赤い靴
電車で向かいにマクラーレンの大きなベビーバギーを横向きに置いた、親子三代がいた。恐らく
母親とその娘に産まれたばかりの孫
という組み合わせだろうと思う。赤ちゃんは笑ったり、いろいろ反応したりしているので、3カ月くらいかな、と思うのだが、身体は2カ月ちょっとくらいの感じでサイズが小さめだ。お母さんが随分と細いから、生まれたとき、そんなに大きくなかったのかも知れない。
顔の綺麗な赤ちゃんで、かわいらしい。
おばあちゃんは実に上品で、さりげなくお洒落をして、にこにこ笑いながらやさしく声を掛け、娘と孫の世話を焼いている。
途中の駅でその親子三代の横に、デパートでたくさん買い物をしたらしい女性が座った。足には真っ赤なエナメルのサンダルを履いている。ルージュもサンダルと同じ深紅だ。ところが、なんだか赤ちゃんが苦手なのか、随分間を開けて座っている。
はて、とよく見てみると、どうやら
赤いサンダルの女性と孫を連れているおばあちゃんはほぼ同世代
らしいのだ。抽象的にデザインされた植物柄のプリントのスカートをはいているその女性とおばあちゃんはたぶん60代だろう。赤いサンダルの女性は赤ちゃんのお母さんの横に座ったのだが、反対側、おばあちゃんの隣には、これまた年かさの、ばっちりお洒落を決めている女性が座っている。こっちはおばあちゃんより更に年上かも知れない。こちらの女性もあまり赤ちゃんが好きじゃないような様子で、時々、赤ちゃんに目をやっている。
赤いサンダルの女性ともう一人の年かさのお洒落な女性が独身なのか、家族がいるのかはわからない。ただ、二人共
個人の領域を赤ちゃんに侵されまいとしている
ように見えた。二人共、おそらく、いまも働いている女性なのではないか、という感じがした。
赤いサンダルの女性は、実に暗い表情になっていた。赤ちゃんを見ると、にこにこする人が多いので、よりその表情の暗さが目立っていた。
その内、わたしの隣の席が開き、赤いサンダルの女性がわざわざ移ってきた。そして、すぐにハンドバッグから化粧水を取り出して、ぱちゃぱちゃと顔に塗り始めた。
赤ちゃんは、周りにいる女性の年齢を明らかにしてしまう。
おばあちゃんの様子と、赤ちゃんのお母さんの様子を見ていると、娘は30をとうに過ぎてからの出産で、普段は、母親とは離れて暮らしているようだ。ひょっとしたら、震災を期に、関西に引っ越してきて、こちらで出産した人なのかも知れない。親子二人共、言葉が関東より東のアクセントだった。
隣に移ってきた女性は、まだ電車の席で化粧品を顔に塗っている。ほどなく終点に電車が着いたので、その後どうなったかはよく知らない。
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