関西では「シチ」は「ひち」
井上章一先生の新刊
『京都ぎらい』(朝日新書 2015.9)
のあとがきは
七は「ひち」である
と題して、
七は「ひち」と読まねばならない
と力説されている。
京都に限らず、
関東で「シチ」と発音される日本漢字音は、関東では「ひち」と発音する
のが普通だった。面倒な話をすれば、-t入声、日本漢字音の無声歯茎硬口蓋破擦音「-チ」の直前にある無声歯茎硬口蓋摩擦音「シ」が、無声硬口蓋摩擦音「ひ」に変わるってことなのかな。
実際に発音してみると、
ひ
で、大きく横に唇を引く。「シチ」が概ね、口の前だけで発音が終わり、唇を動かさないのとは対照的だ。「ち」の音価も「チ」とは異なっているように感じる。
前にも上げたと思うのだけれども、大阪の十三(じゅうそう)に2012年12月まで存在した
ひち(質)
の看板。
実は、この写真を撮ってほどなく、関西の「質」の発音を保存したこの看板は、はぎ取られてしまい、もう残っていないのである。なぜ、看板がはぎ取られてしまったのかは知らない。
「シチ」が「ひち」になる理由は、関西弁に共通の母音の階梯にあると見ているのだけれども、真面目に調べたことがないから、まだ、ちゃんとした結論は書けない。
ところで、京都には南北の通り名の数え歌がある。歌い伝えられたものなので、歌詞に異同があるのだが、「京都 ぷち・コミッション ほんまもんを探る日々」の2005年4月27日付記事「京都の通り唄」で紹介されているのは次のようなものだ。
一条(いっちょ)戻り橋、二条生薬屋(きぐすりや)、三条みすや針、
四条しばい(芝居)、五条、五条の橋弁慶に 六条の本願寺に
七条(ひっちょ)の米相場に、八条(はっちょ)筍掘り、
九条(くじょ)小便(しょんべん)取り、十条(じゅじょ)終い
やはり
七条(しちじょう)を「ひっちょ」
と読んでいる。
また、
九条小便取り
というのは、近郊農業に関することだ。近世、京内の尿は、貴重な肥料として、近郊農家に分配されていた。(その辺りの話は「京都故事」都糞尿譚 - 都市衛生の話に詳しい。)
井上先生の『京都ぎらい』では、嵯峨生まれの先生が、若き日、洛中の生粋の京都人、先師杉本秀太郎先生に、
あんたんとこの嵯峨からうちによう肥を汲みに来た
と言われて、すっかり意気消沈した様子が描写されているのだが、この数え歌は
嵯峨どころかもっと「近い」九条からも小便汲みに来ていた
ことを示している。
京都駅から南は京都やない
とは、京都市内で昔からいわれることだが、少なくともこの数え歌は
七条から南は「雅の都」とは無縁
と歌っている。
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