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2013-06-08

Daniil Trifnovの幸せな午後 Daniil Trifonov recital@6/8 ザ・シンフォニーホール

誰しも、初めてピアノに触れた時は胸が高鳴り、おそるおそる下ろした指から響く音に感動したことだろう。
その
 ピアノに触れる喜び
を常に体現してくれるのが
 Daniil Trifonov
である。

Daniil Trifonovのピアノを直に聞くのは2年振りだ。
今回の日本公演は今日を入れて4公演が予定されている。大阪のリサイタルがその最初になる。

大阪では予約開始が早かった。初日の開始時間に速攻で予約を入れ、B-15/16という
 Trifonovの運指と表情見放題席
を確保。
その時の話はこちら。
2012-11-25 Daniil Trifonov Piano Recital in Osaka@来年6/8 本日(11/25)10:00- チケット予約開始
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2012/11/daniil-trifon-1.html

プログラムは
 前半
 Scriabin, Sonata for Piano No.2 Op.19, スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第2番「幻想ソナタ」
 Liszt, Sonate für Klavier S.178/R.21 A179, リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
 後半
 Chopin, 24 Preludes Op.28, ショパン:24の前奏曲 (「雨だれ」ほか)
で、本日のアンコールは4曲。
1. Nikolai Karlovich Medtner, 4 Fairy Tales (Skazki), Op. 26, メトネル:4つのおとぎ話 から1曲
2. Schumann-Listz, Widmung, シューマン・リスト:献呈
3. Bach-Rachmaninov, Gavotte from Partita for solo violin No.3 in E major, バッハ・ラフマニノフ:ガボット
4. Stravinsky-Agosti, Infernal dance of King Kashchei from The Firebird, ストラヴィンスキー・アゴスティ:火の鳥から魔王カシチェイの凶悪な踊り
と盛りだくさん。てか
  24 Preludesを全曲弾いた後のアンコール
のそれも
 最後の最後に「火の鳥」を弾く
というのが、愛すべき天才にして「ヘンタイ(褒め言葉です)」のTrifonovならでは。で、その最後に弾いた
 火の鳥が、ピアノが鳴りまくってて、凄かった
のである。

いや、凄いのは最初からだったんだが。

最前列に近い席に座った理由は
 憑依系ピアニストであるTrifonovに「何かが憑く瞬間」を見たかった
からでもある。
どうやら、
 スクリャービンとはお友達
のようで、ムリに呼ばなくても、すっとスクリャービンの世界に入っていった。
 高音の弱音が美音
というのが、2010年のショパンコンクールで見せたTrifonovの特徴なのだが、それから2年半の時を経て
 ヴァージョンアップしたTrifonov
が姿を見せた。
 低音も太く、充実した音が出る
のである。
低音の支えの力を実感したのは
 リストのピアノソナタ
で、この難解な曲を
 Trifonovの解釈で弾いて見せた
のである。
ピアノの前に座ったTrifonovはやや時間を置く。
 何かが憑いた
ように、表情が一変して、第1音を打鍵する。静寂。そしてまた1音。白紙に墨を置くように、導入部の音が置かれ、一転して主題が導かれる。このソナタでは、執拗に主題が繰り返される。その繰り返しと変奏を、1音1音を分解して解釈し直し、音と音との距離を計り、めまぐるしく音色を変化させ、注意深く音を組み合わせることで、これまで聞いたことのない、Trifonov独自のリストのソナタが構築された。最後の1音の打鍵は、最初の1音に繋がる。

聴衆は熱狂。拍手はなかなか鳴り止まなかった。

休憩後に
 ショパン 24の前奏曲全曲通しの演奏
が始まる。Trifonovはこれまでに
 Chopin, Etudes op.10, op.25
をそれぞれ通して弾く試みをしてきた。その時も
 ショパンのエチュードを個々の1曲1曲としてでなく、12曲全体を一つの有機体として見た場合、どう演奏されるべきか
ということをやってみせ、それは成功した。
今回も同様に
 すべての調性で書かれている24の前奏曲を通して弾くと何が見えてくるか
が、Trifonovの課題だ。
古典的なChopin弾きのピアニストが好きなら、この演奏は、
 Chopinらしくない
という評価となるだろう。しかし、TrifonovのChopinは
 21世紀のChopin
だ。彼がショパンコンクールで
 マズルカ賞
を獲得したとき、少なからぬ聴衆が驚いたわけだけれども、その
 マズルカ賞を得た時のマズルカを更に拡張していった形のChopin

 今日の24の前奏曲
だろう、と感じた。

ピアノの前に座ったTrifonovは、ちょっと間を置いた。そして、また
 何かが憑いた
のだった。
長短ばらばらな長さの24 Preludesは、Etudes Op.10, 25を通して弾くよりも、
 更に扱いが難しい作品群
である。

Chopin弾きなら、絶対にそうは弾かないだろうパッセージの扱い、そして
 音と音との距離の作り方
がすばらしい。左手の音色を
 わざと曖昧にする演奏法
を用いて、
 右手はこれ以上ない、マルカートの演奏
をしてみせる。左手の音色を操ることで
 過去から音が近づいて現在と交差する
ように聞こえる。

音色を曇らせることも、輝かせることも、自由自在にできる。弱音はもちろん、大音量のfffも破綻なく響かせる。Trifonovは全身を巧みに用いて(見た感じは、前のめりになっているけれども)、音色や強弱を厳密にコントロールしている。その音がそう弾かれるのには、確固たる理由があるのだ。

Trifonovの音楽の力の凄さは、一般に知られている
 7番(太田胃散のCM使用曲)や15番(雨だれ)
で、申し分なく発揮された。誰でも知っている曲だからこそ、易きに就きがちな楽曲だが、Trifonovは
 自分のChopin
を実に楽しげに弾いた。こんな7番や15番、聴いたことがなかったよ。

24曲すべてを弾き終わり、一瞬間を置いて立ち上がったTrifonovはよろめいた。いかに彼が精魂込めて演奏していたかが、誰の目にも明らかになった瞬間だった。

拍手が鳴り止まない。何人もがスタンディングオベーションで称える。
いつものように、Trifonovは会場のすべての聴衆に向かって(今日は、後のパイプオルガン席もあるザ・シンフォニーホールだから文字通り四方に挨拶をした)丁寧にお辞儀をした。

アンコールは前掲の通り4曲。
メトネルをさらっと弾いて見せて、そして
 6月8日が誕生日のシューマンへのリスペクト
だろう、
 シューマン・リストの献呈
を美しく歌い上げる。一昨年、奈良で聴いたときより、一段と音色に磨きが掛かっている。
拍手に応え、3曲目は、Trifonovのアンコールでは、よく演奏される
 バッハ・ラフマニノフのガボット
この小曲で今日の演奏を終えるのか、と一瞬思ったのだが、更に拍手は大きくなっていく。
 4曲目をやるのか?
と思ったとき、Trifonovはピアノの前に4たび座り
 Stravinsky-Agosti, Firebird
と告げた。まさかの火の鳥!!!! 前半からこれほどの密度で弾き切っているTrifonovが火の鳥を弾き始める。音のキレが素晴らしい。音色も確かで、今までで一番凄い火の鳥を聴いたように思う。難曲なのに、Trifonovの長く白い指は、鍵盤を、確実に打鍵しながら、めまぐるしく駆け抜けてゆく。音ももちろんだけど、
 運指の見える席
を選べた幸せを堪能した。

今日のTrifonovは、いずれの演奏も
 ピアノに触れる喜びに満ちた音楽
だった。

ありがとう、Trifonov。次に日本で会える時は、また必ず聴きに行くよ。

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コメント

東京(東京オペラシティ)の公演を最前列で見て参りました.息づかいもペダルを踏む足の音も聞こえるような席です.

題目は大阪と同じで,ショパンのソナタ24曲を弾き終わったとき疲労困憊だった(第24の最後の低音に指を下ろすときが特に鬼気迫る感じでした)のも同じです.

が,アンコール曲.最後の火の鳥以外の4曲は全然聞いたことがない曲で,実に楽しそうに弾いていました.何かを自分流にアレンジしたのかなと思っていたのですが,後で調べたらなんと自作の曲(ラフマニアーナ組曲)だそうで.なるほど,「いかにもTrofonovが好きそうな」パートの連続でありました.

緊張感あふれた正式演目と,一転して才能が喜びに満ちて歌ったアンコールの対比が楽しかったです.

「神に愛された」と「悪魔に魂を売った」の境目にいるような,そんなHENTAI(もちろん良い意味です)の人間離れした演奏に酔い痴れた夜でした.

投稿: KMnO4 | 2013-06-16 09:21

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