襲ったのがヒグマよりは非力なツキノワグマであっても人間は骨折→とっても恐いアイヌ語会話集「クマ」の項目
先日
人里に下りたヒグマを射殺したのがけしからん
とか言ってる人がいるとか聞いたんだけど、
ヒグマを舐めている
としか思えない。
とっても酷い外傷の画像があるので閲覧要注意だが
ヒグマよりは人的被害が少ないツキノワグマに「顔を殴られた被害者」の写真つき
の
症例報告 クマ外傷の4例(PDF)
が
『日本救急医学会雑誌』Vol. 22 (2011) No. 5 発行日: 2011年05月15日
に掲載されている。被害に遭われたお一人は
ツキノワグマに殴られて、片眼を失う大けが
をされており、ヒグマより破壊力が小さいと言われているツキノワグマでも
ちょっと殴られると、大変な破壊力がある
ことがわかる。
手をクマに引っかかれた
と、報道では発表される外傷も、上記論文の外傷の説明を読むとわかるのだが
非常に傷が深い上に、クマによる外傷は治りにくい
のである。
(略)クマは襲撃時に立位をとり、攻撃部位として頭頸部を標的とすることが多い。自験例は4例とも主に頭部顔面を受傷していた。攻撃の手段は鋭い爪を持つ前肢による殴打、または咬みつくことである。そのどちらも骨折を伴う程度の破壊力を持ち、広範囲かつ深達性の軟部組織損傷を来す。(略)しかし、4例とも致命傷を生じることはなかった。これはツキノワグマが本来は人を恐れる性格であり、人と出会ってしまった結果、防禦の目的で攻撃したためと考えられる。(略)
症例1のように、顔面の広範囲な外傷を含む場合は脳神経外科、眼科、耳鼻科、口腔外科などの複数科合同の治療が必要となることも多い。(略)一般的には感染の可能性や高度の広範囲軟部組織損傷のため、治療を数回に分けて行う場合が多い。症例3や4のように表面だけの損傷にみえても内部に広範囲な剥脱創を呈していることもあるため、創の深さや範囲の確認が必要である。広範囲な顔面外傷の処置を行う場合は眼球、眼瞼挙筋、涙小管、耳下腺管、顔面神経などの損傷を確認する。これらの損傷に対しては顕微鏡下の修復が必要であり、損傷は陳旧例ほど再建が困難となる。(略)
創部の細菌感染と破傷風の予防は重要である。一般に動物による外傷は咬創による汚染の他、草木や土泥による高度の汚染が併存し、かつ創縁が複雑で挫滅を伴っていることが多く、手術に先立って創部の十分な洗浄が感染予防に重要である。クマ外傷は咬創のみでなく前肢の爪による外傷もあるが、症例2のように傷の形態から爪による創か、咬創によるものかの鑑別は困難と考えられる。しかり両者において、感染の差を記載した文献は認められなかった。(以下略)
(pp.233-235)
要するに
クマに襲われた場合は、それがツキノワグマであろうとも骨折を伴う程度の大けがをする
のである。特に
顔面損傷の場合は、外見の修復が大変なだけではなく、傷ついた眼や耳、鼻、口、そして神経にも影響が及ぶ
ことを肝に銘じて欲しい。これがヒグマなら、殴られたらおしまい、死亡である。
それでもなお
クマがかわいそう
とか言うのか。自分が熊に襲われない、安全な場所にいる人の暢気な感想としか思えない。
クマと暮らしていたアイヌの人達は、その点
クマと暮らすことの厳しさ
をよく弁えていた。
手元にある
明治31年に出された神保小虎・金澤庄三郎『アイヌ語會話字典』
には、クマの項目に次のような会話文が掲載されている。
「北海道には熊は多く居ますか」
「人を喰ひますか」
「毎年何人程喰ひますか」
そして、この字典の序文には次のように書かれている。
本書はアイヌ語を言語学上研究せんとして集めたる材料中より普通に行はるる語のみを撰びて假に辭書體になしたるもの
近くに人食い熊がいるかどうかは、この当時、
普通に警戒すべき事柄
だった。それは今でも同じで、一度人を食ったクマは、人間を襲う。
以前、中国で
パンダが可愛いから
と
動物園の檻に入り込んで、パンダに咬まれた大学生
がいたけれども、最近の日本人は
クマの怖さを忘れている
のではないのか。
そしてそれは
クマに襲われた人の被害を「できるだけ小さく、面白い話として報道する」メディアの責任
でもある。
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コメント
高山赤十字の先生方はペーパーにしたんですね!
乗鞍の事故の時ですね。これ。
被害者の方々はヘリで搬送されてきて、
うちの病院の方にも3人ほど振り分けられて
来たのですが耳から首までごそっと筋肉がありませんでした。
投稿: hexan | 2012-05-12 15:33
hexan先生、コメントありがとうございます。クマの被害に遭われた方には、お気の毒です。
クマ外傷は処置も予後も大変だと思うのですが、マスコミは「クマに襲われた」ところまでしか報道しませんからね。
投稿: iori3 | 2012-05-12 15:48