回換気量700ml、呼吸数10回/分くらいなので、100%吸収の場合で504Bq/日と
一日を通じて最大値で100%吸収の場合でも検査時の被爆量の1/14000程度。
1年間続いても1/40程度
人生80年として、この間この状態でシンチグラフィ2回分
北関東あたりはこの倍くらい。

こんなデータが身内から出たもんだから、うちの病院の医師達、
被爆に関しては全然感心無いですね。

投稿: nyamaju | 2011-03-20 13:57

>1年間続いても1/40程度
ごめんなさい、長期間は蓄積と半減期を考慮しなくてはなりませんね。
代謝無視して一日500Bqの放射能が蓄積し続けるとして、半減期8日でエクセルさんに計算してもらうと、
1ヶ月半くらいで6MBq/日くらいの定常状態になりますね。
2週間に1回のシンチと同等くらいかな?

投稿: nyamaju | 2011-03-20 16:53

私も、ブログ本文に書かれている内容までは、十分理解出来ますが、HNさんの書かれている3点
1. 内部被曝についての言及がない
2. 1号機、3号機の水素爆発とそれに伴う放射性物質飛散についての言及がない
3. 使用済核燃料プールの水が蒸発し核燃料が露出していることへの言及がない
が同じく気になります。
1は、少し勉強すればわかりますが、2,3については、(私自身のその分野の知識が弱いのと、+)現在進行形の事ですし、難しいですね。

投稿: babclyde | 2011-03-21 23:23

原子力は20世紀の技術
放射能については長期的な面でわかっていない点が多いと思います
自然界に存在する放射能の21倍と表現することのなにが悪いのかわかりません

それから個人的に納得がいかないのは
いまさら放射能漏れの安全性を主張するなら
なぜ原発の建設や誘致前にそれが主張できなかったのかという点

そして事故が予測できなかった
あるいは(僕は予測はできていたと思っています)事故がおきた場合に
速やかに放射能汚染を最低限にとどめる対策を考え広く議論することを怠っていた
この分野の専門家が言うことをいまに至って信じなければいけないかという点

どうしても納得いかないです

投稿: ak | 2011-03-26 03:42

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 福島第一第二原発事故 昔理系の学生だったお父さんお母さん達へ:

« 福島第一第二原発事故 輪番停電のスケジュール表が格好いい件 | トップページ | 東北地方太平洋沖地震 NHK、救出男性の病院到着時、搬送ルートにカメラを構えて追っかけ撮影→「9日振り救出」ではなかった模様 »