森千里『鴎外と脚気―曾祖父の足あとを訪ねて』NTT出版 2012.12
森鴎外の曽孫である森千里千葉大学医学部教授による
鴎外と脚気
に関する「鴎外擁護論」が本書執筆の一番の目的である。
既知の事象の組み合わせで
鴎外は「誤解されている」
と主張しているのだが、基本的には
鴎外は「脚気の病因」について自らは断じなかった
辺りについては、結論を避けていて
ビタミン欠乏説を導く「触媒」となった
ことを評価している。
かつ
身内の身贔屓
が
筆を鈍らせる箇所
がいくつもある。
たとえば
於菟の母である赤松登志子との離婚の原因の一つ
と考えられており
鴎外の本当の死因
であるところの
肺結核との関わり
については、まったく述べられていない。
こうした問題点を抜きにして、読む価値があるのは
於菟の子孫によって書かれた森家の記録
という点だろう。これまで、於菟を除けば、
鴎外の妹弟である小金井喜美子と森潤三郎
か、
後妻の荒木志げの生んだ森茉莉・小堀杏奴・森類
が鴎外にまつわるエッセイを書いてきた。
周知のように
異腹の子於菟
と
後妻荒木志げ子
の間には
志げからの一方的とも言って良い確執
があり、鴎外は家庭経営に苦心した。従って
志げに疎んじられた於菟の子孫による森家の記録
は
志げの子どもによる森家の記録
とは、様々な事象に対する見方が異なる。そうした
冷えた空気
が、時々に行間を吹き抜けていく。
なお、著者は
1960年2月札幌生まれ
だそうで、
札幌北高校から旭川医大へ進学
している。伯父にあたる森富東北大医学部名誉教授(解剖学)の口添えで、
大学院は京大に進学
し、京大医学部解剖学教室の助教授を経て、現職に至っている。専門は
環境生命医学、発生学、胎児学
である。祖父於菟も解剖学を専門とした。
まさか北海道に森鴎外の子孫が、それも於菟の子孫がいたとは知らなかったが、著者の父は
森樊須北大農学部名誉教授
で、
ダニ研究のエライ人
である。
2007年夏に、森富・樊須兄弟は相次いで亡くなっている。
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