物語そのものは先週まででほとんど終わってしまった
あまちゃん
の最終週は
祝祭の6日間
だった。
その場にいなかった人間が、東日本大震災からの復興を応援する、というのは難しい。
じゃあ、どうすれば?
いつでも笑顔を
そして
今日は明日に、明日は未来に繋がっている
というのが、宮藤官九郎のメッセージだった。
アキとユイが、畑野駅のあちら側、まだ復旧していない、トンネルの向こう側へ走り出す。二十歳の二人が、暗いトンネルの中を両手でスターウォーズのライトセーバーを思わせる色合いのペンライトを振りながら、まるでもっと幼い少女のように、体をぶつけ合ったり、ふざけたりしながら、明るく日の差す出口へ向かって走って行く。実写なのに、アニメで何度も見たことがあるようなシーン作りだ。
トンネルの外には溢れる光。
画面は白い陽光に包まれ、アキの姿が光に溶ける。
ドラマとしての最終カットがそれだ。
そして、エンドロール形式で、普段のオープニングが、大友良英のすっかりおなじみになった軽快なテーマ曲と共に始まる。
エンドロールの中で、さりげなく
2013年現在の北三陸は、北鉄が全線開通している
ことを
2012年7月現在の北三陸市観光協会ホームページ
の形で知らせる。
そして、エンドロールの裏では、灯台に向かってアキとユイが全速力で走ってゆく。
ジャンプする二人。
海に飛び込んだか?
と見せかけて、二人とも岸壁に留まって、ユイは伸びをして、両手を明るい空に突き上げる。
未来への信頼
を感じさせる、爽やかな幕切れだった。終演は、縦書き平仮名の
おしまい
で表示。この6日間、
夢が覚めるときのあの感じ
が漂っていた。
半年間の
長い夢の物語
を見ていた、現実の世界を生きる視聴者を、ゆっくりと目覚めさせるのには効果的な6日間、そしてラストだった。劇中、
海開きを知らせる「いつでも夢を」
は、例年の歪んだ音ではなく、クリアな音で流れていた。
祭には終わりがある。
区切られているから祭なのだ。
25週まででドラマを作り終え、最終週は、毎日、祭のフィナーレにふさわしい手順を踏んで、
4年間の物語
が終わった。
「あまちゃん」の成功は、
能年玲奈の魅力
に尽きると言っても良い。共演者や制作関係者が口々に
細田守監督のアニメに出てくる少女が実際に目の前に居るかのようだ
と評した
圧倒的な透明感
がすばらしい。これまでにないタイプの女優さんだ。そして、これも残念ながら明らかだろうけど
あの能年玲奈の「透明感」の「鮮度」
は
今が一番
だ、と思われる。今後、同じような作品を作ろうとしても、恐らく決してあの透明感は出ない。こればかりは
時の幸運であり、時の勝利
だ。
時分の花
と言い換えても、いいかもしれない。
もちろん、ヒロインだけでドラマが成功するわけではない。
NHK連続テレビ小説の鉄則
である
新人女優+分厚い脇役陣
の構造をさらに徹底した上に、まさに
出演者の「無駄遣い」
とも言えるほど、豪華な助演者を投入し、さらには
裏読みがいくらでも出来る小ネタをあちこちに挟み込んだ
ことで、
ネットでの人気を生んだ
のが一つだろう。
月〜土の7:30から始まる「早あま」「本(朝)あま」「昼あま」「夜あま」と呼ばれる、NHK総合/BSでの放映の前後には、twitterなどSNS上で、活発な感想や意見の交換があり、リンクが貼られ、参照され、斜面を転がる雪玉のように、情報量が増えていく。
80年代を話の肝とすることで、若者はともかく、
子どもの頃、連続テレビ小説を見て育った層をテレビに呼び戻した
のが大きい。彼らがテレビにどっぷり浸かっていたのが
80年代
だったのだから。パソコンが家に入り始めるのは87年の98互換機発売以降、インターネットならぬパソコン通信が普及し始めるのは通信速度が速くなっていく90年前後だ。それでも、そうした情報機器を操る層は微々たるもので、普通の人達は、電話とテレビとだけで生活していた。
TL上で、7月頃だったか
あまちゃんはエヴァと同じくらいの衝撃をテレビドラマにもたらした
という発言を見た。
95年秋から、テレビ東京系で放映された
新世紀エヴァンゲリオン
は
全話ビデオに録画して、一々止めて見るアニメ
の嚆矢となった。それと同じことが
あまちゃん
で起きている、というのが発言の趣旨だった。
1日何度も見る、録画しても繰り返し見る。
そういう大人達が少なくなかった。
宮藤官九郎がシナリオに滑り込ませ、NHKの朝ドラスタッフがさらに周到に作り込んだ
あまちゃんのシーンのさりげない「ワンカット」
を
どう読むか
が、熱狂的あまちゃんファンの毎日になった。
エヴァなら週一だったけど、あまちゃんは毎日だししかも
天下のNHKの連続テレビ小説
だもんな。影響力が違いすぎる。
テレビドラマの世界で
あまちゃん後
という言葉が出来るかどうか。
今回、この密度でこのドラマが毎日送出できたのは
NHK連続テレビ小説という「伝統枠」
だったからこそできたので、これを凌ぐドラマ作りは、
何かと手抜きが横行する現場が増えている昨今
では、難しいだろう。いや
たぶん、現場は相当「ブラック」
ですよ。そうじゃないと、仕上がらなかったはずだ。
おまけ。
昨日と今日の最終回で出た
勉さんの琥珀の採掘場で発見された恐竜の骨
の元ネタはこちら。3/30付デーリー東北より。
久慈で肉食恐竜の化石発見/中学生お手柄(2013/03/30 09:04)
久慈市小久慈町の白亜紀後期(約8500万年前)の地層から、小型の肉食恐竜「コエルロサウルス類」の後ろ足指の骨とみられる化石が発見された。鑑定した早大国際教養学部の平山廉教授(古生物学)が29日、同市の久慈琥珀(こはく)博物館で会見し、発表した。肉食恐竜の化石は全国で10例以上発見されているが、平山教授は「すり減りやすい指の骨が良い保存状態で見つかるのは珍しい」としている。2012年5月、琥珀を掘るため同博物館の琥珀採掘体験場を訪れた南部町立南部中1年の佐々木貴杜(たかと)君(13)が見つけた。(水野大輔)
この地層からは10年7月に翼竜、12年3月に大型草食恐竜の竜脚類など多くの化石が見つかっており、今回の肉食恐竜の化石は久慈地域の当時の多様な生態系を示す史料として注目される。肉食恐竜の化石の発見は、岩手県内では初めて。
化石は長さ31ミリ、幅が最大13ミリ。平山教授によると、骨の関節面の特徴から、有名なティラノサウルスのグループを含むコエルロサウルス類と断定した。体長2メートルほどの小型恐竜と推定される。
コエルロサウルス類は白亜紀に、主に北半球で繁栄。体長は50センチ~15メートルとさまざまで、鳥の祖先ともいわれる。発達した後ろ足で歩行し、全身は羽毛で覆われていたとされる。
見つかった恐竜の種類を特定するのは難しいが、イヌぐらいの大きさの哺乳類を捕食していた可能性があるという。
会見した平山教授は「足の指部分の発見は珍しく、化石の保存状態がいい。今後もまとまった化石が出る期待が大きく、発掘調査を継続していきたい」と話した。
見つかった化石は30日から同博物館新館で公開される。
「恐竜の化石と聞いて驚いた」。久慈琥珀博物館で行われた記者会見には、化石を発見した佐々木貴杜君が同席し、「すごい発見で感激です」と喜んだ。
昨年5月の大型連休中、家族5人の小旅行で琥珀の採掘体験場を訪れた佐々木君。琥珀を掘り出すため、アイスピックで泥質の地面を数センチ掘ったところ、「木の枝のような怪しい物を見つけた」。
近くにいた博物館の担当者に手渡すと、化石との見方が示され「びっくりした」という。「すごい物を見つけてしまった。琥珀よりうれしい」と語り、あらためて感激をかみしめた。
鑑定に当たった早大の平山廉教授は「普段なら見過ごしていた可能性もあり、よくぞ気付いてくれた」と佐々木君の〝手柄〟を褒めたたえた。
【写真説明】
発見した化石を手に持つ佐々木貴杜君=29日正午ごろ、久慈市