最近話題沸騰なのは、フルブライト奨学金(大変取るのが難しい奨学金で、これを取れれば、まずその後の研究人生は安泰と言われる)により現在ニューヨーク州立大学ビンガムトン校留学中で東大出身の文学研究者阿部幸大氏が、現代ビジネスに寄稿した4/25付の
「底辺校」出身の田舎者が、東大に入って絶望した理由
だろう。ここで
底辺校
と称されているのは、阿部幸大氏のreseachmapの記述によれば
釧路湖陵高校
で、同氏は2006年、平成18年3月に卒業している。
この頃の道内の進学事情に暗いので、最初は
釧路湖陵高校が底辺校なのか。世の中いろいろすげーなあ。
とびっくりしてたのだが、やはり
道内の(札幌以外の)地方進学校の雄の一つ
であることには、変わりなかったようだ。
元釧路湖陵高校の教員という方がtwitterで、阿部氏の見解に突っ込んでいるのが、togetterに纏められていた。
『東大に入って絶望した田舎者』阿部幸大氏のウソを、彼の卒業した高校元教員が指摘
で、FBで友人達といろいろ意見を交換していたのだが、その過程で
平成20年度から釧路湖陵高校は、北海道の地域医療を支える人材育成のための「医進類型指定校」となっている
ことが分かった。こうした高校の
どこが「底辺校」なのか
よく分かりませんがね。制度が始まったのは、阿部氏が卒業してから2年後だけどね。
道教委が公表している「医進類型指定校」についてのサイトより。地図も同サイトから。
地域医療を支える人づくりプロジェクト事業のコンセプト
本道の地域医療を担う医師不足の問題については、道の喫緊の課題となっており、知事部局や道内の医育大学において様々な対策が行われています。道教委としても、長期的な視点に立って、将来の地域医療を支える人材の育成が大変重要であると考え、本事業に取り組むこととしました。(略)
▼医進類型指定校は次の9つの学校です。
○北海道岩見沢東高等学校 ○北海道小樽潮陵高等学校 ○北海道室蘭栄高等学校
○北海道苫小牧東高等学校 ○北海道函館中部高等学校 ○北海道旭川東高等学校
○北海道北見北斗高等学校 ○北海道帯広柏葉高等学校 ○北海道釧路湖陵高等学校
▼協力校は次の6つの学校です。
○北海道札幌西高等学校 ○北海道静内高等学校 ○北海道江差高等学校
○北海道留萌高等学校 ○北海道稚内高等学校 ○北海道根室高等学校
御覧頂くと分かるように
医進類型指定校 札幌以外の地域の公立トップ進学校
協力校 札幌西以外は、医師不足が深刻な地域の公立高校
である。
釧路湖陵高校のサイトにも、この
「医進類型指定校」に関するページ
があり、医師を目指す高校生が、地域の旭川医科大学と協力して、さまざまな活動を行っている様子が紹介されている。
「医進類型指定校」~地域を支える人作りプロジェクト事業~
ちなみに、釧路湖陵高校は
過去3年間の進学実績
を
学校のサイトで公表
している。
上級学校等合格者一覧(過去3年間)(PDF)
進学先の国公立大学で主なところは、最近3年で(28/29/30)
旭川医科大(旧国立二期校) 10/4/5
北海道大 19/15/10
札幌医科大学(道立) 4/5/5
地元 北海道教育大釧路校(旧国立二期校) 4/8/8
地元 釧路公立大学 13/10/13
東北大 0/0/3
東大 0/2/0
京大 0/0/1
奈良県立医科大 0/0/1
など。
こんな立派な進学実績のある高校のどこが「底辺校」なのか
と思うけれどもね。
まあ、
現代ビジネス編集部の「需め」に応じて「盛大に話を盛った」
ってことですかね。
少なくとも
地域医療を担う人材を育成する教育機関
を
底辺校
と呼ぶのは、
その地域で現在生活している人達と地域医療に従事する医療関係者への侮蔑に他ならない
と思いますが、阿部氏ご本人はもう釧路には帰らないってことなのかな。
でもって地元校の
北海道教育大釧路校もついでにdisってる
のは、
北海道の教育環境はこれ以上良くならない
って思っているってことですかね。人を育てる教師は道教大釧路校からは出ないとでも?
医療関係者のみならず、僻地も含めて地道な教育を行う小中の教諭もdisってる
のは、余程、故郷に怨みがあるのかしら。
たとえ釧路に帰らないとしても、都市部以外で自分や身内が医療や公的教育の世話になることはありうるわけで、その時、
自分が何を馬鹿にしたのか
をよく知ることになると思うよ。
まさかとは思うけど、北海道で東大に行ける程度の学力があれば、まずは
医者になれ
と言われるのが通常なので、
医進類型指定校の母校をdisった
のは、
文学部への進学を反対した進路指導部や親戚等との闘いがトラウマになっている
んじゃなかろうな。
(追記 4/30)
higashiさんからコメントを頂いたので、再掲する。higashiさん、ありがとうございます。
「底辺校」だったのは中学で、高校に入って初めて大学進学という道に気づいた、という記事に読めますが、とくに擁護の気持ちがあるわけではありません。。
わたしも北海道の公立中学・高校で教育を受けたが、
公立中学は住んでいる場所で行く学校が決まる
わけで、あらゆる階層から生徒が集まる。
所謂
公立進学高校に多くの生徒を進学させている中学
にいたのだが、同期生は
最近、学士院賞を取ったエラい研究者
から、
金バッジにモノを言わせるお仕事に就いた奴
まで、幅広く人材を輩出している。
でもって
釧路湖陵高校に行くくらいの成績の中学生
ならば、
ムダに成績が良いといじめられる危険性が高い
ので、
悪そうなお友達を作って、自分も悪いことをしていじめられないようにする
というのも、これまた
賢い子どもの処世術の1つ
だろう。
ちなみに東大の某先生も、中学時代は
危ないお友達と遊んでいた
そうだが、阿部氏同様
補導されずに済んだ
と言っていた。もっともかの先生は東京出身なので
賢い子が悪そうな友達と遊ぶパターンは田舎だろうが都会だろうが変わらず存在する
と言えよう。
で、悪そうなお友達にも
仁義
はあって、
一緒に遊んでいる「成績の良い奴」は、本当にヤバイ局面には誘わない
ものなのだ。
あいつがパクられたらそれこそヤバイ
と思いやって、巻き込まれないよう配慮してくれているものだ。
運が良かった
と阿部氏は思っているように書いてるけれども、それは
お友達がちゃんと仁義を切ってくれた
のに気が付かないか、無視しているだけなのだと思いますがね。もしも後者なのだとすれば、
文学研究者としてはどうよ
とは思うよね。
まあ、世の中には、団地で育ったのを怨んでいるのか、
一戸建てに住んでいる奴は敵だ
と言っていたエラい文学研究者(たぶん、遠からず、勲章とかそんなものを貰うだろう)もいるので、様々なトラウマは思いがけない文脈で噴出するのだろうけど、せっかく文学研究という、何を言ってもほぼ許してもらえる分野の研究者なのだから、是非生産的な方向に昇華して頂きたいものだ。