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2011-06-27

第14回チャイコフスキー国際コンクール(番外編)実力なき者は去れ 才能には手厚いバックアップを ロシアの音楽早期エリート教育

Daniil Trifonovや、去年のショパンコンクール優勝者のYulianna Avdeevaが
 日本で小学校から高校卒業までに当たる課程を学んだエリート音楽校
は、
 モスクワのグネーシン音楽学校
という。現在、14歳の日本人ピアニスト松田華音さん姉弟が学んでいて、お母さんがblog「華音学」で、その選抜の厳しさを紹介している。
2011-05-21 試験シーズン
2011-05-26 弦楽器科の進級試験
一部を紹介する。


グネーシン音楽学校では、一年生の入学試験、12年生の卒業試験に次いで大切な試験として、5年生・9年生修了時に実施される選抜試験があります。
これは、一段上の専門カテゴリーに上がるための試験というのでしょうか‥、特に9年生の試験は、より本格的な音楽専門教育に至るための重要な関門となり、必ず大学からの教授達も審査員として参加して試験が行われ、合格基準に満たなかった生徒は、除籍を余儀なくさせられる厳しいものです。

この厳しい選抜試験の他にも、2年生・7年生修了時には進級試験があって、この進級試験も非常に重要な節目となりますが、選抜試験と違うところは、ここでは合格点に満たなかった場合でも除籍は行われません。
いずれにしても、生徒達は、2年に一度、選抜試験または進級試験という緊張の年が回ってくる事になります。
勿論それ以外にも、全学年の生徒が、各学期(ロシアは4学期制です)の中で最低一回は中間試験を受ける必要がありますから、子供達なかなか大変ですねっ

で、
 グネーシン音楽学校には4年生がない
そうで、
 1・2・3・5 が初等教育(小学校中学年まで)
 6・7・8・9 が前期中期教育(小学校高学年から中学)
 10・11・12 が後期中等教育(高校)
に当たるという、11年課程の教育が行われている。音楽学校では
 音楽実技や理論
の他に
 一般教育(普通の学校で教わる内容)
もあるので、すべての試験にパスする必要がある。

評価基準は、5・5-・4・4-・3の五段階で
 3は音楽家としての将来に問題あり
 4-も続けて取ると、除籍対象になる可能性あり
だそうで、現在7年生の弟(弦楽器 ビオラ)のクラスでは
 前回の5年生の選抜試験で3だった生徒が、今回再び3を取って除籍
になったほか、
 今回4-の評価だった生徒は2年後の9年生で成績が上がらなければ除籍
だとか。音楽学校の除籍は
 正規の音楽教育を受けたプロの音楽家になるのは諦めろ
という宣告を下されることと同義になるのだ。
スポーツなら、ケガが大きな転機となるが、ロシアは音楽教育ではこうした
 評価による早期の進路変更
によって、才能や教育資源の無駄遣いを避けようとしている、とも言えるだろう。クラシック音楽の場合、正規の音楽教育を受けるのであれば、才能を見いだし伸ばすのは早い時期から、そして音楽専業の道を進ませるかどうかも、適性を早い時期に見極めるのが大事だろう。一般教育も重視し、エリート音楽教育脱落者が陥りがちな
 楽器も満足に弾けないけど、人間として最低限できなくてはいけないことや、一般社会に必要な知識も欠いている
という人間を育てないようなシステムになっている。

羨ましいのは
 演奏環境が整っている
ことで、音楽学校の生徒達は、さまざまな機会を与えられて、幼少時から演奏を披露できるようになっている。小さかったTrifonovも、こうした教育制度下で頭角を現し、卒業後は、アメリカに渡って、現在はクリーブランド音楽院在学中である。

音楽の才能を見いだすやり方は日本とは異なる。上記blogの記事
 2010-10-26 ショパンコンクール優勝者を育てたグネーシン音楽学校の音楽教育
によると、


予科の2年間と本科11年間のいわゆる音楽英才教育校です。
(略)
2年間の予科である0年生のシステムを少しご紹介しますと、一年目の0年生には、5歳の子供達が、2年目は6歳の子供達が入学できて、定員はピアノ科でだいたい25~30名です。
予科に入学するための選抜試験では、子供の基本的音楽要素、つまりその後音楽専門教育を受けるための適正が選抜基準となります。
それが今後バランス良く音楽的成長を遂げることができるかどうか、予科では子供達の成長過程が様々な観点から記録され、じっくり観察されていきます。
そしてその後、本科一年生への正式入学のための入学試験を受けるわけですが、予科で学んだ子供達が全員進めるかというと、試験は外部からの受験者(毎年平均して5名~7名ほど)も合わせて行われ、入学できるのは平均10名から13名ほどに絞られてしまいます。(定員制ではなくて、100点満点制です)
ちなみに入学試験では、技巧的なものよりも、『音』そのものに対する感性と姿勢により大きな評価の比重が置かれて観察されます。技巧的な部分は時間をかけて強化・修正していくことができると考えられますが、音の捉え方は個性そのもの、天性のものを表し、音楽家としてのその子の将来を決定的に左右する絶対的な要素であると考えられるようでした‥‥。


 テクニックではなく「音のとらえ方」を「音楽の天分をあらわすものとして評価するシステム」
だとか。
 難しい曲を弾きこなせる子ども
ではなく
 音に対する豊かなイメージを持てる子ども
を選んでいるのだろう。そして何より
 100点満点制という「絶対評価」による選抜
で、
 定員がない
ことが、
 音楽という、数値化できない才能を選抜する側の「良心」を表している
ように思う。

音楽の才能に恵まれた子ども達へのバックアップには、ロシア各地で音楽を学ぶ生徒達を励ます催しがあり、14歳以下の生徒を対象とした
 2010-10-28 くるみ割り
など、全国規模のものもある。なお、松田華音さんは10歳の時に、この「くるみ割り」コンクールピアノ部門で優勝した。Trifonovも優勝している。
ロシアの全国放送が、コンクールの様子を放映するので、それも参加する子ども達の励みになっているようだ。
「くるみ割り」コンクール優勝後も、松田華音さんはたゆまず努力し、進歩されているようで、ロシアで将来を嘱望される「才能ある若手音楽家候補」として、各地のコンサートやコンクールに招待されている。

というわけで、去年のショパンコンクールでも今年のチャイコフスキー国際コンクールピアノ部門でも、ロシアの音楽好きの間では
 ああ、あの子ね
という目で見られている1人が、Trifonovなのだろう。「くるみ割り」コンクールで優勝したあの小さいダニーチカが、大人になってチャイコフスキー国際コンクールに帰ってきた、というわけだ。

それにしても、これほど手厚い教育を行っても、
 成功する音楽家は一握り
なのだから、クラシック音楽の道は険しい。

日本では、文科省が
 定員不定の学校
など作らせてはくれないので、こうした、ある意味厳しく、恵まれた教育を公立・国立で行うことは無理だ。

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