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2024-07-22

赤松明彦『サンスクリット入門 インドの思想を生んだ「完全な言語」』中公新書2812 2024.7.25 1300円

郵便受けに、ずっしりした重みを感じるamazonの封筒が入っている。開けてみたら
 赤松明彦『サンスクリット入門 インドの思想を生んだ「完全な言語」』中公新書2812
だった。424頁でサンスクリット初級文法を日本語で学べる。全50課。
いや、凄い。いきなり、guṇaとかvṛddhiとか出てくるんですが、これって
 Perry : A Sanskrit primer (1901)
だと、最初の方の発音の話じゃん。2回生が母音の階梯がなかなか理解出来なくて悩む奴。
あ、赤松さんは研究室の先輩で、わたしたちは伝統的に2回生の時にPerryでサンスクリット初級を学んだ。サンスクリットは印欧語だから、英語の教科書で学んだ方が何かと都合が良い、というのが、その頃の風潮だった。大体、サンスクリットの辞書は、英語かドイツ語かって時代だったし。今や、オンラインでサンスクリットやパーリ語の辞書が居ながらにして引けるんだから時代は変わった。
だから、令和6年の今、赤松さんのこの
 サンスクリット入門

 日本語でサンスクリットを学ぶ教科書
という立場で書かれている。赤松さんじゃないと書けない教科書だ。
もちろん、これまでにも日本語のサンスクリットの教科書はあるけど、
 初級文法の例文をインド原典から拾ってくる
ものは、見たことがないし、サンスクリットの力がよほど抜き出ていないと出来ない。

まだ、全部に目を通してないのだが、見出しを見ただけでも
 印度学徒の笑いのツボをついてくる
お洒落な排列だ。たとえば、
 第14課 あの山は火をもっている。煙をもっていることから。—子音語幹の名詞(2)
どこの世界にいままで
 Jayanta BhaṭṭaのNyāya Mañjali
の有名な文章を引用して
 2語幹の-mat/-vat名詞
を解説するサンスクリット初級の教科書
が存在したというのだ! さすが赤松さん、凄い。
でもって
 tat tvam asi
は第8課で、2人称を説明する例文に使われているんですよ。溜まりませんね。

Nyāya Mañjaliの文章は、インド哲学/仏教論理学研究では、最初に出てくる喩例で
 あの山に火あり、煙あるが故に
というのが往年のバージョンである。これを元に論理を展開していくのが一つのやり方。あとは
 貝と銀
 空華
 牛と非牛
とかいろいろありますがね、ええ。
わたしは論理学を勉強できるほど賢くなかったので、喩例は知っているけど、その展開の細かいところまでは学んでいない。

今日はささっと3課ほど目を通した。これから毎日
 日本語で学ぶ楽しいサンスクリット初級
を赤松さんに導かれながら、勉強していこう。

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2024-07-10

将棋AI仮想藤井聡太七冠モデルは実在するのか?

藤井聡太八冠が、第9期叡王戦をフルセットで戦った末、挑戦者の伊藤匠七段が叡王位を奪取した。「藤井聡太から初めてタイトルを奪取したい」と言っていた本人がその言葉を実現した形だ。伊藤匠新叡王は藤井聡太現七冠と同い年の21歲。「寝たら、強くなっている」と言われるほど、棋力が伸びる時期だ。
叡王戦は、タイトル戦ではチェスクロック使用各4時間と最も持ち時間が短く、五番勝負の1日制。ストップウォッチ使用の棋戦は、60秒まで時間を読まれなければ、消費時間としてはカウントされない仕組みだが、チェスクロックでは、一手が1秒だったとしても、時計は進む。チェスクロックとストップウォッチの残り時間の違いは大きく、チェスクロックの持ち時間はすぐに使い切ることになり、1分勝負に入る。体感では1時間くらいの差がある。
ストップウォッチならば起きる、「永遠の3分(60秒を読まれる前に指して、残り時間3分が続く)」という事態は、チェスクロックでは起きえず、もし、長考を好む藤井聡太八冠が落とすとしたら、おそらく叡王位だろう、と以前から言われていた。
叡王戦に向けて、万全の準備が出来た伊藤匠新叡王に対し、八冠を保持していた藤井聡太現七冠は、タイトル戦と就位式、普及イベント、免状への署名(アマチュアは、一定の成績を収めれば、日本将棋連盟に段位を申請できる。現在は、免状に羽生善治会長と藤井聡太竜王・名人の署名が入る。羽生・藤井人気もあって、申請数が多く、手元に届くまで、3ヶ月待ちと聞いた。)等があり、自宅に帰る日はおそらく月の半分もないのではないかと思う。AMDから供与されている最新のマシンを直に触るよりも、旅先でスマートフォン経由で分析する時間の方が長いかもしれない。現在、藤井聡太七冠が使用している将棋AIは不明だが、将棋AIには、それぞれ得意・不得意分野があるので、複数のソフトを組み合わせて使っているだろうと思われる。
さて、伊藤匠新叡王の誕生で、全棋士の悲願
 打倒藤井聡太八冠
の一端は実現できた。プロ棋士が使っている将棋AIのうち、たややん(杉村達也弁護士)氏の「水匠」には、独自のカスタマイズ版がある、という噂は時々聞く。たややん氏は、関東所属の棋士とつながりが深い。あるいは
 仮想藤井聡太八冠モデル
があってもおかしくはない。

 

将棋AIは、とっくに人間より強くなっているのだが、人間が将棋を指すことを考えると、余り強くなりすぎるのも、実用的ではない。藤井聡太七冠は、弱めた将棋AIを使って、「未知の局面」を展開させ、対戦していると聞いたことがある。

 

第9期叡王戦では、伊藤匠新叡王は、これまでのタイトル戦で、手も足も出なかった状況を自ら打ち破った。2023年の第36期竜王戦は全敗したが、第49期棋王戦では、第1局に「持将棋」定跡を見せ、それが評価され、2023年度の升田幸三賞を獲得した。初めて藤井聡太八冠を破ったのが、今回の第9期叡王戦第2局(先手番)で、勢いに乗って第3局(後手番)をも制し、最終局第5局(後手番)で、最後藤井聡太八冠を追い詰め、叡王位を奪取したのだ。
叡王戦の伊藤匠新叡王は、これまでの竜王戦、棋王戦とは明らかに違っていた。終盤の精度が上がり、
 藤井聡太八冠なら指しそうな手
を予測して、局面を作ってきた。竜王戦、棋王戦では、踏み込むべきときに躊躇う手があったが、叡王戦では、力強く踏み込んできた。一方、藤井聡太八冠(当時)は、2024年度初頭から、時々「踏み込みを躊躇う手」を見せ、ファンを心配させている。また、最終盤には
 次の1手の正解は1つしかない指し手
別名「藤井聡太の次の一手問題」を指すのだが、伊藤匠新叡王は、間違えずに手を指し続けることが出来た。観戦した印象では
 最終盤の精度が上がり、「藤井聡太の次の一手問題」を交わし続ける
ように見えた。
伊藤匠新叡王は、抜群の記憶力を持っている。子どもの頃、
 裏返しにしたジグソーパズルを解くのが好きだった
ということからも、
 形態の記憶が抜群によい
ことが分かる。叡王戦で、間違えずに指し続ける伊藤匠七段(当時)を見て
 将棋AI仮想藤井聡太八冠(当時)モデルと対戦し続けているのでは
という印象を持った。
伊藤匠七段は、四段当時、第4回Abema 将棋トーナメントで、高見泰地七段とともに、
 チーム藤井 最年少+1
のメンバーだった。準決勝第2局を控え室で観戦していた藤井聡太二冠(当時)と高見泰地七段は、読み筋から一手詰めで伊藤匠四段の勝利となることを確信し
 ハイタッチ
を交わしたのだが、なんとその時
 一手詰め
を逃すという事件が発生した。その後、伊藤匠四段は別な手順で勝利を収めたが、さすがに
 一手詰めを逃すというプロ棋士にあるまじき
と後で反省していた。この1局があったので、伊藤匠新叡王が
 藤井聡太七冠のような抜群の詰将棋力があるわけではない
と思っている。
伊藤匠新叡王の特徴は
 莫大なデータを形として暗記する力
だろう。第36期竜王戦第4局(2023.11.10-11)では
 暗記バカでした
と自嘲気味に語っていたが、飛車の位置を間違えていたために、敗戦に追い込まれた。
ここから、5か月足らずで、伊藤匠新叡王の最終盤の精度は、見違えるように上がった。 

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2024-07-09

陶磁器・ガラス製食器のリサイクルイベント@奈良

近所の公共施設で
 奈良市民対象の陶磁器・ガラス製食器のリサイクルイベント
があるというので、覗いてきた。ユニークなのは
 壊れた食器もOK
という点。欠けた明治期伊万里の染付等、なんとなく捨てられなかった食器を持って出かけた。欠けているけど、金継ぎするほどではない食器たちだ。
回収コーナーで、食器を回収してもらうと、向こう側に
 リサイクルコーナー
があって、自由に持って帰っていいらしい。見ると
 Adam & Eve(たち吉の洋食器ブランド)
 デザイナーもの
といった
 昭和の引出物の生き残り
があったり、会社の記念事業の食器があったり。
コロナ禍以来、すっかり縮小した親戚づきあいのあおりを受けてか
 大きな角皿(ちらし寿司や炊き合わせを盛るのに最適)
 パーティ用大皿
などもたくさん出ていた。
あとは
 海外の有名ブランドに似たデザインの国産食器
などなど。
まあ、回収した後に、売れる物は売ってリサイクル事業の資金にしているだろうから、値の付くような食器はない。

大体、この手のイベントに来る人達は
 食器が好き
なので、
 帰りはリサイクルの食器を連れて帰る
ことに。
 持って来たのより、たくさん持って帰ることになっちゃった
などと歎く人多数。まあ、駐車場にたくさん車が停まっているわけで。

わたしは、回収に出した食器(のぞき)を充当するべく、明るい絵付けのたぶん昭和期の蕎麦猪口と、手元にあったのを全部割ってしまって難儀をしていた、五寸の丼をもらってきた。丼は、たぶん、茶道の菓子器。
最近、どこの百貨店やスーパーも、
 家庭用陶磁器のコーナーを縮小
していて、欲しいものが簡単には手には入らなくなっている。

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