孫猛『日本國見在書目録詳考』 上中下 上海古籍出版社 2015.9 2459頁
平安時代の漢学者、承和十四年(八四七)に生まれ、寛平九年(八九七)に亡くなった藤原佐世が編纂した漢籍目録が
日本國見在書目録
だ。当時、中国や朝鮮半島から日本に伝わっていた漢籍や、日本で撰述された漢文による書物を目睹し、四十の項目に分類、書名と巻数を列挙している。現存する日本最古の漢籍目録である。
この『日本國見在書目録』だが、唯一の最善本が
宮内庁書陵部所蔵の室生寺本
で、平安末期の古写本である。現在、一般に行われているのは
江戸時代に室生寺本を転写したものが中心
だ。
早稲田大学法学部の孫猛教授は、書誌学を専門とされ、昨年9月2500頁になんなんとする
日本國見在書目録詳考
を、上海古籍出版社より出版された。来日以来28年に渡る、日本における
日本國見在書目録研究の成果
が、この大冊に収められている。
上巻には口絵があり
室生寺本のカラー写真
が数葉、掲げられている。デジタル撮影じゃないかな。次に
本文篇
として、書籍に番号を振った形で
校訂された室生寺本の本文
があり、更に
考証篇
として
個々の書籍に関する詳細な考証
が続く。下巻の途中からが、
研究篇
で、
編者藤原佐世の生涯
や
写本の伝写の過程と分類(この部分は中安真理氏による)
など、『日本國見在書目録』を扱う上で、当然浮かぶ疑問を取り上げ、論じている。
題識等を集めた資料篇が続き、付録として索引が付いている。中国の出版物なので、四角号嗎[口馬]・ピンインで引く形式だが、日本の読者の便を図って、音読みと四角号嗎[口馬]の対照索引も付されている。
内容は詳細であり、中国撰述の書物に関する論考は素晴らしいが、一部の
書物の同定
の部分に、議論の余地がある。
ともかくも、本書が
『日本國見在書目録』について議論する強固な土台
となったことは疑いない。これからは、本書を抜きに『日本國見在書目録』を取り上げることは出来ないだろう。
一つ、悲しく残念なことを言えば
日本文化の宝物と言うべき『日本國見在書目録』研究書
を
日本の出版社が手がけなかった点
だろう。たとえば
岩波書店
が出してもおかしくないのだが、
中国の出版社から中国語(といってもほとんど所謂「漢文」)で出る
ことになった。日本語で出版すれば、更に大部になったのは間違いないが、
平安時代の学術状況を日本人が理解する手助け
にはなっただろう。特に、平安時代を研究する国文国史の内に少なからず存在する中国語に闇い学徒を裨益すること大であったと思うと、残念だ。
林望氏が常々慨嘆されているように
日本では書誌学は「飯が食える学問ではない」
のである。出版しても、売れないから出版されない。それは、伝統的に書誌学を重んじる中国とは大きな隔たりがある。
なお、amazon.cnに注文すると、4日程で届く。
価格は、送料110元を加えて735.30元。
広州から送ってくるので速い。
国文・国史のみならず、中文・中哲・東洋史の研究室でも書架に必ず備えておくべき。
電子書籍にしてくれると、もっと使いやすくなるのだが、上海古籍にそれを言ってもしょうがないだろうな。
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