2016-11-28

早稲田大学文学部蔵書印付の顧頡剛等編『古史辨』が除籍されてヤフオクに出品されている件

ヤフオクを見て、驚いた。
一昔前なら、
 中国学をやるなら、普通に手許に置いてめくる書籍
として、院生以上なら割と持っていたと思う
 顧頡剛等編『古史辨』

 早稲田大学文学部の印が書底に押してある除籍本
が出ている。
20161128_52207
20161128_52154
背のラベルが読めないのだけど、
 重複本として処分
された雰囲気だ。

家にも1セットあるけど、購入当時は結構高価な書物だった。

近年、『古史辨』のような中国学の古典的書籍、中国国内のほぼ全ての新刊を含む出版物は愚か、
 日本で最近出版された学術図書
に関しても、
 中国で海賊PDFが蔓延している
のは、周知の事実だろう。国内の新刊については、たぶん、日本にいる留学生等が中心になって、せっせと
 自炊した書籍をネットにアップしている
のだろうと思っている。最近は大学図書館では
 ペーパーレスのコピー推奨
というわけで
 紙に印刷せず、USBにそのままスキャンした画像を取り込む
こともできるから、それを適当に加工してアップするわけだ。

そんなことがまかり通っているためか、数年前に京大文学部図書館に行ったら
 最近は中国古典の書籍は、学生さんがあまり利用しないんですよ
と司書の方が仰っていた。まあ
 手許にある端末をネットに繫げば、現物のコピーが入手できる環境
になってしまっているので
 わざわざ図書館に行って、紙の書籍を確認する必要がない
ってことなんだろうね。確かに、書庫の漢籍は手を触れられた頻度が減っているように感じた。開かない書籍は、天に埃が溜まるから、なんとなく煤けて見える。

恐らく、『古史辨』が除籍になった理由の一つは
 利用頻度が低い
ためだろう。

しかし、ヤフオクに出回るとはね。

知り合いの国立大学の先生何人かは
 重複本は廃棄する方針
という図書館のやり方に業を煮やし、
 廃棄前に「重要な典籍を救出」する
ように心がけられているという。

今から10年以上前だけど、古書店経由で、ある国立大学図書館の除籍本を入手したことがある。
 ジョセフ・ニーダム『中国の科学と文明』日本語訳の既刊分
だった。
 大学図書館から、科学史の基本図書であるニーダムの『中国の科学と文明』が除籍された
ことに驚いた。
同時に、日本での科学史の扱いの低さも感じた。

しかし、
 ネットにあるから、読まれるか
といえば、そういう訳でもないだろう。
 積ん読本は背文字が見える
が、
 ダウンロードした電子文献は、ファイルを開かない限り、落としたことさえ忘れてしまう危険性大
だからな。

かくして、古典的名著は利用頻度が落ち、あちこちの図書館から除籍されてヤフオクに出回り、ダウンロードされた電子文献は、一度利用された後は忘れ去られる。
古典的名著は、こうして書庫から駆逐され、現物を手に取れない状況が続けば、最後には存在すら念頭に上らなくなるだろう。

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2016-11-23

いわゆる「○ぺ」

今年夏のコミケ(C91)から
 SF
というジャンルが消滅、どうにも分が悪いSFなのだけれども、数あるSF小説の中でも
 スペースオペラの大作
といえば
 ペリー・ローダンシリーズ
にとどめを刺す。ドイツで1961年に始まったシリーズは、1971年7月から早川書房より日本語訳が刊行され始め、この11月には最新訳の第532巻『細胞活性装置の危機』が

出たばかりだ。日本語版は2話で1冊なので、原版の話数から行くと1063,1064話目とのこと。

もちろん、ペリー・ローダンシリーズはこんなものでは済まない。
ドイツでは、まだ刊行が続いている。元のシリーズ以外には、Neoなんてのも出来ている。
で、今年出た紙版の新しいものは、第2879話で
Perry_rhodan_erstauflage_2879_2016
でもって、最近は
 eBook
の方が先行しており、現在予告されている近刊は、来月出る
 Perry Rhodan 2886: Der Schwarze Sternensturm (Heftroman): Perry Rhodan-Zyklus "Sternengruft" (Perry Rhodan-Erstauflage)
61oanwksfnl
で、これが邦訳されるのはいつのことやら。

待ちきれないファンのために、 rlmdi.「ローダン研究会MDI(Rhodan Laboratorium - Meister der Insel)」が
 d-information
で、日本未発表のドイツ既刊分を逐次紹介してくれている。最新は
 Perry Rhodan-Heft 2882話「最後の遷移」
を紹介する
d-information 955 [2016/11/21]
だ。

この長大なスペオペ、「ペリー・ローダンシリーズ」のファンのことを
 ○ぺ(まるぺ)
と呼ぶ。他称であり、また自虐を籠めた自称でもある。
邦訳が500巻を越えた今では、往年の○ぺの方々にも様々な変化が。
古本や檸檬さんのtweetから。


まだ先は長いしねえ。

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2016-11-06

東京古典会 No.1096 宋版経は、『中阿含経』巻32「優婆離経」

東京古典会のオンライン目録を眺めていたら
 1096 宋版経
 沙門瞿曇受優婆離居士… 経名不明 首尾欠一巻
と書いてあるのに気が付いた。
 経名不明
というけど、そう難しくない。ググれば出てくる。実に一般的な経典で、大正新脩大藏經の第1冊目に収録されている
 No.26 『中阿含經』60卷 東晉 瞿曇僧伽提婆譯 第32卷「優婆離経」の真ん中近く
が該当箇所だ。

しかし、なんだって
 経名不明
にしたんだろう?
 
 

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2016-05-26

井波論語を待つ 井波律子『完訳 論語』岩波書店@6/8

『論語』というと、
 非中国研究者に玩具にされる古典
である。それだけ、懐が広い、ということもできるだろうけど
 原典に即せば、あり得ない「読み」

 独自の読み
としている所謂
 『論語』本
が世に溢れている。

来る6/8に、井波律子先生の
 全訳 論語
が岩波から発売される。井波先生の『論語』の読みは既に
 岩波新書『論語入門』
で示されているのだが、新書では紙幅に限りがある。
 是非、『論語』全体についての井波先生の訳を拝読したい。
と、思っていたら、岩波書店「来月の新刊」に
Photo
 井波律子『完訳 論語』
の予告が。
実に楽しみだ。

『論語入門』の読み方からすると、漢学宋学の両方の成果を取り入れての解釈になると思われる。師の吉川幸次郎先生と同じアプローチの仕方である。所謂『吉川論語』は、
 先師尾崎雄二郎先生
という良き受け手を得て成った書であるけれども、井波先生は、どのように稿を進められたのだろうか。
(追記 8/12 3:00
ご指摘ありがとうございました。誤変換したまま、気が付きませんでした。訂正しました。



追記終わり)

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2016-03-07

#図書館やめたの私だ 非正規職員が増えてブラック化する図書館業務

2/15付の増田
保育園落ちた日本死ね!!!
は、ネットで火が付き、SNSでは次々と回覧され、ついには2/29の衆議院予算委員会で取り上げられるまでになった。産経より。


「保育園落ちた日本死ね」ブログで激論 安倍首相「匿名である以上確かめようがない」
(略)
 民主党の山尾志桜里氏は、「何なんだよ日本。1億総活躍じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ。子供産んだはいいけど希望通りに保育園に預けるのほぼ無理だからって言ってて子供産むやつなんかいねーよ」などとする、15日の匿名ブログへの書き込みを紹介。「言葉は荒っぽいが、本音、本質だ」と安倍晋三首相に迫った。
 首相は「匿名である以上、実際起こっているか確認しようがない」と述べる一方で、「日本死ねというのは別だが、大変残念な苦しい思いをしている人がたくさんいることは承知している」と述べ、待機児童解消に向け保育士の待遇改善の必要性などを訴えた。
(以下略)

まあ、大体最近の安倍ちゃんは
 自分の「失政」と取られそうな質問
に対しては
 冷笑と早口で答える
ので、
 真面目に考えているとは思えない
のだが、この時も
 待機児童解消に向け保育士の待遇改善の必要性
とは言ってるものの
 自公民3党合意の「子ども・子育て支援新制度」の3千億円の追加財源確保
等の具体的内容には踏み込まなかった。子ども・子育て支援新制度には、年約1兆円の財源が必要で、その内7千億円は消費増税でまかなうものの、残り3千億円は財源が不足しており、どこからか捻出しなければならない。この話は、平成24年8月の
 社会保障と税の一体改革関連法成立
の時から、喫緊の課題とされていたのにも関わらず
 安倍ちゃんは選挙権のない子どもには関心がない
のか、
 棚ざらし
という
 不作為
を決め込んで、
 このまま、知らんぷりすれば、選挙はまたまた大勝利
と踏んでいる模様だ。まあ、子どもに選挙権はないのだけれども、子どもの親には選挙権があるからな。子どもを持つ若いおとうさん、おかあさん、次の選挙には、絶対に行こうね。行って投票しないから、こんな
 放置プレイ
を決められるんだから。同じ税金を払っていて
 ばかばかしい
でしょ? 税金は罰金じゃないんだから。

上記の増田の筆者の方が、twitterで
 #保育園に落ちたの私だ
というハッシュタグを作り、
 働きたいのに、子どもを預けられない現状
を、訴え始めた。このハッシュタグに共感する若いおかあさん達は実に多い。おとうさんだって困っている。
そして、とうとう
 一昨日の土曜日(3/5)
には
 保育園に入れなかったおかあさん達を中心とするデモが国会前で行われた
のだ。デモといっても
 スタンディング
で、
 抗議のために、ただ立ち尽くすスタイル
である。


「保育園落ちたの私だ」 国会前で抗議行動
  「保育園落ちたの私だ」。そんな紙を掲げた人たちが5日、国会前に集まった。子どもが保育園に入れなかった人、子育てを終えた人、これから子育てする人など、約30人。深刻な待機児童問題に危機感を抱いた人たちがツイッターを通じてつながり、雑談しながら立っているだけの、静かな抗議行動だ。
(略)
 ネットでは、「保育園落ちたの私と私の仲間だ」と題し、保育制度の充実を求める署名が始まり、2日間で2万人を超える賛同が寄せられている。(仲村和代、後藤遼太)

今見たら、署名の数は
 2万5千人を突破
していた。

保育園に入りたい子どもが増える一方、過重労働かつ長年にわたる低賃金で、保育士さんが辞めていく。twitter上では
 #保育士やめたの私だ
のハッシュタグが生まれ、こちらも共感を呼んでいる。
親戚に保育士がいたので、つぶさにその仕事ぶりを見ていたのだが、結局、腰痛が酷くなって辞めた。
そもそも保育士は、呆れた話なのだが、
 結婚前の腰掛仕事
とされてきた。その前提だから
 安く、若い労働力を、短期間コキ使う
というのが経営者側の思惑で、
 「みなさんがたは今日から、『先生』ですよ。(先生は聖職、というニュアンス)」
 「体力のある若い方には、どんどんやっていただかないと。」
などと
 若者の自己犠牲は当たり前
のような態度で
 子どもとふれあえる仕事がしたい
と希望に燃える若い女性を搾取するのが
 保育士
の業務だからな。倫理もへったくれもない。
従来型の保育園ではね、元々は
 多くの保育士さんには嫁入り前の短期間で辞めて貰うつもりの給与体系
なんですから。
 幹部
になる保育士さんは一握りで構わない。一握りで構わないなら、
 実力より血縁、地縁等が優先
されてもおかしくない。
ま、そんな
 やらずぶったくり業界

 保育の美名
に隠れているわけなのだ。残念ながら、介護職も似たようなものだ。
で、
 保育業務を無資格で
って話まで出ている。


わたしも、この
 やっつけ仕事で、預けられた子どもが大ケガをしたり、亡くなる危険が高まる
と思う。万が一、その時は
 国を相手に賠償請求訴訟
になるぞ、安倍ちゃん。

そして、今日は
 #図書館やめたの私だ
というハッシュタグが生まれた。提唱者は猪谷千香さん。











嗚呼。
地域の文化を担う図書館の図書館員さん達が辞めていく。
4年後の2020年、日本は
 東京五輪
でお祭り騒ぎになるかもしれないが、
 文化的地盤沈下
が起きているのも、間違いなかろう。

おまけ。
こちらは大学図書館の状況。あれからもう9年。
2007-10-07
大学図書館崩壊 司書を時給1000円でアウトソーシング

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2016-01-23

孫猛『日本國見在書目録詳考』 上中下 上海古籍出版社 2015.9 2459頁

平安時代の漢学者、承和十四年(八四七)に生まれ、寛平九年(八九七)に亡くなった藤原佐世が編纂した漢籍目録が
 日本國見在書目録
だ。当時、中国や朝鮮半島から日本に伝わっていた漢籍や、日本で撰述された漢文による書物を目睹し、四十の項目に分類、書名と巻数を列挙している。現存する日本最古の漢籍目録である。
この『日本國見在書目録』だが、唯一の最善本が
 宮内庁書陵部所蔵の室生寺本
で、平安末期の古写本である。現在、一般に行われているのは
 江戸時代に室生寺本を転写したものが中心
だ。
早稲田大学法学部の孫猛教授は、書誌学を専門とされ、昨年9月2500頁になんなんとする
 日本國見在書目録詳考
を、上海古籍出版社より出版された。来日以来28年に渡る、日本における
 日本國見在書目録研究の成果
が、この大冊に収められている。
上巻には口絵があり
 室生寺本のカラー写真
が数葉、掲げられている。デジタル撮影じゃないかな。次に
 本文篇
として、書籍に番号を振った形で
 校訂された室生寺本の本文
があり、更に
 考証篇
として
 個々の書籍に関する詳細な考証
が続く。下巻の途中からが、
 研究篇
で、
 編者藤原佐世の生涯

 写本の伝写の過程と分類(この部分は中安真理氏による)
など、『日本國見在書目録』を扱う上で、当然浮かぶ疑問を取り上げ、論じている。
題識等を集めた資料篇が続き、付録として索引が付いている。中国の出版物なので、四角号嗎[口馬]・ピンインで引く形式だが、日本の読者の便を図って、音読みと四角号嗎[口馬]の対照索引も付されている。

内容は詳細であり、中国撰述の書物に関する論考は素晴らしいが、一部の
 書物の同定
の部分に、議論の余地がある。
ともかくも、本書が
 『日本國見在書目録』について議論する強固な土台
となったことは疑いない。これからは、本書を抜きに『日本國見在書目録』を取り上げることは出来ないだろう。

一つ、悲しく残念なことを言えば
 日本文化の宝物と言うべき『日本國見在書目録』研究書

 日本の出版社が手がけなかった点
だろう。たとえば
 岩波書店
が出してもおかしくないのだが、
 中国の出版社から中国語(といってもほとんど所謂「漢文」)で出る
ことになった。日本語で出版すれば、更に大部になったのは間違いないが、
 平安時代の学術状況を日本人が理解する手助け
にはなっただろう。特に、平安時代を研究する国文国史の内に少なからず存在する中国語に闇い学徒を裨益すること大であったと思うと、残念だ。

林望氏が常々慨嘆されているように
 日本では書誌学は「飯が食える学問ではない」
のである。出版しても、売れないから出版されない。それは、伝統的に書誌学を重んじる中国とは大きな隔たりがある。

なお、amazon.cnに注文すると、4日程で届く。
価格は、送料110元を加えて735.30元。
広州から送ってくるので速い。

国文・国史のみならず、中文・中哲・東洋史の研究室でも書架に必ず備えておくべき。
電子書籍にしてくれると、もっと使いやすくなるのだが、上海古籍にそれを言ってもしょうがないだろうな。

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2016-01-09

あ・かるく、「いつか見た風景」 パトリシア・コーンウェル『標的』上下 講談社文庫

なんとなく、惰性で買っている年末恒例の
 パトリシア・コーンウェル 検屍官シリーズ
の第22作
 標的 (上・下)
だが、最初の印象といえば
 え? こんなに薄くなっちゃったの
というところだろう。
 前作『儀式』上下は総ページ数 768ページ
だったのに対し、
 今作『標的』上下は総ページ数 656ページ
と、
 なんともおとなしい長さ
に落ち着いている。
内容も、検屍官ファンなら
 次の展開が読めてしまう、ライトな筋立て
だ。翻訳の力か
 明るい印象の文体
なのも与って、
 すいすいあっという間に読める作品
になっている。

そうそう。今作では、ずっとパトリシア・コーンウェルが拘ってきた
 LGBTへの賛意、賛美
が、ずるっと抜けている。寧ろ、これまでとは趣向を変え、
 異性愛の描写に傾斜
していると言っても良いだろう。

で、長年のファンにちょっとネタバレすれば
 「登場人物一覧」を見ただけで犯人の一人が誰かすぐ分かる
だろう。上巻の一覧を見て
 こいつだろ
と思ったら、その通りで、拍子抜けした。ちなみに
 他の犯人は、登場人物一覧には出ていない
という
 これって、アリなの?
なルール違反が見られる。まあ、名前を出しちゃうと
 こいつが犯人に決まってる
ってすぐ分かるからね。もっとも、名前はないけど、上巻の段階で
 ああ、たぶんこれはアレで、その内姿を現すだろうな
と思った謎の人物が出てくる。というわけで
 あまりにも与し易すぎてガッカリ
というか
 看板は『検屍官』だけど、中身は別物
というか
 『検屍官』の「薄い本」
だと思って貰っても構わないかも。ともかく
 中身が薄い
んだもん。ま、その分
 読みやすい
けどね。

で、これは翻訳者の技倆の問題なのか、原作の問題なのか、原書を読んでないので分かりかねるが
 技術的な部分の説明が、いつになくわかりにくい
という、困った特徴もある。

で、ネタバレはしないけど
 今後、これでまた引っ張るんだ〜
というのが丸わかりな結末になっている。それがどう展開するかも、割と想像しやすい。そういう意味で
 CSI:マイアミ
が好きだった人には超お勧め。様式美って奴ですな。

ううん、どうした、パトリシア・コーンウェル。登場人物の年齢構成を『黒蠅』でむちゃくちゃにしたけど、『標的』の登場人物も、年齢に沿ってない、変な行動をしてるぞ。また、年齢の付け替えをする気か?
パトリシア・コーンウェルご本人は、今年で60歳になる。

ところで、今作が従来のパトリシア・コーンウェルの検屍官シリーズでもより 
    薄味
になったことを指摘したが、(下)では、より「わかりやすい描写やプロット」が増えてくる。長年のファンなら、これまでの作品の傾向から、この後どう展開するかをほぼ予想できるだろうし、残念なことだが、それは多分間違っていない。
これまでにも検屍官シリーズでは、アメリカのTV局CBSが制作しているクライムサスペンス「CSI:」Seriesを意識した描写が時々見られた。ご存知のように、検屍官シリーズがその制作のヒントの1つになったと思われる、科学捜査を主題とする「CSI:」Seriesは、本家「CSI:(ラスベガス)」スピンオフの「CSI: Miami」「CSI: NY」の3作品ともに終了してしまった。本家は昨年Series15を、2012年にMiamiはSeries10を、2013年にNYはSeries9を以て終わった。(現在は、全く別作品といってもいい「CSI: Cyber」だけが続いている。もうね、主人公のパトリシア・アークエットが出てくる度に「わたしは、アリソン・デュボワ」という「ミディアム」の台詞が頭に浮かぶ。)
で、『標的』上下を通読すると、ともかくも「わかりやすさ」が目に付く。パトリシア・コーンウェルの文体の特徴は、情報がびっしり描き込まれている割には、全体像がつかみにくいところだったのだが、今作では、そうした冗長さがなるべく排除されているようで、あたかも、「映像作品原作」のような「見通しのよさ」を感じる。そう、間に「原作をシナリオ化するための通訳」を挟まなくても、そのまま映像化しても、困らないような。
その代わり、パトリシア・コーンウェルが「大事」にしてきたはずの登場人物達は、まるで書割のような、薄っぺらい人物へと後退している。いつもだと、ケイが、「絶え間ないしつこい頭痛」等に悩まされ、鎮痛剤をしこたま呑む様子等が繰り返されるのだが、今回は、この辺りの「ケイの肉体的苦痛の描写」も超あっさり。ま、読んでいて楽しい部分じゃないから、この「削減」は歓迎したい。
プロットといえば、従来の作品で使われてきた手法を自ら「コピペ」したような、意外性のなさに溢れている。検屍官シリーズの醍醐味は
 読者を裏切る展開
だった筈なんだけど、裏切るどころか、予想通りに話が進む。
「薄い本」と先に言ったけれども、まさに
 パトリシア・コーンウェル本人による「二次創作」のような印象
を受けるのだ。
LGBTへの賛意・賛美を捨てているのも
 あるいは映像化して世界中に売るため

 「主張を薄め」て、「一般受けしやすくした」のか?
と勘ぐることも出来るだろう。映像作品を売る相手は、必ずしもLGBTに寛容な国や地域ばかりではないからな。アメリカ国内だけならともかく、本家「CSI:」が世界150か国に配信されたことを考えれば、
 パイは大きい方がいい
と思ったとしてもおかしくはないだろうね。

パトリシア・コーンウェルは、自らの「現在」を作品に投影する作家として有名だ。今の作者は、自分が作り上げてきた「作品世界への愛」よりも、「映像化の魅力」の方が勝っているのではないか、そんな疑念を抱いた。

おまけ。
役に立つ、検屍官シリーズの年表。『審問』までの間に、登場人物がどうなっていたかを、これで検証できる。
検屍官シリーズ 年表

更におまけ。
これまでの検屍官シリーズの感想。
2006-06-12 違うシリーズになって三作目 パトリシア・コーンウェル『神の手』上下 講談社文庫
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2006/06/post_aa09.html
2009-01-10 パトリシア・コーンウェル『検屍官』シリーズ続編が出ないわけ
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2009/01/post-0824.html

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2015-11-28

早川書房70周年記念 11/27から12/3までの1週間 電子書籍402点が半額に!

早川書房太っ腹。


今だけ! 早川書房創立70周年記念、電子書籍400点半額キャンペーン開催中 (2015/11/27)
今だけ! 早川書房創立70周年記念、電子書籍400点半額キャンペーン開催中
(2015/11/27)

 早川書房創立70周年を記念して、このニュース欄でも続々と特別企画の開催を告知していますが、電子書籍についても各書店で大規模なキャンペーンがスタートしています。
 主要電子書籍書店にて、本日より1週間限定で12月3日まで、国内作家作品約400点がなんと50%OFF。名作、話題作、人気シリーズなど豪華なタイトルが、この時ばかりの特別価格で展開されています。
 書店サイトをご確認いただき、いつか読もうと思っていたあの作品をぜひ手に取ってみてください。
 こんな機会は2度とないと思いますよ!

【期間】
2015年11月27日(金)〜2015年12月3日(木)

【主要取扱い電子書籍ストア】
Reader Store(ソニーマーケティング株式会社)http://ebookstore.sony.jp/
楽天kobo(楽天株式会社)http://books.rakuten.co.jp/
kindleストア(アマゾン)http://www.amazon.co.jp/
紀伊國屋書店ウェブストア(株式会社紀伊國屋書店)http://www.kinokuniya.co.jp
honto(株式会社トゥ・ディファクト)http://honto.jp/
BookLive(株式会社BookLive)http://booklive.jp/
BookPlace(株式会社東芝、株式会社BookLive)http://bookplace.jp/
セブンネットショッピング(株式会社セブンネットショッピング)http://www.7netshopping.jp/dgbooks/
GALAPAGOS STORE(シャープ)http://galapagosstore.com/
ブックパス(KDDI株式会社)http://www.bookpass.auone.jp/
BOOK☆WALKER(株式会社ブックウォーカー)http://bookwalker.jp/

半額になっている書目はamazon.co.jpでみるとこちら。
【半額】早川書房創立70周年記念 国内作家作品キャンペーン(12/3まで)
全402冊。多いのは『グイン・サーガ』かな。
伊藤計劃は『虐殺器官』『ハーモニー』『The Indifference Engine』の3冊が入っている。

というわけで、もし、読んでみたい書目があれば、チャンスかも。

わたしは、早川書房は、科学もののノンフィクションが好きなので、今回はあまり恩恵に与らない。

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2015-10-12

岩波現代文庫が、講談社学術文庫と比べて、とっても不親切な点

岩波の現代文庫なのだが、惹句に次のように書いてある。


20世紀後半以降に刊行された名著を現代に甦らせ、21世紀に生きる術をそこから見出してほしいという願いが込められています。

つまり、現代文庫に収録されている作品は、岩波のオリジナルとは限らない。従って、広告やカタログに、
 元になった書物の情報
が必要だと思うのだけれど、
 9月の新刊
を見ても、その中の1冊からリンクされている
 詳細情報
を見ても
 元本の情報が全く書かれてない
という素晴らしさだ。
 大岩波から出すんだから、元の出版社だの、刊行の年月日だの、そんなのはどうでもいい
というステキな判断なのか、岩波?

岩波の現代文庫と同じように
 元は他社の出版物を含む講談社の学術文庫
では事情は違う。
たとえば、今月出たばかりの辻惟雄先生の
 若沖
があるのだけれども、その紹介ページの末尾には
 初出:本書の原本は1974年、美術出版社より刊行されました。
と、ちゃんと明記してある。

どっちの態度が
 オンライン書店などで買おうとしている読者により親切
かは、言うまでもあるまい。てかさ〜、
 似たようなタイトルの書籍を複数出版している著者
などの場合
 どれがまた出版されたんだ
というのが、岩波のやり方だと、手に取るまで全く分からない。今の時代、誰でも岩波の書籍を書店で実際に触れるわけじゃないでしょ。講談社学術文庫のように、初出を明記してくれれば、間違った書籍を買わずに済む。

これだけ、街の本屋が潰れ、岩波の出版物を常時置いているような
 良心的な書店が減っている
というのに、岩波は大多数の読者に歩み寄るつもりはないようだな。
 ウチの書籍を常時置いてる大型書店or生協書籍部の顧客

 岩波と名が付けば、なんでも買ってくれる読者
だけを相手にするつもりなら、しょうがないですな。

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2015-09-20

ヤマザキマリ/とり・みき 『プリニウス』1〜3 新潮社

たとえば、岩波文庫に収められている、タキトゥス『年代記』やスエトニウス『ローマ皇帝伝』を繙く時、微かに、古代ローマが姿を現す時がある。わたしたちが知っている、整然としたローマの「遺跡」からは窺い知れない、ひどく猥雑で不潔で、しかしながら活気に溢れるローマがそこにはほの見える。
消毒されないローマ、すなわち、猥雑で不潔で活気に満ちたローマは、ポンペイやその周辺の遺跡からは、時々掘り出される。79年、Vesuviusの噴火によって、火山灰に埋もれた死の都ポンペイ。そこで大プリニウスことガイウス・プリニウス・セクンドゥス(Gaius Plinius Secundus)は命を落とした。
本書の1巻は、79年の噴火の最中の描写から始まる。プリニウスのその後の命運については後の展開に委ねられ、口頭記述係を果たす若いエウクレスがプリニウスと出会った数年前に話は溯っていく。
エウクレスの驚きを通して、わたしたちは、プリニウスの興味の広さ、知識の膨大さ、ローマ時代の怪しげな「智慧」に向き合うことになる。
同時に、ローマ人がこよなく愛した風呂、吐いては次の食事に取りかかる美食、機能的なローマの都市と家々の詳細な見取り図、そして何より猥雑で不潔で人々のざわめきに満ちたローマの街を見るのである。
それはひとえに、イタリアに画業で留学したヤマザキマリと、何よりローマを描くのが好きらしいとり・みきとの2人の漫画家の、想像を絶するきめ細やかな下調べと打ち合わせによるのだ。
労せずして、ローマを「目撃」できるわたしたちは、実に恵まれている。

プリニウスといえば、30年ほどまえには、一部好事家と澁澤龍彦のファンが知っているくらいで、表に出てくるような人物ではなかった。
プリニウスの主著『博物誌』37巻は、その記述内容の疎密や真偽が一定では なく、まさに「奇書」扱いだった。ちょっと洒落たこと、あるいはスノッブを気取りたいなら、『博物誌』から引用してみせるのが、大学生以上の「裏技」でもあった。(ラテン語が読めなくても、大学図書館にはヨーロッパ各国語版があるだろうから、適当なことは言えた。)
ヤマザキマリ/とり・みきの『プリニウス』は、ともすると偏奇と退けられがちな『博物誌』を、わかりやすい形で作品中に落とし込んでいる。2人の作者のプリニウスへの深い愛を感じる。

毎年1巻ずつしか出ないようで、今の感じだとあと2巻くらいかな。

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