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2016-10-17

咳やくしゃみから容易に感染し、稀な合併症だが、下肢の麻痺との関係が疑われている「エンテロウイルスD68型」 現在ワクチンも抗ウイルス療法もなし

10/14付のイギリスの大衆紙 Daily Mail
 「ポリオに似たウイルス」に感染した2歳児が自分の足で歩けなくなる
という記事が載っていた。


British children are at risk from an outbreak of a killer polio-type virus that can leave its victims paralysed

・Enterovirus D68 can be spread easily through coughs and sneezes(エンテロウイルスD68型は、咳や鼻水を介して容易に拡散する。)
・Previously rare bug is on the rise but has no anti-viral cure or vaccine(以前は珍しい微生物だったが、最近流行し始めており、抗ウイルス療法もワクチンも存在しない。)
・It's linked to cases of very young children being left unable to walk(エンテロウイルスD68型は、極小さい子ども達が歩けなくなってしまう症例と関係している。)
・Paralysis can strike and leaves the worst affected fighting to breathe(麻痺が襲うと、最悪の場合には、呼吸困難が遺ることがある。)
By VICTORIA ALLEN, SCIENCE CORRESPONDENT FOR THE DAILY MAIL
PUBLISHED: 22:54 GMT, 14 October 2016 | UPDATED: 08:35 GMT, 15 October 2016

Daily Mail
 ゴシップ満載のタブロイド紙
ではあるのだが、
 子どもの病気や事故、犯罪の犠牲となった子ども
に対しては、同情を寄せて、多く取り扱う傾向がある。

この2歳の坊やが歩けなくなっている原因を作ったと疑われている
 エンテロウイルスD68型
だが、日本ではまだあまり広く知られたウイルスではないだろう。特徴は、上記記事のリーダーにあるように
 子どもが感染すると、喘息や呼吸困難を引き起こすことがある
上に、ごく稀な合併症ではあるのだが、
 最近では、弛緩性麻痺(筋肉が力を失うタイプの麻痺)との関係が疑われている
点だ。
これまで感染例が少なかった関係で、現在のところ、「エンテロウイルスD68型」には抗ウイルス療法もワクチンもない。

国立感染症研究所のサイトより。


エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症とは
(2015年10月22日掲載)  EV-D68エンテロウイルス属のウイルスの一つである。エンテロウイルス属には、ポリオウイルスや、無菌性髄膜炎の原因となるエコーウイルス手足口病の原因となりうるエンテロウイルス(EV)71型などが含まれる。エンテロウイルス属はさらに分子系統解析によりEnterovirus A~JおよびRhinovirus A〜C (species)に分類され、EV-D68はEnterovirus Dに属する。またEV-D68のウイルス学的性状はエンテロウイルス属に属し、かぜの原因ウイルスとして知られるライノウイルス(Rhinovirus A〜C)に類似している。EV-D68に感染し発症した場合、発熱や鼻汁、咳といった軽度なものから喘息様発作、呼吸困難等の重度の症状を伴う肺炎を含む様々な呼吸器疾患を呈する。なお、弛緩性麻痺を発症した患者の上気道からEV-D68が検出された事例が欧米や日本などから報告されており、弛緩性麻痺患者の一部におけるEV-D68感染との関連が疑われている。 (国立感染症研究所 感染症疫学センター)

昨年も、
 さいたま市と青森県で、下肢の麻痺を伴う感染例
が報告されている。

さいたま市の症例。(IASR Vol. 36 p. 226-227: 2015年11月号)


エンテロウイルスD68型が検出された、急性弛緩性脊髄炎を含む8症例―さいたま市
エンテロウイルスD68型(EV-D68)は、2014年秋に米国で呼吸器疾患1,153例(2014年8月中旬~2015年1月15日)のアウトブレイクへの関与で注目されているウイルスである1)。米国では同時期に急性弛緩性脊髄炎が120例(2014年8月~2015年7月)と多発し、その一部の呼吸器検体からEV-D68が検出され、関連が疑われている2)。2014年秋は欧州でも呼吸器検体からEV-D68を検出した急性弛緩性脊髄炎3例が報告された3)。
日本では2010年に山形で発症した1例(咽頭ぬぐい液検体)4)、2013年に広島で発症した1例(気管内吸引液検体)5)、EV-D68を検出した急性弛緩性脊髄炎の報告があった。急性弛緩性脊髄炎頻度の少ない合併症だが、発症すると麻痺が残存する。(略)
症例1:11か月男児。急性弛緩性脊髄炎で入院
不活化ポリオワクチン1期3回目まで接種済みで、独歩を獲得していた。
9月6日から発熱(39.1℃)、7日からポリオ様の右弛緩性麻痺が出現して同日紹介受診し、原因検索のため入院した。9月9日~10日にかけて左下肢も弛緩性麻痺が進行して対麻痺となった。中枢神経症状・膀胱直腸障害はなかった。(略)9月10日で麻痺の進行が止まったが、改善は緩徐だった。退院時には左下肢の筋力が回復傾向だが、右は完全麻痺が残った。入院時の咽頭ぬぐい液からEV-D68を検出したが、髄液・便からは検出しなかった。随伴症状は下痢(最大1日9回の水様便)のみ。気道症状は皆無。(以下略)

参考文献
1. Enterovirus D68, CDC:
http://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/about/EV-D68.html(参照2015-10-7)
2. Summary of Findings: Investigation of Acute Flaccid Myelitis in U.S. Children, 2014-15 , CDC: http://www.cdc.gov/ncird/investigation/viral/2014-15/investigation.html(参照2015-10-7)
3. Poelman R, et al., European surveillance for enterovirus D68 during the emerging North-American outbreak in 2014, J Clin Virol 71: 1-9, 2015
4. 菊池貴洋ら,エンテロウイルス68感染および末梢神経障害を合併した横断性脊髄炎の1男児例,脳と発達 43:S298,2011
5. 米倉圭二ら,エンテロウイルスD68型が検出された急性呼吸不全と急性弛緩性麻痺を来した1例,日本小児科学会雑誌 119:1380-1385,2015

さいたま市民医療センター小児科
 豊福悦史 益田大幸 谷口留美 小島あきら 越野由紀 野田あんず
 古谷憲孝 西本 創 高見澤 勝


退院時には、左足の麻痺は改善しつつあったが、右足の麻痺が残っている。ポリオワクチンは接種済みで、ポリオによる麻痺でないことは間違いないだろう。

青森県の症例。 (IASR Vol. 37 p. 12-13: 2016年1月号)


エンテロウイルスD68型が検出された麻痺症状を呈する小児症例を含む2症例―青森県
(略)
症例1:10歳7か月齢の男児、Guillain-Barré 症候群疑いで入院
2015年9月3日から咳嗽が出現し、4日から咳嗽・喘鳴・発熱(38.2℃)があり、かかりつけ医を受診した。6日左膝の違和感・腰部痛が出現し、7日にかかりつけ医を再受診し、プロカテロール吸入にて帰宅した。8日から左下肢の痺れ、脱力が出現し、かかりつけ医を再々受診後、紹介された病院を受診し、Guillain-Barré症候群疑いのため入院となった。Hopkins症候群疑い・髄膜炎疑いで10日に髄液・血清、13日に咽頭ぬぐい液・直腸ぬぐい液を採取し、当センターに検査依頼があった。それら検体について、エンテロウイルスとライノウイルスに共通する5’ NCRからVP4/2領域を増幅するプライマーセット(OL68-1、EVP2、EVP4)により遺伝子を増幅し、増幅産物のDNAダイレクトシークエンス法、BLASTによる相同性検索を行った。その結果、咽頭ぬぐい液からEV-D68が検出・同定された。髄液、血清、直腸ぬぐい液はいずれも陰性であった。また、エンテロウイルスのVP1領域を増幅するCODEHOP PCR法6)による遺伝子増幅を行ったが、咽頭ぬぐい液、髄液、血清、直腸ぬぐい液はいずれも陰性であった。4種類の臨床検体について、培養細胞(RD-A、HEp-2、Vero)を用いたウイルス分離を実施したが、いずれも陰性であった。(略)
今回、我々が示した症例1については気管支喘息の既往があり、弛緩性麻痺症状を示した症例であった。日本ではEV-D68の流行像については多くの点が不明であるが、全国から報告されていることや米国国内の流行状況をみると、今後の動向には注意が必要である。
参考文献
6. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 無菌性髄膜炎

青森県環境保健センター 筒井理華 武差愛美 坂 恭平  
八戸市立市民病院 藤田真司 鈴木 豊  
国立感染症研究所ウイルス第二部 吉田 弘

青森県の場合は、10歳男児、小学5年生である。風邪だと思っていたら、急に足の具合がおかしくなり、とうとう左足が麻痺してしまったというのは、ご家族にも、患者さんであるこの男の子にも大きなショックだったろう。身体のリハビリと同時に心のリハビリも必要なケースだ。

エンテロウイルスD68型の流行は、これからも続くと思われる。昨年報告されたような、大変気の毒な症例がこれからも出てくるだろう。
まだ、わたしたちには、このウイルスを防ぐワクチンも、やっつける術もない。咳やくしゃみで容易に感染するこのウイルスを防ぐことは出来ず、もし、不幸にして、感染した結果、麻痺が起こってしまっても
 治してあげられない
のである。

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