蘇りの秘薬 『牡丹亭還魂記』第三十四齣 詗藥〜赤松紀彦先生の最終講義より@3/16
3/16に
赤松紀彦先生の最終講義
がオンライン・対面のハイブリッド形式で行われた。テーマは
湯顕祖『牡丹亭還魂記』
が中心だったが、その中で
第三十四齣 詗藥
に出てくる
死せる杜麗娘を蘇らせる秘薬
に触れられた。赤松先生は
男性の下着を小さく切って焼いて
と上品に説明されていたが、有り体に言えば、男性の下着とは
下半身につける褌
のことだ。原文はこんな感じ。
海上有仙方、這偉男兒深褲襠。……翦裁寸方、燒灰酒娘、敲開齒縫把些兒放。
最初に出てくる
海上有仙方
だが、紛らわしい話だが
海上仙方
という医書があって、しかも2種類ある。
一つは、唐・孫思邈(581-682)が撰述したといわれる
備急海上仙方
だが、ほんとに孫思邈が書いたのかはよくわからないし、すでに散逸している。
もう一つは、南宋嘉定六(1213)年に、温大明が撰述した
海上仙方
で、こちらは
温隠居海上仙方
とも称されるが、どちらも『海上仙方』と略されることがあり、いよいよめんどくさい。
さて、話を戻して、
下半身につける下着を焼いた灰を飲ませる薬
というのは、中国で伝世最古の処方集(医方)、後漢・張機(張仲景)の『傷寒論』にすでに見える。ただし、今本は張機原撰本ではないので、この処方が後漢の頃から存在したかは不明だ。
燒褌散方(下半身につける下着を焼いた粉薬の処方)
婦人中褌近隱處、取燒作灰。(女性の下着のクロッチ(股布)を取って焼いて灰にする)
右一味、水服方寸匕、日三服、小便即利、陰頭微腫、此為癒矣。(右一味を、方寸匕の分量水で服用する。一日に三回。尿がすぐに出るようになり、陰部の先がちょっと腫れてくるようだったら、回復する。)
婦人病、取男子褌燒服。(女性が病気の時は、男性の褌を取って焼いて服用する。)
ここでは
生き返るのは女性の杜麗娘
なので、後半の「男性の褌」が適用されている。
「燒褌散方」はいかにもあやしげな処方だが、長く愛されたようで、明・李時珍の『本草綱目』にも受け継がれている。
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