高みへ 浅田真央の第二章(その2)
浅田真央が今シーズンのSP・FSを披露した翌日、東京のメディア勤務の友人は昂奮を抑えきれず、勤務先で、
今シーズンの浅田真央は凄い
と口にしたところ、同僚や部下達は
ま、でもキムヨナには勝てないんですよね
と、軽くいなした。どうやら、
在京メディアの「常識」
はこんなところらしい。
さて、JOが花相撲なら、
浅田真央の今シーズンの初戦
は
スケートアメリカ
である。
近年
フィギュア人気が凋落
している北米では、大きな会場を取れなくなって
デトロイトの会場は狭い
という。浅田真央を始めとして選手達が
狭いリンクで果たして十分な演技が出来るかどうか
が一つのカギだった。
10/19、まず男子SPから競技が始まった。
ここで大きなサプライズがあった。
町田樹の出来が素晴らしい
のだ。滑りが綺麗で、4回転ジャンプを軽々とこなした。
一方で、負傷明けの小塚崇彦は、4回転ジャンプをパンクしてしまった。高橋大輔は、精彩を欠いた。
10/20は女子SP。
これまで
競技直前に現地入り
をしてきた浅田真央は、今回
数日前に現地入りして調整
する日程に改めた。アメリカには10/14に出発、佐藤コーチ夫妻の娘で、元日本代表の有香コーチの所属リンクで調整をした。
真央「子どものような体じゃない」 GP開幕戦へ米国出発
注目されるのは
浅田真央の3Aが認定されるか
どうかだ。果たして、これまで浅田真央に厳しかったISUのコーラーとジャッジはどう判定するか。
浅田真央は最終滑走だ。
今シーズンのSP「ショパンのノクターン」は7年前、浅田真央がシニアデビューした翌年、16歳で、やはり同じローリー・ニコルの振付でSPとした演目だ。同じ曲、同じ振付師で、23歳の大人の女性になった浅田真央が、新しい
ノクターン
を演じる。そう
演じる
のだ。
ただ滑る
のではなくて。
直前に滑ったのは、アメリカのアシュリー・ワグナー。アシュリーがキス&クライで得点を待つ間、静かに浅田真央がリンクに登場した。佐藤信夫コーチの言葉に頷いて、リンクに滑り出す。場内割れんばかりの歓声が起きる。何度か軽くブレードを走らせ、位置を確認すると、演技開始の地点に立つ。ふうっと一息。
第一音のBが打鍵される。
浅田真央の表情は一変し、晴れやかな、ちょっとはにかんだ笑顔を浮かべる。
初恋
それが、前回も今回も、このSPのテーマの一つだ。
最初の3Aに向かうまでも、美しい腕の表現を伴った滑らかなスケーティングが続く。跳んだ。僅かにブレードの先が氷をかすめる。でも、3Aの回転は足りている。成功だ。
降りた後は、流れのあるスケーティングが引き取る。コンビネーションジャンプの予定を単独の3Fにして、続く二つのスピンは、ポジションを次々に換え、きっちりとレベルを取る。演技後半、ジャンプが加点される時間帯になって、3Lo+2Loのコンビネーションジャンプを跳んだ。
ローリーの振り付けたステップは、のびやかで優雅だ。最後の2小節、Es-B-Gの三連符が4つ続くところから、レイバックスピン。浅田真央のもう一つのシンボルである
ビールマンスピン
を見せる。ぐっと上に伸びた姿勢が美しい。終和音で腕を伸ばし、切ない表情でプログラムは終わる。
拍手。
浅田真央が笑顔になる。浅田真央のファンは思う。
この笑顔が見たかった
のだ。
鳴り止まぬ拍手。そしてリンクに投げ込まれる花やプレゼント。
苦しかった2010-11年シーズンの始めから、やっと今、浅田真央は
演技を終えて笑顔を見せる
ことができたのだ。
充実
これまでの苦難は、決して無駄ではなかった。
キス&クライで浅田真央は、
天才少女と呼ばれたバンクーバー五輪前と同じような屈託のない笑顔
を見せた。
ジャッジは
73.8点という高得点
を浅田真央のSPの演技に与えた。3Aは
UR(Under-roatatede jump 回転数不足が1/4回転を超え1/2回転に満たない)
という判定ではあったけれども。
男子FSでは
町田樹の快進撃
が続いた。冒頭、2回の4回転ジャンプを決め、2位のアダム・リッポンに20点以上の大差を付けて優勝した。
そして女子FS。
アシュリー・ワグナーが193.8点を出した後、青い衣装に身を包んで、浅田真央はリンクに立った。
リンク中央から真っ直ぐ後ろに下がる振付は、バンクーバー五輪の
鐘
を思い出させる。最初のジャンプは3A。
失敗。
大きく転倒する。
ここまでは、昨シーズンにも見た光景だ。
ところが、今年の浅田真央は勁い。
転倒で腰を強打したにもかかわらず、すぐに立ち上がり、音楽に乗って演技を再開した。
これまでの浅田真央は
3Aが失敗すると演技のスケールが急に小さくなる傾向
があった。しかし、3Aを封印して続けた
基礎の積み直し
によって、
ジャンプを失敗しても点の取れる演技者
に変わったのだ。
ラフマニノフのピアノ協奏曲2番に乗り、浅田真央は、続く
3F+2Lo
のコンビネーションジャンプを決めた。これまでにない、力強い浅田真央を見た。
佐藤信夫コーチは
2回ジャンプを失敗しても勝てるようにする
と明言していた。その言葉どおり、浅田真央は、ジャンプ以外のところでちゃんと点数を取ってきた。取り分け
最後のステップシークエンスとコレオグラフィックシークエンスは圧巻
で、背筋がぞくぞくする凄さだった。
転倒による減点1があったものの、FSでは131.37点を獲得、トータル
204.55点
と、
銀河点の出やすい五輪シーズン
とはいえ、
ただ一人200点越え
の得点を叩き出し、あっさり優勝した。
3A等の失敗があったので、FS終了直後の浅田真央には笑顔はなかった。
見据えているのは「最高の演技」
である。スケートアメリカの演技は、まだそこには達していない。
スケートアメリカ終了後、浅田真央は、ローリー・ニコルの元に赴き、
SPの振付の更なる手直し
をした。
スケートアメリカで浅田真央が高得点で優勝した翌日から
在京マスコミの「掌返し」
が始まった。それまで、どちらかといえば
浅田真央を軽く扱おう
としていた各メディアが、急に
ソチ五輪メダル有力選手
として浅田真央を持ち上げ始めたのだ。どうやら
在京スポーツマスコミのニュース・中継担当のほとんど
が
フィギュアスケートの演技の質を自分では見分けられない
らしいのだ。とすれば、当然ながら
ワイドショーのコメンテーターの大部分は「採点の基準もよく分かってない」
のだろう。
ソチ五輪感動の物語
を求めて、
各メディアが浅田真央取材に血道を上げ始めた
様子だ。恐らく
幾つものカメラクルーが、一挙手一投足を見逃さないように張り付いている
に違いない。
NHK・テレ朝・フジ辺りは確実に浅田真央を追いかけ回している
と思われる。
バンクーバー五輪でそうだったように
Nスペの取材
も始まっているに決まっている。
だが、わたしは今年の浅田真央はこれまでと違う、と感じている。
底知れぬ勁さ
が、加わっている。浅田真央が見つめているのは
その時々の世間の評判の善し悪し
ではない。
自らが競技者として持つ厳しい目に自分の演技が叶うかどうか
だ。そこには、
理解も勉強も足りない
くせに、
「報道」の力だけを誇示するマスコミ
の
くだらない質問
が入る余地はない。
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コメント
昨日に続き感動しました。真央ちゃん、心より 応援したいです。
投稿: おでっさ | 2013-11-12 20:25
おでっささん、本当に真央ちゃんは素晴らしいアスリートだと思います。
投稿: iori3 | 2013-11-12 22:21