産後の精神的不調を治療する 『校注婦人良方』(薛氏医案十六種本)を読む
現在、国内で文献調査中なのだが、最近読んでいるのは
『校注婦人良方』(薛氏医案十六種本)
である。宋の陳自明(1190?-1270)の産婦人科の医書
『婦人大全良方』
に、明の薛己(1486?-1558)が注釈と自験例を加えたもので、
薛己が元のテクストを破壊している
というわけで、書誌学的には評判のよくないものである。てか、薛氏医案って叢書は、半分くらいがその口で
古人の業績に、薛己やその一族が好き放題に突っ込んだり、自験例を放り込んだり
していて、ま、元になった医書の姿を知るにはよろしくないわけだ。校注以外、残りは薛己一族の書いた医学書だ。薛氏一族の手になる「校注」類の評判の悪さといったら、同じ叢書の中には
薛己のパパ、薛鎧による銭乙(1035-1117)『小児薬証直訣』の校注本
もあるのだが、清代に
至薛氏医案本、已為薛氏所乱、不足引証云。
薛氏医案本に至りては、已に薛氏の乱す所と為り、証を引くに足らず云(とか)。(薛氏医案本の『小児薬証直訣』は、薛氏に本文がめちゃくちゃにされていて、テキストクリティックの役には立たないとか)
と周学海(19-20世紀)に指摘されるありさまだ。香港大学でこの
薛氏医案本『小児薬証直訣』
を、そんな食わせ物だとは気がつかないで調査した後、どうもヘンなのでいろいろ調べて、事実を知ったときの衝撃は忘れられない。
道理で楊守敬が買わなかったわけだよ。(楊守敬は同じ『小児薬証直訣』でも、ちゃんと遥かにマシな版本の方を購入した)
それはともかく。
『校注婦人良方』を読むと、宋の陳自明の時代にも、明の薛己の時代にも、
出産後の母親の精神的な不調や精神的な疾病が問題になっている
ことがわかる。21世紀の現在だって
育児ノイローゼ
で追いつめられる母親がいるけれど、それは何も今に始まったことではないのだ。そして
母親の精神的な不調あるいは疾病
を
何とか治療しようと当時の医師達が努力
していたことも、『校注婦人良方』からは読み取れる。
更に、今読んでいるのは、江戸時代のある医家の蔵書だったものなので、
一体どの程度舶来書を利用していたか
は、一目瞭然なのだ。中国の書物は白文だから、
点が切ってあるかどうか
で、どの程度真面目に読んだか、すぐバレてしまう。
で、江戸時代初期のその医師は(同筆だからたぶん一人)
産後の、精神的に不調だったり、精神的な病を発症した母親達の治療
に心を砕いていたことが分かるのである。
400年前の大阪近郊ののどかな農村でも、
産後に精神的不調を訴える母親達
は少なくなかったようだ。
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