たまたまBS1を付けていたら、始まったのが
世界のドキュメンタリー「バレリーナ・マイコの物語」
だった。見て良かった。
番組内容の紹介。
バレリーナ・マイコの物語
2016年4月8日(金)午前0時00分~
ノルウェー国立バレエ団で東洋人初のプリンシパル(主役級のダンサー)となった日本人、西野麻衣子。妊娠・出産のブランクを乗り越え、再び舞台に復帰するまでの日々を追う。
15歳で英国の名門バレエ学校へ留学。ひたすらバレエに打ち込む人生を送ってきた麻衣子。そんな彼女はいま32歳となり、充実した日々の中で妊娠がわかり、キャリアとの両立に悩みながらも出産を決意する。ブランク後の復帰作に決まったのは大作「白鳥の湖」。育児、そして体格の変化を克服し、果たして麻衣子は無事に大役を果たすことができるのか?
原題:Maiko:Dancing Child
制作:SANT & USANT (ノルウェー 2015年)
「マイコは踊る子って意味よ」
と西野麻衣子は語る。海外で、特に白人の多い地域で生きていく東洋人の顔をした麻衣子。きつい顔立ちで、頬骨が高い。
プリマドンナになりたい。
娘の願いを叶えるため、両親は、家と車を売って、英国ロイヤルバレエスクールの学費を工面した。15歳のときだ。後戻りは出来ない。負け犬となって帰国なんてしない。麻衣子はそう思ったと言う。
たとえ、ロイヤルバレエスクールに留学できたとしても、その後の成功が約束されているとは限らない。しかし、麻衣子は研鑽を積み、19歳でノルウェー国立バレエ団に入団、25歳でプリンシパルに抜擢される。東洋人としては同バレエ団では初めてのことだった。
そして一昨年。充実したプリンシパルとしての活動の傍で、小さく囁く声がある。
家族を持つのはどう?
Skypeで話す大阪の両親も、バレエ一筋だけではない行き方があるのでは、と控えめに言う。本音は「孫の顔が見たい」。
バレエに限らず、ダンサーは見た目の華麗さとは裏腹に重労働だ。体のあらゆる筋肉を鍛え直して、まるで重力が存在しないかのように、軽やかに踊ってみせる。その筋肉の一つ一つは、毎日たゆまぬ練習で鍛え、足りなければトレーニングをし、痛みがあればメンテナンスを受けて、常に理想的な状態を保つように培ってきたものだ。一朝一夕に手に入れられるものではないし、怠ければすぐに失われてしまう、ガラスのように脆いものだ。
麻衣子は32歳。女性ダンサーとしては、体力が少しずつ衰え始める時期である。
新しいシーズンの稽古に入ってほどなく、麻衣子は妊娠に気づいた。
もし、授かったら、その時は産む
とは決めていたものの、バレエを始めてから、鍛え、チューニングしてきた自分の体が、未知の状態になってしまう。母親が子どもを産むために、人類がこの世に出現して以来続いてきた、動物としての様々な反応は、鍛え抜いたバレエダンサーの体を文字通り骨抜きにしていく。
妊娠を告げると、バレエ団の人々は、異口同音に笑顔で祝福した。
産むと決めた以上、麻衣子は行ってしまうのか、それとも戻ってくるのか。
麻衣子は、復帰を決意していた。
麻衣子の穴を埋めるべく、アメリカから、新しいダンサーが入団した。メリッサ。
メリッサは、麻衣子の出産前最後の舞台では、プリンシパルを務めた。
大きなお腹を抱えて踊る麻衣子がメリッサを見つめる視線には、複雑な思いがこめられている。
可愛い赤ちゃんが生まれる。
麻衣子もしばし、赤ちゃんに寄り添って過ごす。
次のシーズンの前に、麻衣子は、バレエ団の監督と相談する。
復帰するなら、いつ準備を始めればいいの?
産後間もなく、厳しいトレーニングで、前の状態にまで戻そうとする日々が始まる。
幸い、夫は
僕が育休を取るよ
と、麻衣子の復帰に協力してくれた。
赤ちゃんの世話もしながら、麻衣子は体を鍛え直す。
その麻衣子の一挙手一投足を、若いダンサー達が
麻衣子がもし、前ほど踊れなくなっていたら、次はわたしが取って代わるのだ
と、燃えるような目で見つめている。誰かのピンチは誰かのチャンス、しかも、30歳を過ぎたプリンシパルが妊娠出産した。こんなチャンス、逃さずにはおかない。
麻衣子は、
「白鳥の湖」で復帰したい
と訴えた。「白鳥の湖」は、難曲で、復帰したばかりの麻衣子には荷が重すぎると誰もが考えた。しかし、このバレエ団でプリンシパルになった時に踊ったのも「白鳥の湖」だった。どうしても、「白鳥の湖」でなくちゃ、ダメなんだ。麻衣子の願いが通った。
しかし、現実は厳しい。産後の体は、なかなか元のようには軽やかに踊ってくれない。
最後の舞台リハーサルで、「白鳥の湖」の中で最も難しいとされる
黒鳥オディールの32回転のgrand fouette rond de jambe en tournant
が決まらない。途中で回れなくなってしまうのだ。途方に暮れている麻衣子に、仲間達が口々にアドバイスをする。果たして、麻衣子は踊りきれるのか。
復帰の舞台には、日本から両親を始めとする親類縁者も駆けつけた。かつて、生まれたばかりの麻衣子を置いて、スーツを着て仕事に出かけざるを得なかった母は、和服で娘の舞台を見ることにする。麻衣子のメイクと母の着付けのシーンが交互に映される。幼子を置いて仕事に向かった母を、麻衣子は、
格好良かった
と、今でも誇りに思っているという。
舞台の幕が上がる。
麻衣子は、難曲「白鳥の湖」を踊りきってみせる。リハーサルではうまくいかなかった黒鳥オディールの32回転のgrand fouette rond de jambe en tournantも、大過なく終えた。
どのシーンが終わった後も、大きな拍手。
幕切れでは、更に大きくなった拍手や歓声が上がった。
バレエ団の人達も、口々に、復帰成功を祝う。
奇蹟の舞台
がそこにはあった。
バレエのプリンシパルという、肉体的にも精神的にも厳しい条件下で、子どもを産む選択をし、産後すぐに復帰を遂げた西野麻衣子。こんな素晴らしいダンサーがいたとは。
ポジティブに生きる
のが身上という麻衣子は、いい意味での
大阪人
である。
淡々とした取材態度が好ましいドキュメンタリーである。
おまけ。
最近の西野麻衣子インタビュー。
バレリーナ・西野麻衣子さんインタビュー ノルウェーでは働く母が100% 産後も海外で活躍するバレリーナ・西野麻衣子が明かす育児事情
こちらは映画版の予告編。
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