抗癌剤をのまずに棄てる高齢者をどうしたらいいのか
twitterのTLを眺めていたら
高齢の患者さんが1錠1万1千円もする高価な薬を30錠以上も溜め込んで、最後はトイレに流した
という衝撃的な話が流れてきた。
30万円以上が、糞尿にまみれて下水に流れた
訳なのだ。その高価な薬は、何の治療薬かといえば、よりによって
抗癌剤
だという。具体的な薬名が上がっているので、tweetそのものを引用するのは控える。
抗癌剤を処方されている上は、その患者さんには
たとえ高齢であっても、癌と闘って、治そうという意志があった
のだろう。しかし、たぶん想像だけど
飲むのが面倒
副作用がヒドい
等の理由で、
せっかく処方された高価な抗癌剤を服用せず、トイレに流す
次第になったのではないか。
高価な抗癌剤を棄てても、
まったく良心の呵責がない
ような、
高齢者への手厚い医療
を支えているのは
国民の医療費
である。年に一度も病院にかからない人も、長いこと病院にかかっている人も、皆
国民皆保険
というありがたい制度の下、保険料を払っている。その先生も
若い人が重い負担をがんばって支払っている旨
を、その患者さんに説いたそうだが、残念ながら、聞いちゃいない確率が高そうだ。
このような
緩慢な「治療拒否」をする「高齢の癌患者」
は
どう対処したらよい
のだろうか。恐らく、
現役世代
の人達の中には
自分たちが苦しい家計から捻出して支払っている健康保険料
から
30万円がトイレに流れていった
というのに、ショックを受ける方もいるのではないか、と思う。
高齢者の場合は若い人ほど速くはないのだけれども、それでも、
治療しなければ、癌が進行する
のも確かなことではある。
身内を、間質性肺炎とその後発症した肺癌で亡くした遺族の立場から言うと、
治療を拒否するくらいなら、緩和ケアに移るしかないのではないか
と思う。身内の場合は
緩和ケアの意味を納得できなかった
ので、緩和ケアに入ってからも、時々、積極的治療を求めたりしていたが、残念ながら、それをするには手遅れの段階だった。間質性肺炎が先だったので、積極的な癌治療は一切ダメだったのである。死に直結する間質性肺炎の急変を招く恐れがあったので、手術はもちろん、放射線治療も、抗癌剤も使えず、ただ、間質性肺炎の手当てをしながら、肺の中の腫瘍が少しずつ成長していくのを黙って見守るしかなかった。その内、癌が大きくなり、最早打つ手がなくなってしまって、緩和ケアに移った。
まだ抗癌剤が使えるのなら、のむしかない。のめないのなら、違うタイプの薬にするか、別な治療を選ぶしかない。それもイヤなら、癌と死まで共生する、緩和ケアに移るしかないではないか。
よりよく生きたいのであれば。
もう一つの可能性は
内心は治療したいのだが、すでに鬱状態になっている
場合で、これは精神的なサポートも治療も必要になるのだが、高齢者の場合は
精神科受診
というだけで、拒否反応が凄いだろう。
鬱と癌のコンボ
で、治療に対して積極的になれない患者さんは、高齢者でなくても珍しくない。
ただ、今後
高齢の癌患者
は、
現在の保健医療が支えきれない数に増加する
ことが予測されている。
珍しく、死をもたらす病
から
ありふれた、適切な治療をしなければ死ぬ病
になった癌は、今後は
高齢者ではよく見かける、高額な医療費を必要とする病
と認識されるようになるだろう。その
高額な医療費を支える若い世代
は、果たして
高齢者の癌治療
をどう考えるだろう。これまで、高齢者に手厚い医療が行われてきた理由は
制度設計が「少数の高齢者を若い世代が支える」多産時代の設計
だったからではないのか。
少子高齢化時代
の現在では、制度設計そのものの見直しが必要だと思う。
認知症の有無に関わらず、トイレに抗癌剤を流すような高齢の癌患者が跡を絶たないようでは、国民皆保険は予測よりも遥かに速く破綻するだろう。
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コメント
>知症の有無に関わらず、トイレに抗癌剤を流すような高齢の癌患者
このような方に、オプジーボ(年間3600万くらい)が、ご家族の要求によりばんばん処方されるようになるので、あっという間に破綻します。
まあ、注射剤なのでトイレには流せませんが。
それを防ぐには、年齢もしくは所得による命の選別しかありませんが、それは日本国民は許さないでしょう。亡国になるまで。
投稿: ocha | 2016-03-28 18:26
トイレに廃棄するのは、金銭的な問題もありますが、環境汚染という意味でも大きな問題です。
(一般にはあまり語られませんけど。)
医療現場では、医療従事者の抗悪性腫瘍薬への暴露をいかに防ぐか・減らすか、という努力も行われています。
実は抗がん剤だけが問題ではないんですけど。
投稿: YAS | 2016-04-11 16:10
「緩慢な(積極的)治療拒否」とはBest supportive careという形でフォローすることになります。
積極的治療を拒否することは別段悪い事ではありません。
ただ、手術・抗癌剤・放射線治療をメインに行う急性期病院では対応が難しいので、地域の訪問診療・訪問看護をしている先生にお願いすることになります。
設備は乏しくても、往診・訪問看護などの機動力があるため積極的治療を拒否している患者さんにはむしろありがたい存在のはずです。
問題は、急性期大病院に通院しているのがステータスである、と勘違いする患者・家族の意識と、患者・家族のニーズを適切に汲み取ることができずBest supportive careを導入できない医療スタッフの能力です。
投稿: だめ医者 | 2016-05-12 00:51