ガレノスのお勉強
199年頃に亡くなった、論争好きな男ガレノス。五賢帝の掉尾を飾るマルクス・アウレリウスの侍医でもあった。彼の学問は
この後1300年以上、西洋医学の基準として生き続ける
のである。
あれほど詳細で美しい解剖図を出版したヴェサリウスが
ガレノスの誤りの一つである「心室中隔の小孔」
について、Fabricaの初版では論駁し得なかったというのは、ガレノスの影響がいかに大きかったかを伺わせるエピソードとして語られるのが常だ。
で、『周礼注疏』演習の後、附属図書館に寄って、ガレノスの参考書を借りてきた。
内山勝利先生達の手によるガレノスの原典からの和訳が、京大学術出版会から出ている。
ガレノスI ヒッポクラテスとプラトンの学説
ガレノスII 自然の機能について
解説はIIに詳しい。
日本では西洋古典学はマイナー中のマイナー。仏教学に梵語梵文学が関わりを持っているのと比べると、ラテン語・ギリシャ語をばりばり読むというのは、かなりしんどい。ただ印度学は世界中でもマイナーだけど、西洋古典学は西洋のあらゆる学問の基礎といってもよいものだから、日本はどうあれ、世界中では常にある程度の水準が保たれていると思われる。
京大では、以前は西洋の言語を専攻するものは
ラテン語・ギリシャ語必修
だったから、古典語を遠く離れた、英語英米文学専攻の諸君には、呪詛の対象となっていた。
最近は、西欧の大学でも、ラテン語・ギリシャ語は学習者が少なくなったらしいけど、私立の中高では、伝統を守り、今でもラテン語・ギリシャ語をやってるところがあるようだ。
ガレノスの著作から、主要な論文を抜粋した英訳本がOxfordから出ている
P.N. Singer, Galen Selected Works
なんだけど、現在版元品切れらしい。西洋古典学の名に恥じず、軽便なペーパーバック版であるにもかかわらず、15篇のガレノスの論文を収め、かつ詳細な注釈が施され、内山先生が解説でも特に言及している。
京大の有り難いところは、
大抵の必要な書物は揃っている
ということだ。
いま挙げたのは
ガレノス入門
で、附属図書館でも開架に配架されているような一般書だが、医学史プロパーの研究室はない京大(科学哲学科学史はあるけど)でも、もっと突っ込んだ専論がちゃんと購入されて、必ずしも医学史とは関係のない、いずれかの学部学科の書架に収まっている。
3回生の頃、仏文の宇佐美先生のランボーのレポートを書くのに、フランスで出版された
ランボーの詩に出てくる「母音の色」についての専論
を、今は亡き紙ベースの目録で探し当てたときは、吃驚したけど、本屋の持ってくる見計らいから的確な書物を確実に選んで購入する伝統は脈脈と続く。
ちなみにランボーは、中高生時代、ラテン語作文がよくできた。
原典読む気があるなら、ガレノスのコンコーダンスも出ている。
Richard J. Durling, A dictionary of medical terms in Galen
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