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2011-10-10

九大図書館 濱一衛の中国演劇コレクション

中国語の勉強を始めた頃、劇迷(芝居マニア)の小笠原周さんが、中国の伝統劇の自主ゼミを開いていて、それに参加していた。最初に読み、聞いたのが、「楊家将」の一つ、京劇の
 四郎探母
で、漢族の対異民族観がよくわかる芝居である。しかし、内容はともかく、唱は聞かせ所が多く、すばらしい。1年足らずの間、いくつかの芝居のテープを聴き、中国の伝統劇について勉強した。以来、中国の伝統劇は好きだ。外国人向けの華やかな武功よりも、聞かせ所の多い演目を好む。

今回、九大では、日本中国学会の開催に合わせ、
 濱一衛と京劇展・濱文庫の中国演劇コレクション
の展示を図書館で開いた。検索すると、2008年にもこのテーマで展示が行われている。
 濱一衛と京劇展-濱文庫の中国演劇コレクション- 第50回附属図書館貴重文物展示
これが、実に得がたいものだった。

後に九大の中国文学研究室の教授となった濱一衛は、鈴木虎雄が教授を勤めていた京都帝国大学文学部支那語支那文学専攻を昭和八年に卒業した。濱の在学当時の昭和六(1931)年、助教授の倉石武四郎が中国留学から帰国、魯迅の小説を学部の講読の授業のテクストに用いるなど、中国文学研究の新たな道を開いた。濱は、その後、京都帝国大学派遣外務省文化事業部留学生として昭和九(1934)年〜十一(1936)年に北京に留学、劇迷であった濱は、せっせと芝居小屋に通う一方で、関連する資料を大量に集めた。それが、九大図書館の濱文庫に収められている。劇迷が寸暇を惜しんで集めた資料が面白くないわけがない。

今はなくなってしまった大小の芝居小屋の引き札、入場券や演劇・芸能関係の冊子類など、当時、北京にいなければ入手できなかった貴重な資料を始め、劇迷濱一衛の全てが詰まったコレクションの全貌を見渡せるよう、工夫して展示がなされている。会場内では、京劇のCDも掛かっていた。

先日、解放(中華人民共和国成立)直後の梅蘭芳の消息を伝える報告を、違う機会に聞いていただけに、解放以前の北京の演劇の様子を生き生きと伝える濱一衛コレクションには、別な感慨を抱いた。

ちなみに、濱一衛は、魯迅(本名は周樹人)の弟、周作人の家に下宿していた。

九大の『中国文学論集』第四号、濱一衛の退官記念号はこちら。
濱一衛先生退官記念号(PDF)

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