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2013-01-25

中国文化が失った「好鉄不打釘、好人不当兵(釘にするのは屑鉄、兵隊になるのは人間のクズ)」という認識

昨日、劉建輝先生の『日中二百年 支え合う近代』の合評会というか、木曜セミナーが日文研で開かれた。
劉建輝先生は、1/22にクロ現に出演されたばかりなので、見た人もいるかも。
その時の放送内容全文はこちらに。
日中関係 “草の根交流”の挑戦

その後、劉先生に質問をしたのだけど
 好鉄不打鉄、好人不当兵
という言葉というか矜恃が、中国から失われたのは、
 毛沢東の施策の御陰
ではないか、という話。

江戸幕府が、武士の頂点である将軍が実権を握る、所謂「軍事政権」であったことから、日本人はあまり意識してないけど、中国では
 文>>>>>>>>>>>>>>武
という序列が長く続いた。皇帝の諡で
 文帝と武帝
ならば、「文帝」と付けられた方が皇帝としての評価としては高いわけだ。(諡は亡くなった順に付けるから、後になればなるほど、よい諡は減るのではあるが)ともかくも
 徳を以て治める
のが、中国の治世の理想であり、
 武力で制圧する
のは、それよりは遥か下のやり口だと認識されてきた。嘘でも何でも
 文を奨励する
のが、「中華秩序」の頂点にある皇帝の
 なすべき施策
である。
実を言うと、現在の
 孔子学院の海外展開
も、この
 「徳を以て治める」の現代的変形版
と言えなくはない。もちろん、孔子学院の設置の本来の目的は、公言してるかどうかはともかく、
 現代的中華秩序の実現
で間違いないわけで、その辺りに気がつかないと、いろいろおかしなことになる。

で。
 政治家=文人=徳を治めた人物
という「理想像」を実現するために実施されていたのが
 高級官僚選抜試験の科挙
なわけで、この科挙のために投入されたあらゆる努力が、報われたり報われなかったりした結果が、その後の中国の「文化人」の姿に反映されている。中国文化人の「呪縛」が科挙であり、それは韓国にも投影されている。中国共産党一党独裁の現代中国において、今も猶、
 状元(トップ合格者)
という言葉が大学受験で生きていて、「状元」だった合格者は、新聞報道され、注目を集め、入学後も優待されると聞く。韓国で、大学入試の受験者を
 遅刻させないようにパトカーで試験場に送り届ける
等のニュースが流れるのも、やはり
 科挙と同等に「大学入試」が扱われている
ための措置だ。日本は不幸にしてなのか幸いにしてなのか、科挙のような全国規模の人材選抜試験を近代以前には行わなかったので、こうした
 大学入試で起きる「熱狂」
をよそごととして見ているけど、
 科挙合格=立身出世
が長い歴史を持っていた国では、今でも科挙の遠い記憶が生活の中に反映されたりするわけだ。
そして
 高い地位に就いた人間は応分の報酬を得るのが当然
という考えは、科挙の時代から今も連綿と受け継がれている。中国共産党の上層部が、目を剥くような蓄財に邁進しても、日本では考えられないくらい
 道徳的に非難されない理由
は、科挙以来の強固な伝統故であろう。科挙に合格して官僚になったら
 美人の妻を迎え、金持ちになれる
というのが、まだ幼い子どもを騙して、科挙の受験勉強をさせるための方便だった。つまりは、
 科挙は人間の欲望を満たす魔法の試験
であった。合格のための苦難など小さい物だ、と親たちは息子の尻をひっぱたいたのである。

さて。
そうした
 文人優遇の歴史
が長かった中国では、翻って
 武人は野蛮で度し難い存在
と受け止められていた。
 文人が「無知蒙昧な武人」を支配する
のは当然、というわけだ。従って
 好鉄不打鉄、好人不当兵(いい鉄は釘にはしない、いい人は兵隊にはならない→釘にするのは屑鉄、兵隊になるのは人間のクズ)
という、俚言が存在する。この言葉を知ったのは、確か魯迅がまだ「周樹人」という本名で生活していた若い頃の話からである。家が没落して、勉強を続けるために学費がかからない
 江南水師学堂(海軍養成学校)
に入ろうとした18歳のとき、彼が知人の若い女性にだったと思う、言われた言葉が、
 好鉄不打鉄、好人不当兵
である。
 軍の学校に入る
という事実だけで
 人間のクズだ
と言われた周樹人青年は大変なショックを受けた、という話だったと思う。(原典が手許にないので、記憶が間違っていたらごめんなさい)

あの魯迅でさえ、
 好鉄不打鉄、好人不当兵
という言葉に打ちのめされた。魯迅18歳というと、1899年かな。この3年後、魯迅は日本に留学、東北大学医学部へ進み、藤野先生に出会い、そして人生の一大転機を迎え、作家魯迅となるのである。

ことほどさように
 文化人と軍人には超えることの出来ない溝
があったわけなんだけど、そうした
 中国のあらゆる伝統も因習も含めた、すべての秩序を破壊し、中国を統一する新たなシステムを作り上げたのが毛沢東と文化大革命
というのが、劉先生の説。八路軍以後
 軍人の地位は「人間のクズ」から脱却しただけではなく、「中国人民あこがれの存在」に転化
した、と見て良いとのお話だった。

昨年ノーベル文学賞を
 人民解放軍の作家 莫言
が取ったけれども、これは
 好鉄不打鉄、好人不当兵
という「中国文化人幻想」が完全に息の根を止められた瞬間でもあった。

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