大庭脩『漂着船物語ー江戸時代の日中交流』岩波新書新赤746 2001年8月
故大庭脩先生には二つの研究の柱があった。一つが漢簡で、もう一つが
日中の書物交流
である。本書は後者に関わるエピソードから
漂着船
に着目し、一般読者向けに江戸時代の日中貿易の一端を描き出した書物である。
漂着と漂流について、大庭先生は
外国人や外国船が日本に流れ着いたのが漂着
日本人や日本船が日本から異国へ着いたのが漂流
と区別をされている。鎖国政策の中で、漂着も漂流も、いずれも厳密に取り扱わねばならぬ事象であり、貿易の本筋からは外れていたが故に、詳細な記録が残った。通常の貿易の記録は、古くなると廃棄されていたようで、実は余り残らなかった。ここに大庭先生の非凡な着眼点がある。
大庭先生は2002年11月に亡くなられたので、本書は、先生の最晩年の著作ということになる。「書後私語」と題された、やや長い後書き部分で、大庭先生は、昨今の学徒の研究の仕方を嘆いておられる。その言葉は今も鞭となり、われわれを励ます。いやしくも、歴史学に片足を突っ込んだことのある研究者であれば、この「書後私語」だけでも一読して、背筋を正さねばなるまい。
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