『身体の歴史1 16-18世紀 ルネサンスから啓蒙時代まで』藤原書店 2010.3
『身体の歴史』は全三巻あるのだが、これはその最初の巻。
三巻とも大冊
である。ずしりと重い。
16-18世紀とあるが、実際は
古代ギリシャ医学からルネサンス・啓蒙時代まで
がその扱う範囲である。
9人の著者の手になる10章に分かれた本書は、
身体が宗教の軛を離れて、「われらのもの」になる過程
を描く。
古典を扱う部分に関しては、ヨーロッパの
西洋古典学の分厚い研究史
をきっちり踏まえた上で、鮮やかな手つきで、テクストが語る
身体の風景
を目の前に展開して行く。
準備に10年かかった
とのことだが、確かに、1巻を見る限り、10年かかっていてもおかしくはないほど
調べの利いた
文章である。それでいて、堅苦しくなく、実に面白い。
特に、一般的な日本の読者には疎遠な
中世キリスト教社会の様相
が、原資料をもとに浮き彫りにされる部分は、驚きと楽しさの詰まったパッセージだ。
問題が2つ。
1つは
ギリシャ・ローマ・イスラム古典医学に関する人名・書名の不統一
である。
フランス語で普段使われる表記法
と
日本で普段使われる表記法
とは異なっているのだが、訳者によっては、
フランス語表記をそのまま日本語読みに押し通す
形になっている。こういうやり方は
翻訳
とは言わない。たぶん
監訳者が、訳語のすりあわせをしなかった
のだろう。e-mailやSNS等でディスカッションして
訳語のTable
くらい作れそうなものだが、それをやってないんだろうな。
2つは
索引もなければ、訳注もあまりついてない
ので、
10章ある論文を対照して読みたいのに、手間がかかる
という点だ。せっかく
それぞれの章にふさわしい専門家を揃えている
のだから、最低限の
索引
くらいは欲しい。てか
索引をつくってないから、訳語の不統一がわからなかった
ってことだな。
更に付け加えるなら
原著の図を使用してない
と断って
冒頭に口絵を入れている
にも関わらず、
本文中に口絵への言及が訳注として付けられていない
ために
何のための口絵なのか謎
だってことだ。口絵にはそれぞれ章番号と順序を示す番号がついているんだけど、まったく活かされていない。
面白い内容を更に面白くできただろうに、その部分を
「努力」
してないために、
ちょっと残念な出来
になっている。
翻訳者の実力にも、かなり違いがあって
元がフランス語なのに日本語になると読みにくい章
があるのは勘弁だ。
Ce qui n'est pas clair n'est pas français.
は、翻訳でも是非実現して頂きたい。
おまけ。
原著を日本のamazonで購入出来るので、そちらがよい方は是非。
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