『藤井聡太のいる時代 最年少名人への道』朝日新聞社 2023.9
朝日新聞文化欄日曜日に連載されている
大志 藤井聡太のいる時代
の連載をまとめた第二弾。今回は
2020年8月〜2023年6月
までの掲載分にその後の補筆を加えている。なんといっても、藤井聡太四段が誕生した2016年に
藤井聡太 名人への道
というコーナーを作って、盛り上げてきた朝日新聞文化部、とうとう
藤井聡太名人竜王が誕生
してしまった。
毎週、朝日紙上で読んでいたのだが、今回は、連載に手を入れてまとめた、という。
それが時々うまくいっていない。藤井聡太七冠の動きがわかりにくくなっているのだ。
どうも
新聞連載
という性格上
正確な日時を入れる
方には統一がとれているが
じゃあ、その時、藤井聡太七冠はいくつでどういう地位だったの?
というあたりが不足している。有名な谷川浩司九段との指導対局の説明に
少年時代(p.199)
とあるのだが、あなた、
14歳でプロ棋士になった藤井聡太七冠の「少年時代」って何よ
である。正確には
8歳、東海研修会在籍時
と書くのが親切というものだろう。東海研修会に入会したのは小学1年生の3月だ。
藤井聡太七冠の「少年時代」が
すごい
というなら、
その当時の年齢・学年
も書いてほしい。前回の『藤井聡太のいる時代』に書かれているからといって、そこは括弧でもつけて補足しておいて頂きたかったな。
連載だから、
その当時の読者には自明の事実
は省かれているのだろうが、時を経て編集しているのだからそのあたりの心遣いは必要だろう。
連載から漏れている、
名人戴冠
までの動きは「特別編」として報知(報知新聞のサイトは「王手報知」というコーナーが将棋を扱っている)から移籍した北野新太記者が書いているのだが、北野執筆記事は
文に溺れる弊
がある。
真の勝負所で踏みとどまる強さが藤井の骨頂でもある。(p.212)
これは
真骨頂
とすべきところに
真の勝負所
という措辞を使ってしまったために、「真骨頂」の「真」を抜いたんだろうけど、
骨頂
は、
愚の骨頂
という使い方が多いわけで、骨頂だけで特徴とか長所とかいう使われ方は今の日本語では一般的ではない。(日本国語大辞典では「骨頂」の4番目に「(形動)程度がもっともはなはだしいこと。この上ないこと。また、そのようなさま。近世ころから、多く、悪くいう場合に用いられる。5番目に「(形動)(─する)未熟なところがなく、すぐれていること。そのような人。また、そのようなさま。特に、粋(いき)なこと。骨皮(こっぴ)。」となっている。)
ほかの言葉に言い換える
方が読者には親切だと思う。
まあ、朝日の文化部将棋担当内では
これで通す
ことになっちゃってるんだろうけど、北野節。
藤井聡太七冠への朝日新聞将棋担当の質問で、一番安心して聞いていられるのは村瀬信也記者のもので、北野記者の質問は
何かうまい言葉、キャッチーなフレーズを藤井聡太七冠から引き出してやろうという「野心」
が隠しようもない。木村一基九段の王位奪取→失冠の時のインタビューで顕著だったので、その時から北野記者の質問には注意している。
藤井聡太七冠の将棋は
夢とロマン
からは最も遠い地平にあるんだけど、どうしてそっちへ行きたがるんだろうね。
14年前の小さな自分に伝えたい、という感傷を誘うものが「名人」という地位に対する彼の思いなのだと。(p.208)
わたしには
贔屓の引き倒し
のようにしか読めなかったけどなあ。名人挑戦決定後のインタビューについての記述なのだが
「感傷」
とは遠いところに、藤井聡太七冠はいると思いますがね。