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2013-11-18

流転する書物 「痕跡本」

書物については、時代は転換期にある。

日本は、
 日本研究の基本図書のデータベース化が極めて遅い国
だ。
 六国史の、信頼できる、誰でもアクセス可能なデータベースはどれ?
と聞かれても、すぐに答えられない。
 源氏物語の主な写本を画像ですぐに参照できるか?
と聞かれると、よく分からない。
 岩波の古典大系・新古典大系の底本をすぐ参照できるか
となると、もうダメ。

中国の場合は
 歴代の研究者が「善本」を求める
ことで、
 個人・機関の豪華な蔵書の集散
があり、次に来たのは
 善本の複製を大量に刊行
することであり、その次が
 複製を排印本(活字本)にして刊行
することであり、現在は
 排印本をもとにした大規模データベース

 善本の画像のオンライン供給
とが世界的に行われている。中国・香港・台湾等の諸機関のデータベースのみならず、archive.orgにも、中国国内の図書館経由で
 四庫全書等の漢籍がpdf化されてアップロード
されていて、世界中から利用可能だ。
中国学専攻の学生が
 書物を買わなくなった
のは、こうした基本図書のデータベース化の御陰で、最近は中哲の学生院生諸君が、
 藝文印書館の『十三経注疏』
を購入する前に
 十三経の点校本を購入
しているのを見たりする。ま、
 十三経の他人の点が正しいかどうか謎
なので、全然薦めない。てか
 研究者志望でそれはどうなのよ
とは思う。普通
 排印本は便利だけど、点が正しいかどうかは謎、他人の切った点は信じない
というのが
 中国学専攻の3回生以上の「基本的態度」
だと思うんだけど。さすがに、版本に直接朱で点を入れる時代ではないのだが、縮印本に自分で点を切るくらいは、ご飯食べながらでも出来るじゃん。(酒飲みながらだと、点を切り間違う恐れがあるので、素面推奨だけど)

ま、それはそれとしてだ。

蔵書というのは
 常に動いている
ものだ。
 読んだ書物はブックオフへ売る
というのをルーチンワークにしている人も結構いるわけで、手持ちの書物の状況は刻々変わる。
それでも
 蔵書家
というか
 収集癖のある個人
というのは常にいる。たいていは
 蔵書の核となる部分
がある。無名の個人蔵書家の死後、古書の売り立てに出るとすれば、こうした
 核の部分
であり、それ以外のものは、雑本扱いで二束三文で引き取ってもらえればまだしも、放置されたり、資源ゴミになったりする。

その
 無名の個人蔵書家

 核となるコレクションが目の前で雲散霧消するのを見た話
が「図書新聞」で内堀弘さんが書いている
 痕跡本──古書の巻末に書き入れられた市井の人の古本日記を夢想する No.3084 ・ 2012年11月03日
だ。内堀さんが見たのは
 ほとんど古書で購入
された
 中心は易学の本で、神秘学、神話、伝説、郷土史、心理学、性、風俗と広がっている
蔵書で、
 すべての本の巻末に、それをいつどこで買ったかを書き入れてる。それも、隅っこに小さくではなく、わりと大きな字で、しかもちょっとした感想も添えている。
ものだった。その数、4〜5千冊。しかも
 中には江戸期の高そうな和本もあり、まさかここにはと巻末を見ると「この本は高かった」とサインペンで惜しげもなく書かれている。
といった
 書き込み本
なのである。
基本的に
 書き込みのある書籍

 価格が極端に下がる
のだ。たとえば
 献辞
が書き込まれていたり
 蔵書印
が捺されていたりすると、それだけで普通は古書価格は下がる。ましてや
 消すことのできる鉛筆でも勿論、消せないサインペンやボールペンで書き込む
というのは
 言語道断の所業
なのだが、この売り立てに出ていた書物の前の持ち主は、
 手に入れると必ずサインペンで書き込むクセ
があったようだ。

さて、この
 サインペンで書き込みをされた数千冊の書物
は、そこに来るまでの間に
 長い時間と手間と関心と金銭が投じられた
ものであったのだが、内堀さんの目の前で、散り散りになっていく。
 人の痕跡そのものはこんなにあっけなく消えていくものなのか。
とは内堀さんの感想だが、ま
 コレクションの体があって、それが消えていくのが目撃される
のなら、まだしも幸せで、多くの名も無き蔵書家の蔵書は
 生前は同居する家族の不興を買う元凶
として本人以外からは蛇蝎の如く嫌われ、死後は、すっかり書物嫌いになった遺族の手で
 真っ先にゴミとして棄てられていく
のだ。

ところでこの内堀さんが見た
 痕跡本
だけれども、その内の1冊が、若き蔵書家の「西多摩政治文化研究所」の「ヌ」さんの手元にやって来た。
画像も付いている。
2013年11月13日 (水)『古本の時間』

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