レバ刺しとは別な意味で恐い非加熱の淡水産の蟹
先日、一時帰国中の北京在住の永塚憲治氏と
生で食うなよ、こんなもの
という話で盛り上がった。永塚氏もわたしも、北海道出身で、
北海道では絶対に生で食べない魚介類を、内地のヒトは平気で刺身で食べるのに驚愕
しているのである。理由は簡単。
寄生虫がいるかもしれない
からだ。いくら流通が発達して
北海の海の幸が新鮮なまま手に入る
ようになったとしても
寄生虫がいる危険性は排除できない
のである。てか、小学生の頃
ホッケの解剖
をやって、いやというほど
虫が沸いている
のを見て以来、
安全だと思われるもの以外は、できるだけ加熱
するようにしている。残念ながら
北海道では絶対生で食べない道産の魚介類の情報
は、内地以南で共有されているとは限らないので、寄生虫の被害が出ないことを祈るばかりだ。
この
一部日本人の「生で食べられるのがいちばんおいしい」信仰
は、海外旅行でも発揮される。
海外で、または国内のエスニックレストランで、うっかり日本人が食べる
危ない生物(なまもの)の代表格
は、
非加熱の淡水産の蟹
である。
たとえば
上海蟹の酔蟹
韓国のケジャン
などだ。
以下は、ケジャンによる
肺吸血虫症の概略
である。どこでケジャンを食べたかまでは書いてないけど、
日本でも海外でも、同様に危ない
と思っておけばいいだろう。『日本呼吸器学会誌』に2009年に掲載された症例である。
症例 喀痰・胸水中より虫卵を認めたウエステルマン肺吸虫症の1例谷尻 力, 米津 精文, 鳥居 芳太郎, 杉本 博是, 横井 崇, 福原 資郎
〒573-1191 大阪府枚方市新町2丁目3番1号
関西医科大学第一内科要旨
症例は28歳,男性.1年前から血痰を認めていたが放置し,悪化するため当院受診.受診時の胸部レントゲン上,右胸水,左水気胸,多発結節陰影を認めた.詳しく問診したところ,血痰を認める1年前に生蟹をキムチ漬けにしたケジャンを友人と共に摂食していたことが判明した.末梢血好酸球増多と血清IgE高値を認めた.喀痰,胸水中より認めた虫卵の形態,および血清学的検査よりウエステルマン肺吸虫症と診断した.胸腔ドレナージは不良であったが,プラジカンテル(Praziquantel)75 mg/kg/日×3日間による内服加療により,自覚症状や画像所見の改善を認めた.一緒に摂食した友人は1カ月後に発症しており,本症が発症した場合には,感染食材を扱った調理場で料理された食品を摂食した者も含めて経過観察をする必要があると考える.
キーワード:ウエステルマン肺吸虫症, ケジャン, 虫卵, 慢性胸膜炎, 血痰
受付日:平成21年5月12日
日呼吸会誌, 47(12): 1131-1134, 2009
血痰が出たら、普通
ヤバイ
と思うんだけどな〜。28歳と若い方だから、面倒で病院に掛からなかったのかも。
ウエステルマン肺吸虫症というのは聞き慣れない病名だけど、福岡市医師会臨床検査センターの「えんしんぶんり」Vol.45(2008.4)に、次のような解説がある。
ウエステルマン肺吸虫 Paragonimuswestermanii(PDF)ウエステルマン肺吸虫は、人体肺吸虫症を起こす臨床的に重要な寄生虫の一種です。Paragonimus属の現在までに知られた種類は約10種あり、人体肺吸虫症を起こすものにウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫があります。東南アジアに広く分布し、特に日本、韓国、ベトナム、タイ、フィリピン、インドなどに多いです。日本では北海道と東北地方の一部を除き、全国的な分布がみられます。染色体の研究により、ウエステルマン肺吸虫には2倍体(両性生殖型)と3倍体(単為生殖型)があるとの報告があり、そのうちヒト感染例ではほとんどが3倍体であると言われています。
成虫の形態は、大きさ約1㎝のコーヒー豆様でありますが、宿主の種類や虫齢などによって変異に冨み大豆大から小指頭大に及ぶこともあります。生鮮時は淡紅色、半透明の胞状体であり、伸縮を盛んに行います。虫卵の形態は、黄金色で大きさ80〜90×46〜52μmの卵形です。蛔虫卵より少し大きく、左右非対称で形の不正形のものが多く、小蓋と呼ばれる蓋を有します。小蓋の反対側が尖っており、卵殻も肥厚しています。最大幅は小蓋端側にあります。内容には、1個の卵細胞と多数の卵黄細胞を有する複合卵です。類似した虫卵に宮崎肺吸虫卵がありますが、宮崎肺吸虫卵は、正卵円形で卵殻の厚さもほぼ均等なことから鑑別は可能です。
ヒトへの感染は、カニ(モクズガニ、サワガニ)の生食や、カニを調理した際に包丁、まな板、手指に付着したメタセルカリアを経口摂取して起こります。小児のカニ遊びによる感染も多く、また最近ではイノシシ肉の生食により筋肉内の幼若虫から感染した例もあります。ウエステルマン肺吸虫3倍体の寄生部位は肺であり、感染初期には腹痛、胸痛を訴えます。特有の咳、血痰が出ることがあり、時に微熱、易疲労性も見られ肺結核と間違われることがあるので注意が必要です。検査は、虫卵検出が重要で、喀痰や糞便より虫卵を検出する方法があります。また、現在ではELISA法、オクタロニー法などの免疫診断法も一般に用いられています。胸部X線検査、居住地や食歴の問診は診断する上で参考になります。
というわけで
生の淡水産の蟹を食べた後に、しばらくして(上記症例で一緒にケジャンを食べた人は1ヶ月後に発症)咳や痰がひどい
ようなら、「生の蟹をいつどこで食べた」と申し出て、専門の医療機関を受診するのをお勧めする。
まさか
沢蟹を生で食べるようなチャレンジャー
はいないよね?
内地の沢蟹は危ない
って、オトナや学校は教えないのかな。
子どもは沢蟹を素手で触るな
とか。
川遊びをして、蟹を触った後に、子どもの咳がひどいようなら
蟹から肺吸虫が寄生したかも知れない
んだけど。
子どもの頃、しつこいくらい
川遊びでのジストマ(吸虫)の危険性
を教育された覚えがあるんだが、最近はそうじゃないんだろうか。
生の淡水産の蟹だが、以前、香港で酔蟹を食べたことがあった。たまたま、これは大丈夫だった。ただ、
1回大丈夫だったからと言って、次回大丈夫とは限らない
ので、以後は生の淡水産の蟹は食べないようにしている。
加熱してあったとしても
味噌を食べる上海蟹等モズクガニの系統
は
よく火を通す
ことが推奨される。
一見、安全そうで美味しいものには危険が潜んでいる
ことがあるのだ。
寄生虫による疾病は
専門医が少なく、診断が難しい
ため、
寄生虫がいそうな食品を加熱が不十分な状態で取らないように気をつける
のが、一番だが、
自分が食べなくても、調理場が汚染されている危険性
もあるので、自分の注意だけで回避できないのが難しい。
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