生殖補助医療によって生まれる子どもの先天異常発生率は自然妊娠の1.3倍@1986年〜2002年に行われた南オーストラリア州全不妊治療のデータ解析(先天異常に脳性麻痺を含む)→女性の不妊歴は子どもの先天異常発生リスクを高める
日経メディカルオンラインによると、不妊治療によって得た赤ちゃんについて、非常に気になる分析結果が、オーストラリアで出ている。
生殖補助医療によって生まれる子どもの先天異常発生率は、自然妊娠の子どもの1.3倍
というものだ。
自然妊娠と比較したオーストラリアのコホート研究
原論文は、NEJM誌5月10日号の論文に掲載された。概要はこちら。
Reproductive Technologies and the Risk of Birth Defects
この研究では
人口160万人の南オーストラリア州で妊娠した女性の妊娠の転帰と先天異常があるかないかを分析
したもので、基礎となるデータは
1. 1986年1月〜2002年12月の南オーストラリア州で行われたすべての不妊治療の情報
2. 同州で報告が義務づけられている、20週以降または体重400g以上でのすべての出産と流産、死産に関する情報と母親の健康状態に関する情報
3. 5歳の誕生日までに明らかになったすべての先天異常
である。この
先天異常の定義
だが、
脳性麻痺とあらゆる妊娠週数での先天異常による中絶または流産
を含んでいる。
脳性麻痺が先天異常に含まれているところがポイント
だ。
分析では
1. 生殖補助医療を受けた女性の妊娠
2. 過去に生殖補助医療を受けて妊娠した女性の自然妊娠
3. 不妊と診断されていたが生殖補助医療は受けていなかった女性の妊娠
4. 不妊症の記録がない女性の妊娠
について
赤ちゃんが妊娠中から5歳の誕生日より前に先天異常と診断されるリスクを推定、比較
した。そして
20歳以上の母親の妊娠は30万8974件
の内
6163件が生殖補助医療によるもの
だった。また、あらゆる先天異常の発生率は
生殖補助医療による妊娠 8.3%(513件)
妊症診断歴がない女性の自然妊娠 5.8%(1万7546件)
と、
生殖補助医療を受けた妊娠の先天異常発生率は高い
ことがわかった。
未調整オッズ比は1.47(95%信頼区間1.33-1.62)
である。オッズ比が1より大きいというのは、
発生率が高い(発生率が同じなら1)
ことを示す。この数値を
母親の年齢、経産回数、胎児の性別、母親の人種、母親の出生国、妊娠の状態、母親の妊娠中の喫煙歴、社会経済的地位、両親の職業などで調整したオッズ比
も
1.28(1.16-1.41)
と、1より大きく、有意差を示した。
不妊治療の内、卵子や精子により多くの操作を伴う
体外授精(IVF)と卵細胞室内精子注入法(ICSI;顕微授精)による妊娠
を合わせて分析すると、
先天異常の未調整オッズ比 1.43(1.26-1.62)
調整オッズ比 1.24(1.09-1.41)
と
先天異常発生リスクが有意に高まる
ことを示す。卵子や精子に高度な操作を行うVFやICSI、配偶子卵管内移植(GIFT)を除いた
卵子や精子にあまり操作を行わない不妊治療によるすべての妊娠における先天異常
についても、
調整オッズ比 1.24(1.08-1.43)
となり、
やはり先天異常発生リスクが有意に高まる
ことが示された。
生殖補助医療それぞれについての分析は、次のようになった。
IVFによる妊娠
では
あらゆる先天異常は7.2%(165件)発生
未調整オッズ比 1.26(1.07-1.48)
調整オッズ比 1.07(0.90-1.26)
となる。
ICSIによる妊娠
では、
あらゆる先天異常は9.9%(139件)
未調整オッズ比 1.77(1.47-2.12)
調整オッズ比 1.57(1.30-1.90)
となって、
先天異常発生リスクが有意に高まる
ことが示されている。ただし
凍結胚移植の場合のみ、リスク上昇は有意ではなかった(1.28、0.83-1.99)
ので、研究グループは
先天異常のある胚は、多くの場合凍結から移植までの過程に耐えられないのではないか
と考えている。
その他の生殖補助医療では
配偶子卵管内移植(調整オッズ比1.55、1.16-2.07)
子宮腔内精子注入法(1.32、1.01-1.73)
さらに、適用された患者の数は少なかったが、
クエン酸クロミフェンを使った自宅での排卵誘発
では
調整オッズ比 3.39、1.61-7.13
と非常に高い数値を示している。
いずれの不妊治療も、先天異常発生リスクが有意に高まる
結果となっている。
また
不妊症である親の側の要因が先天異常リスクを高めるかどうか
を分析するために
不妊症ではない女性の自然妊娠
過去に生殖補助医療による妊娠を経験した女性の自然妊娠
の
あらゆる先天異常発生率
とを比較したところ、
調整オッズ比 1.25(1.01-1.56)
となり、
生殖補助医療は受けたことがないが、過去に不妊だった女性の場合
では
調整オッズ比は1.29(0.99-1.68)
と、
先天異常リスクが高くなる
傾向があった。
すなわち
不妊歴がある女性では、生殖補助医療による妊娠でも自然妊娠でも、先天異常児となるリスクが有意に高い
という結果になったのであり、このことは
女性自身に先天異常リスク上昇にかかわる要因が存在
ことを示唆している。
不妊歴が先天異常発生リスクを高めるという結果について、研究グループは
不妊歴のある女性が、生殖補助医療施設以外の医療機関からクロミフェンの処方を受けていた可能性は否定できない
としている。
ちなみに、クロミフェンは
最も普通に使われる排卵誘発剤
である。
生殖補助医療を受けても、
ほとんどは健康な赤ちゃんが生まれる
のではあるが、この研究によれば
生殖補助医療を受けた女性の妊娠は、不妊ではない女性の自然妊娠に比べると、先天異常リスクは有意に高い
のである。
この研究の意味について、研究グループは
不妊治療を受ける際のカウンセリングに役立つ
と、述べている。
何度も不妊治療を繰り返しても、なかなか子どもが授からない場合、
これだけ努力したのだから、「完全無比な子どもが生まれる」
という願望が強まることがあるが、今回の研究では
不妊症自体が子どもの先天異常発生率を高める
としている。但し、
オーストラリアでは「脳性麻痺も先天異常」
であり、なおかつ
5歳までに判明したすべての先天異常
および
妊娠20週以降または400g以上のすべての出産と流産、死産
も含んだ統計なので、
無事生まれて来た赤ちゃんすべての先天異常発生率ではない
ことに留意したい。
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