「自然に生まれる」よりも37〜41週の満期産では計画出産の方が周産期死亡リスクが低い@1981〜2007年 17万6136人の妊婦の分析 イギリスの研究
出産の神話の一つに
赤ちゃんは生まれてきたい時に生まれてくるんですよ
というのがある。これは本当なのか。
日経メディカルオンラインに、BMJ誌2012年5月19日号に掲載されたイギリスの研究として
妊娠37~41週の計画分娩は周産期死亡リスクが低い 医学的な必要性のない計画分娩の転帰を、自然な陣痛を待つ待機的管理と比較
が紹介されている。(要登録)
この記事によると、この研究は次のような条件の妊婦を分析したものである。
1. 満期産に相当する、37~41週で行われる、医学的必要性のない誘発分娩(計画分娩)が周産期死亡に与える影響を調べた
2. 分析対象は、スコットランドの産科部門で1981~2007年に扱った、妊娠37週から41週の妊婦による単生児の分娩
3. 研究期間中の分娩は160万5601件で、単生児の分娩は158万5319件だった。このうち妊娠週数などの条件を満たしたのは127万1549人の妊婦で、うち93万8364人に待機的管理が、33万3185人に誘発分娩が適用、誘発分娩のうち15万7049人は医学的に必要とされたもの、残りの17万6136人が今回の分析の対象になる計画分娩
上記の
待機的管理
というのが
自然に生まれるのを待つ出産管理
である。
さて、この
1981〜2007年の17万6136人の妊婦の計画出産群と93万8364人の待機的管理群
を比較分析したところ
妊娠週数37週から41週までの各週において、計画分娩は周産期死亡のリスク低下に関係
していることが分かった。
たとえば
自然な頭位分娩、すなわち逆子等でなく、普通に頭から生まれてくる割合
は、
1. 39週までの各週 両群間に差はない
2. 40週以降 計画分娩群で有意に高い
ことが分かった。
その上、
帝王切開や補助経膣分娩といった手術分娩
に関しても、
計画分娩群にリスク上昇はほとんど見られなかった
だけでなく、
妊娠40週以降では計画分娩群の方が手術分娩リスクは有意に低い
ことが分かった。
その他のリスクについては
1. 分娩後の出血 38週以降、計画分娩群で有意に少ない
2. 肛門括約筋裂傷 39週と40週には計画分娩群の方が有意に少ない
3. 新生児ユニットまたはスペシャルケアユニットへの新生児の入院 妊娠40週までのどの週も計画分娩群で有意に多い
1は、出血量が余りにも多いと、お母さんも赤ちゃんも危なくなる。出来るだけ少ないのが望ましい。
2は、お母さんの産後の生活の質に関わる。かつて麻酔がなかった時代には、多産であったためにこうした損傷を受ける機会は今よりも多かったが、手術が難しいこともあって、肛門や尿道が傷つき、日常的に糞尿を垂れ流さざるを得なくなった母親達が少なからず存在した。子どもを産んだために起きた障碍であるにも関わらず、そういう母親は、悪臭と不潔さのために家族に疎まれ、共に住めなかったことすらあったという話が伝わっている。今はそうした出産時の損傷の手術は可能だが、裂傷の程度や場所によっては、深刻な影響が出ることがある。
3について、研究グループは
周産期死亡率は妊娠週数が37週を超えると徐々に上昇し、その主因は分娩前の死産
であるので
新生児の入院=死産せずに助かった
ということを意味し、
計画分娩は死産のリスクを減らすのではないか
と考えている、という。
先進国においても
満期産になる期間の計画分娩は周産期死亡の低下に役立つ
ことが、この研究では示されている。
これまでこうした研究がなかったわけで、
生まれたいときに赤ちゃんが「母体に働きかけて生ませる」という「神話」
が
あくまで「神話」に過ぎない
ことを、この研究は示唆している。
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