2024-07-22

赤松明彦『サンスクリット入門 インドの思想を生んだ「完全な言語」』中公新書2812 2024.7.25 1300円

郵便受けに、ずっしりした重みを感じるamazonの封筒が入っている。開けてみたら
 赤松明彦『サンスクリット入門 インドの思想を生んだ「完全な言語」』中公新書2812
だった。424頁でサンスクリット初級文法を日本語で学べる。全50課。
いや、凄い。いきなり、guṇaとかvṛddhiとか出てくるんですが、これって
 Perry : A Sanskrit primer (1901)
だと、最初の方の発音の話じゃん。2回生が母音の階梯がなかなか理解出来なくて悩む奴。
あ、赤松さんは研究室の先輩で、わたしたちは伝統的に2回生の時にPerryでサンスクリット初級を学んだ。サンスクリットは印欧語だから、英語の教科書で学んだ方が何かと都合が良い、というのが、その頃の風潮だった。大体、サンスクリットの辞書は、英語かドイツ語かって時代だったし。今や、オンラインでサンスクリットやパーリ語の辞書が居ながらにして引けるんだから時代は変わった。
だから、令和6年の今、赤松さんのこの
 サンスクリット入門

 日本語でサンスクリットを学ぶ教科書
という立場で書かれている。赤松さんじゃないと書けない教科書だ。
もちろん、これまでにも日本語のサンスクリットの教科書はあるけど、
 初級文法の例文をインド原典から拾ってくる
ものは、見たことがないし、サンスクリットの力がよほど抜き出ていないと出来ない。

まだ、全部に目を通してないのだが、見出しを見ただけでも
 印度学徒の笑いのツボをついてくる
お洒落な排列だ。たとえば、
 第14課 あの山は火をもっている。煙をもっていることから。—子音語幹の名詞(2)
どこの世界にいままで
 Jayanta BhaṭṭaのNyāya Mañjali
の有名な文章を引用して
 2語幹の-mat/-vat名詞
を解説するサンスクリット初級の教科書
が存在したというのだ! さすが赤松さん、凄い。
でもって
 tat tvam asi
は第8課で、2人称を説明する例文に使われているんですよ。溜まりませんね。

Nyāya Mañjaliの文章は、インド哲学/仏教論理学研究では、最初に出てくる喩例で
 あの山に火あり、煙あるが故に
というのが往年のバージョンである。これを元に論理を展開していくのが一つのやり方。あとは
 貝と銀
 空華
 牛と非牛
とかいろいろありますがね、ええ。
わたしは論理学を勉強できるほど賢くなかったので、喩例は知っているけど、その展開の細かいところまでは学んでいない。

今日はささっと3課ほど目を通した。これから毎日
 日本語で学ぶ楽しいサンスクリット初級
を赤松さんに導かれながら、勉強していこう。

| | コメント (0)

2023-07-16

京都・老松「夏柑糖」チャレンジ 白杖突いて、札幌・旭川へハンドキャリー(後編)

新千歳空港からは
 エアポートライナーの指定席
で札幌へ向かう。新千歳駅の方が、キャリーケースは荷物置き場に置いてくださり、足元と両脇にトートバッグと保冷バッグという仕様で最後の1席に座る。
札幌駅にも連絡が行っていて、タクシー乗り場まで介助してくださった。
さて、タクシーなのだが、運転手さんが慣れてないらしく、全然車から降りてこない。
見かねた、後に並んでいたご夫婦が、荷物を積むのを手伝ってくださる。白杖を持っていると、片手が使えないので、荷物を積むのは結構難度が高い。何度も御礼を言って、行き先を告げた。
運転手さんは本当に札幌での営業を始めたばかりのようで、ホテルの名前や場所を言っても、全然わからない。
 地番は?
札幌のホテルに行くのに、地番まで聞かれたのは初めてですがな。しょうがないので、ホテルに電話したけど、やっぱり地番はわからなかった。そりゃそうよね。一筆だけの地面に建ってるわけじゃないだろうしね。なんとかホテル着。
安いプランだし、ビジネスタイプのホテルなので、ベルボーイはいない。さあ、今日の最終コーナー、ここで落っことす等をやらかすと、いままでの苦労が水の泡だ。
白杖突いて、リュック背負って、キャリーケースにトートバッグを乗っけて、保冷バッグを肩に掛けて、なんとか部屋にたどり着く。
お、結構大きめの冷蔵庫じゃん! ラッキー! 2個入り「夏柑糖」は無事に収まる。
では、18:30着と約束した、実家へGO!
途中、
 檀那寺の中央寺
に寄ったんだが、何じゃ、こりゃ!
 午後6時を過ぎると、山門も通用門も、お寺の門という門は全て閉めちゃっている
のね!!! 観音堂にお参りしようと思ってたのに。しょうがないので、観音堂脇の通用門の外から、『般若心経』一巻を誦す。我が家の先祖代々のみなさんはこの観音堂の下にある納骨堂に全員収まっている。

 

さて、実家到着。まずは
 1個入夏柑糖
を仏前にお供えする。亡き父が祀られているのだ。これから食事に出るので、火事になっても困るし、おあかしを点けるのを遠慮したのだが、弟が
 線香ぐらい上げてよ
というので、火の始末が大丈夫なら、と蝋燭を点け、一番短い線香を選び、『般若心経』一巻を誦す。
 いまお供えしたばかりでパパには悪いけど、この京都のお菓子、冷蔵庫に入れないといけないから、下げるね
と、すぐに冷蔵庫に仕舞ってもらった。その後、弟は冷蔵庫に夏柑糖が入っているのを忘れていたらしく、連絡したら、慌てて母と食べた由。まあ、美味しい内に食べてくれたのだからそれで良かった。
これで
 夏柑糖チャレンジ 第二幕終了
である。

 

さあ、問題は明日だ。

 

さて、7/10、まずは冷蔵庫で冷やしておいた夏柑糖に冷材も載せ、また保冷バッグに収めて、待ち合わせの約束の札幌駅へ。S先生が迎えに来てくださる。駅そばのサテライトでまず授業だが、その前にお土産の夏柑糖を差し上げる。喜んでくださった。
午後は、夏柑糖を持って、旭川へ。旭川でも授業2コマ。S先生の学科の皆様に差し上げようと2個にしたところ、1個はS先生が札幌のご自宅までまた持ち帰られるとのこと。長い旅でしたね、夏柑糖。もう1個は学科で召し上がってくださったようだ。良かった良かった。
これにて
 夏柑糖チャレンジは大団円
今シーズンほぼ最後の夏柑糖が、北海道まで旅をして、皆様に無事召し上がってもらえて、わたしも運んだ甲斐があるというものだ。

 

夏柑糖も、シーズン最後でなければ、普通に発送してくれるので、今回のような特別な事情でも無い限り、北海道でも取り寄せることができる。

| | コメント (0)

京都・老松「夏柑糖」チャレンジ 白杖突いて、札幌・旭川へハンドキャリー(前編)

夏柑糖は、京都の和菓子店 老松の看板商品の一つだ。
夏蜜柑の中身を綺麗に刳り抜き、夏蜜柑の寒天を詰め、夏蜜柑の形に戻してセロハンで包装されている。
 夏蜜柑が出始めてからと夏蜜柑が終わるまで
という、アバウトな販売期間なので、毎年販売終了直前の7月初めになるとドキドキする。
今年は、7/10まででおしまいだった。
老松

で。
今回、仕事で北海道に出張することになった。期間は7/9-11の3日間。札幌には実家がある。agodaでホテルを取ったら、実家のすぐ側にそこそこ値段の安いホテルが取れた。これなら、荷物をホテルに置いて、経路の途中にある檀那寺に軽くお参りをしてから、実家に顔を出せるというものだ。
老松は京都以外にはほとんど出店していない。

老松が出店しているJR京都伊勢丹に行くと、夏柑糖は店頭にあった!
 北海道に送りたいんですけど
すると
 店頭からの発送はもう終了しています
あらら。さすがに夏柑糖は1つが大きいので、白杖を突いて移動するわたしがハンドキャリーで北海道まで持参するのは難儀だ。
 今回は縁がなかったかなあ
と思いつつ、夏柑糖の後に展開する「晩柑糖」が出るとのこと、こちらはグレープフルーツの果汁を使う。
じゃ、満月の阿闍梨餅にしようか。
満月の売り場まで歩く。すると、満月には
 早くても北海道着は7/11過ぎになりますね
という返事をもらう。それじゃ間に合いませんがな。
もう一度、老松に足を運んで、「晩柑糖」の出荷日を聞くと、
 7/19です
との返事。さあ、困った。JR京都伊勢丹地下食品売り場を白杖を突きつつ、悩んでうろついていたが、時間もない。
もう一度老松に行き
 夏柑糖を3つ、1個入を1つと2個入1つお願いします
と告げた。ここからは老舗ならではの丁寧な梱包が始まる。
 熨斗紙はいかがいたしましょう
家は旧盆だが、新盆のシーズンでもあるので
 1個入をお盆の御供にするので内側に「御供」で
と依頼。名前も入るというのだが、家族同士で特に要らないのでそれはパス。見ると、店頭に熨斗紙を印刷できるプリンターが備え付けられており、大抵の要望はさばけるようになっていた。
老松の紙袋に2個入と1個入を上手に詰めてくれて、
 これは北海道にお持ちになるときに
と補助の冷材も入れてくれて、
 夏柑糖チャレンジ第一幕終了
だ。
帰宅後、冷蔵庫を空けて、出発まで冷やしておく。

さて、7/9は出発日。幸い雨も上がり、まずは
 JR奈良駅大阪空港行きリムジンバス乗車
が最初の難関。
 白杖+キャリーケース
で両手が塞がるわけで、そこに
 トートバッグ+夏柑糖の入った冷蔵対応バッグ
が加わる。ともかく、夏柑糖が壊れてしまっては話にならない。キャリーケースにトートバッグを載せ、背中に北海道の仕事で使う道具を詰め込んだリュックを背負い、夏柑糖の入ったバッグを肩に掛け、白杖片手に、なるべく平らで自転車等に遭遇しないルートでJR奈良駅に向かう。なんとか到着。
リムジンバスは、そこそこ混んでいたが、満員とまではいかず、席を確保して、夏柑糖の入ったバッグも隣の席に置けた。
お次は
 機内での保管場所確保
だ。今回は往復ともANAにお世話になる。
機内に
 壊れやすいもの
を持ち込んだ場合、お願いすると、機体後部に預かってもらえることがある。大昔、今は亡き父が
 ニュー王子ホテルのアップルパイ(ホール)
を持たせてくれたことがあった。その時も機内預りで支障なく京都に戻ってきた。夏柑糖は、壊れやすさからいうと似たようなものだろうから、ここはプロにお願いする。
 実は京都の壊れやすいお菓子を預かって頂きたいのですが
すると、パーサーの方が
 まあ! わざわざ京都までお菓子を買いに行かれたのですか
と驚いてらっしゃる。
 老松って言って、京都以外にはほとんどお店を出してないんです。夏の名物の「夏柑糖」ってお菓子は普段は配送してくださるんですが、今回はシーズン最後で配送できないということで、ハンドキャリーで北海道まで持っていくことになってしまって……
と説明すると、大変親切に保管の指示を出してくださった。
よし、新千歳空港までは万全の体制だ。介助してくださったANAのクルーの皆様、地上係員の皆様、新千歳駅でエアポートライナーに乗せてくださったJR北海道の皆様、ありがとうございました。

| | コメント (0)

2023-03-31

国会図書館デジタルコレクション 個人送信サービスで『望月仏教大辞典』を引く(全文検索機能)

国会図書館デジタルコレクション 個人送信サービスで
 望月仏教大辞典
を引くやり方。
1. 検索語→調べたい言葉を入れる(全文検索)
2. タイトル→望月仏教大辞典
3. 著者→望月信亨
4. 出版年→1954以降にする(ココ重要!)
これでOK
あとは検索語の載っている巻が示されるので、一冊一冊開けて、もう一度全文検索をかけるとページが示されるので、それを開けるなり印刷するなり。

『望月仏教大辞典』はいくつか版があるので、
 出版年を入れる
のが大事。

| | コメント (0)

2023-03-30

『大正新脩大蔵経』の文字チェック@Mac

国会図書館デジタルコレクションの
 送信サービス(要登録)
に『大正新脩大蔵経』(大正蔵)が入ったので、
1 SAT 2018で検索
2 CBETAの漢文大蔵経で全体を確認、必要な箇所をコピペ
3 校勘を国会図書館デジタルコレクションで全文検索をかけて、大正蔵の画像で確認
というやり方にした。
Windowsだともっと簡単かもしれないけど、Macなのでいろいろと不便なところはある。
SAT 2018の大正蔵画像はPDFだったと思うけれど、肝腎の校勘の文字が潰れていることがあって、一応データベースでは校勘情報は取れるようになってはいるのだけど、
 現物で確認
できるようになったのは大きい。CBETAの古い方の漢文大蔵経は56〜64巻が抜けているし、国会図書館デジタルコレクションの全文検索機能は大変便利。
ただし
 全文検索データの元になっているOCRからの文字情報が間違っている
こともあるので、そこはやはり
 目で確かめる
ことに。
まあ、国会図書館デジタルコレクションには、『大正蔵』も『南伝大蔵経』も、その他仏典も多数入っているので、
 図書館や研究室に行かなくても現物が見られる
のは大きい。時間の節約にも、紙で複写しないから資源の節約にもなる。
あ、そうそう、仏教関連で言えば、
 織田仏

 仏書解説大辞典

 望月
も入ってますよ。神道関係文献もかなり充実している。

なお、
 欧米のインド学の著作
は、どう考えても売れ筋でなく、学術出版がほとんどなので、出版からある程度時間が経つと
 全文公開
されていることがままある。ありがたいし、たぶん著者も
 世界中の人に簡単に利用してもらえる
方がうれしいだろう。

最近話題のChatGPTは、ウソを吐くかもしれないらしいから、今のところ
 地道にGoogle検索
を掛けている。

| | コメント (0)

2022-09-28

「観る将」必携 藤井聡太監修『藤井聡太の将棋入門』@日本将棋連盟/マイナビ出版

将棋界で、次々と最年少記録を塗り替える内に、気がついたら
 日本で一番将棋の強い人
になったのが
 藤井聡太五冠
だ。相変わらず若い。この7月にやっと二十歳になったばかり。
しかも強い。なんせ
 負けたら記事になる
のだ。今年度は、年度初めは対局が少なかったせいで勝負勘が戻らなかったとかで、最初負けが少し多かったが、最近
 勝率8割に戻した
ところだ。
 5回に1回しか負けない
のだ。それも
 タイトル防衛戦とA級順位戦を戦っている
という状況でだ。
 タイトル戦では、挑戦者は打倒藤井で綿密な研究と闘志で臨む
 A級順位戦は、名人に挑戦するためのトップ棋士によるリーグ戦
なわけで、
 対戦相手は渾身の研究と並々ならぬ闘志でぶつかる
のだけど、それで
 勝率8割
って、本当に
 いい意味で「おかしい」
のだ。
わたしたちはなんとなく
 藤井聡太五冠が勝つ
のに慣れているから、何とも感じなくなっているが
 6割勝てば強い、7割勝てばすごい
将棋の世界で
 デビュー以来勝率8割をキープしている
こと自体が
 異常事態
なのだ。慣れは怖い。勝率の話だけすれば、
 タイトルは防衛して一人前
とはいわれるものの、なかなか防衛に至らないというのが普通なのだが
 タイトル戦をいままで一度も落としたことがない
のが、藤井聡太五冠だ。タイトル戦は
 出場した10回の挑戦または防衛戦で、奪取または防衛に成功
している。細かく言うと
 35勝6敗 勝率8割5分4厘
だ。ちなみにこれまでの通算成績は
 281勝56敗 勝率8割3分4厘

 タイトル戦の勝率の方が、通算成績の勝率よりも高い
のである。こんな棋士は
 空前の存在
で、たぶん絶後であろう。

その藤井聡太五冠監修で
 藤井聡太の将棋入門
が発売された。
 監修って、名前貸しただけでしょ
と思うあなた、それは
 藤井聡太五冠を知らない
のだ。藤井聡太五冠といえば、将棋関連の編集者の間では
 あれだけ忙しいのに、綿密にゲラを直して戻す
ことで有名である。本当にマメで、読み手のことを考えて親切。普段、記者の質問や、感想戦、大盤解説等で
 早口で、棋譜を高速詠唱
してたりするから、気がつかれないかもしれないが、
 子ども相手の指導対局
でも、丁寧にお辞儀をし、温かい言葉を掛けている藤井聡太五冠を見たことがあれば、
 将棋の普及には強い意志を持っている
ことが見て取れる。

いや〜、これは
 入門クラスの子ども
だけでなく
 観る将必携
でしょう!!!!

全160頁に満たないコンパクトな内容で
 基本見開き2頁
の構成なのだが、入門用の解説書で
 序盤・中盤・終盤
まで、きちんと説明しているものは初めて見た。しかも
 とってもわかりやすい
のだ。
選ばれている
 用語の解説
も、明快で、
 用語選択のセンスが抜群
だ。観る将が大盤解説を見ていて
 え? それどういう意味?
と思うような言葉が、大体網羅されている。

なお、藤井聡太五冠ファンのためには
 p.60の「指すときの手つき」

 藤井聡太五冠の指し手を撮影
したものなので、これだけでも
 買い
でしょう。

p.62-67には
 棒銀の実際
が説明されている。
 幼稚園年長から研修会卒業の小学4年まで
の藤井聡太五冠は
 棒銀でばったばったと上位者をねじ伏せていた
そうだから、初心者のみなさん
 任天堂Switchのソフト『棋士・藤井聡太の将棋トレーニング』
をやりつつ、この本で勉強すれば、
 一段と将棋が楽しく
なるだろう。

| | コメント (0)

2022-06-30

藤井聡太五冠 10代最後の夏 将棋AIによる研究の今後

19歲の藤井聡太五冠の
 タイトル防衛戦の夏
が始まっている。7月生まれの藤井聡太五冠は19日に誕生日を迎え、20歲となる。

今年の防衛戦は、コロナ禍で変則的だった日程が通常に戻り、
 第7期叡王戦
が皮切りとなった。叡王戦では挑戦者出口若武六段をストレートで退け、最初の防衛戦をクリアした上に、これまで誰も防衛できなかった
 叡王戦で初防衛
を遂げた。出口若武六段といえば、2018年の新人王戦で、奨励会時代の出口若武三段と藤井聡太七段が対戦したのが、記憶に残っている。この時もストレートで、段位制限のため最後の挑戦のチャンスとなっていた藤井聡太七段が新人王を手にした。
叡王戦では捲土重来を目指した出口若武六段、第3局では、勝ち筋につながるところまで指したものの、勝機を手にできずに散り、局後の大盤解説会場でそのことを確認、思わず悔し涙が溢れた。

藤井五冠の防衛戦シリーズはここへきて
 第93期棋聖戦第1局では永瀬拓矢王座と二千日手、指し直し第2局で角換わりを受けて敗戦
 第63期王位戦第1局では豊島将之九段の角換わりを受けて敗戦
と、緒戦を2つ落とした。いずれも
 対戦相手の渾身の研究の角換わりを受けての敗戦
だ。
角換わりは
 詰めまで研究されている戦法
で、
 2020年第91期棋聖戦第3局で渡辺明名人が勝利した
時に、そのことが大きくクローズアップされた。その状況は現在も変わらない。

今日の第63期王位戦第1局2日目には
 渡辺明名人
がAbema将棋チャンネルの解説にやってきた。対藤井聡太五冠のタイトル戦では、
 2020年度第91期棋聖戦 1-3
 2021年度第92期棋聖戦 0-3
 2021年度第71期王将戦 0-4
と、番勝負ではとことん分が悪い渡辺明名人だが、劣勢の藤井聡太王位の戦いぶりを見て、かなりご機嫌な調子で早い段階で豊島将之九段の勝利を確信していた。
あるいは、
 今後の対藤井聡太五冠戦のヒント
を得られたのかもしれない。

負けはしたのだが、王位戦第1局は
 豊島将之九段の渾身の研究 vs. 対人研究はせず、盤面に全力で当たる藤井聡太五冠の棋力
の実に見応えのある勝負となった。昨年度
 藤井・豊島の19番勝負
とまで称された王位戦・叡王戦・竜王戦の3タイトル戦では
 第62期王位戦 1-4
 第6期叡王戦 2-3
 第34期竜王戦 0-4
と、いずれも藤井聡太五冠が勝利して防衛・奪取に成功、豊島将之九段はまさかの無冠へと転落した。
臥薪嘗胆、半年の間、豊島将之九段は、対藤井聡太五冠の戦略を練りに練っていたようだ。

豊島将之九段といえば
 AI研究を真っ先に取り入れた
ことで知られる。昨年苦杯をなめた後は、AIの環境を充実し、研究の精度を上げていただろうと想像される。

 

現在の
 将棋AI

 各ソフト同士が鎬を削る戦国時代
から
 dlshogi一強
へと移行した、といわれる。GPUをぶん回すdlshogi一強ということは
 高くて速いマシンを用意できるかどうか
が、研究精度を上げるための必須条件となった、ことを意味する。将棋AIに限らず、計算機を使う環境では
 高くて速いは正義
だ。

「渡辺明名人が130万円もするPCを導入した」
というのが、昨年辺り話題になっていたが、
 プロの道具がたった130万円
というのは、何とも不思議なことだった。というか、長年、個人で仕事用にパソコンを使っているが
 130万のPCが「とても高価」という価値観
は、謎すぎる。自動車より安いんですぜ。

dlshogiが天下を取っている今後しばらくは
 個人では購入出来ない高価な速い環境を棋士が利用できるか
が、
 将棋AIによる研究の最先端
になるだろう。
でもって、
 コンピュータ周りの世話役
が、必要になってくるだろう。

経団連の機関誌にも登場した藤井聡太五冠の財界でのファンは多いだろう。それを藤井聡太五冠が必要とするならば、
 藤井先生のためならいくらでも
と、最高の環境の提供を申し出る企業が複数あってもおかしくない。
 将棋AI研究環境整備は個人レベルから企業協賛レベルへ
と移行するのではないだろうか。

目の前の1勝よりも
 まだ見ぬ盤上の景色
を求める藤井聡太五冠、これまで
 敗北は新たな飛躍へのステップ
としてきた。
 深く緻密な角換わり研究
に対して、今後どう対処していくのか、目が離せない。

| | コメント (0)

2022-04-26

梵巴蔵漢文大蔵経の平行句を探してくれるとんでもないデータベースで、日本語は参加できていない件

ちょっと必要があってPāli語の経典
 Majjhima Nikāya(漢訳の中阿含に相当)
を調べていたら、行き当たったのが
 梵巴蔵漢文大蔵経の平行句を吐き出してくれるデータベース
 Buddha Nexus
https://buddhanexus.net
だ。巴(Pāli)梵(Sanskṛt)蔵(Tibetan)中(Chinese)の大蔵経の文章を適当に入れると、ニューロネットを利用して
 梵巴蔵漢文大蔵経の平行句を即座に検索してくれる
のだ。便利すぎて、一瞬なにが起きたかと思った。その上
 既存の現代語訳
も用意している。

 

このように仏教学でオンライン検索が可能になるまでは、
 平行句探し
は、論文作成の作業ではかなりの時間を必要とするもので、梵巴蔵漢の四つの語学に堪能でないと難しかった。語学の実力が足りず、間違って、似ているけど違うフレーズを引用したりすると、学会やメールで、至極丁寧な言い方や書き方で、しかしながら中身は
 おまえはアホか
という強烈なお叱りをいただいても致し方なかった。
コンピュータが探してくる平行句なので、当然ながら
 結果をそのまま使うのではなく、一応、自力で吟味して使う
という昔と変わらない手順は必要だが
 探し出すための、時間が読めない作業の負担
はぐんと減った。いや〜、
 平行句があるなら、必ず提示せよ
ってのが、今の仏教学の水準ですね。

 

ところで
 現代語訳の部分
なのだが、非常に残念ながら
 日本語訳
は採用されていない。採用されていない理由は推測するしかないが
 著作権等の関連でデータが提供されていない
のだろうと思う。
ああ、もったいない。
せめて
 南伝大蔵経の日本語訳(初版は昭和10(1935)〜15(1940)年)
くらいは、提供できないのだろうか。日本の仏教学の成果がこうした世界的に利用されるだろうデータベースで何も貢献できないなんて、残念で仕方がない。

| | コメント (0)

2022-03-03

国会図書館次世代デジタルライブラリーの「全文検索」機能を使ってみる

国会図書館のデジタルコレクションには、常々お世話になっているのだが、
 次世代デジタルライブラリーでは全文検索可能
次世代デジタルライブラリー
https://lab.ndl.go.jp/dl/ と知り、やってみた。

山田崇仁さんの労作「前漢前少帝の諱について」(『立命館東洋史學』40, 63-102, 2017)
https://ci.nii.ac.jp/naid/120006643068 は、
 そもそも不明だったため「某」と記されていた前漢前少帝の諱
が、印刷の加減で
 恭
と誤読され、そのまま
 少帝恭
に訛化し、ついには中国にも飛び火するさまをトレースした論文だが、これが
 次世代デジタルライブラリーの全文検索
では、一発(というか、実際には「少帝某」と「少帝恭」を検索するので二発だけど)で結果が得られる。全文検索畏るべし。

| | コメント (0)

2022-01-26

藤井聡太竜王 棋理を求めて

藤井聡太竜王は、竜王位を得て初の10代四冠となり、現在、渡辺明王将(名人・棋王)とタイトル戦 第71期ALSOK杯王将戦 七番勝負を行っている。
二日制タイトル戦を藤井聡太竜王と渡辺明王将が戦うのは初めてで、二日制では安定した成績を挙げている渡辺明王将が有利かとみられていたのだが、第2局までの成績は藤井聡太竜王の2連勝。第1局こそ力と力の激突となったものの、藤井聡太竜王は、1日目に
「指してみたかった」8六歩
という、渡辺明王将の念頭にないのはもちろん、多くのプロ棋士ですら選ぶのが難しい指し手を選択、渡辺明王将は対応に苦慮した。
第2局では渡辺明王将は1日目にその後驚くべき経過をたどることとなる緩手を指し、勝負は1日目でほぼ決着した。2日目は、いつ投了してもおかしくないような局面で、ともかくも16時過ぎまで指し継いだというのが現実だった。ゲームではあるが、興行という側面ももつ将棋のタイトル戦、2日目夕方まではいくら形勢が思わしくなかったとしても、なんとか指し続けなければ各方面に申し訳が立たない、という事情がある。
藤井聡太竜王の2連勝で、この番勝負、藤井聡太竜王に有利になってきている。これから渡辺明王将が五番の内四つ勝つのはかなり難しい。

 

渡辺明王将はこれまでのタイトル戦では
 (終盤は)自分をよくする形にして指していれば、そのうち相手が間違えてくれて勝つ
と、『将棋のワタナベくん』の中で述べている。しかし、藤井聡太竜王は
 終盤間違えない、絶対的な力
を持つ棋士だ。弱冠にも満たない小学6年生の12歲から、プロ棋士、詰将棋作家が出場する
 詰将棋解答選手権チャンピオン戦で優勝
し、連覇してきた実力を考えれば、
 世界一詰将棋が強く、終盤はほぼ間違えない
のである。ミス待ちで勝てる相手ではないのだ。
そうすると、渡辺明王将が今後勝つためには
 序盤で圧倒してその差をキープ
するくらいしか戦略がない。しかし、AIを駆使して序盤中盤研究を深化させている藤井聡太竜王は、このところぐっと序盤中盤の差し回しが確実で、しかも「辛い(からい)手」を選ぶ傾向にある。渡辺明王将は、困難な防衛戦を戦っている状況である。
王将戦第2局2日目の解説は広瀬章人八段だった。広瀬章人八段といえば
 2019年11月19日の王将戦最終リーグ戦で、藤井聡太七段(当時)を頓死で負かし、タイトル戦初挑戦を阻止した
という因縁の相手でもある。その広瀬章人八段が、解説の中で
 最近の若い棋士は藤井さんの将棋ばかりを研究している
と話していた。
 藤井将棋が、「未来の将棋」として広くプロに認知されている
ことを示すエピソードである。

 

もっとも、もし若い棋士が「藤井将棋」をマネしたとしても、藤井聡太竜王のように指せるようになるかはわからない。
以前、まだ五段時代に師匠の杉本昌隆八段がニコ生だったか、Abemaだったか、藤井聡太五段の対局を解説していたときに
 藤井は小学生の頃から、定跡にない手、変わった手を指すのが好きでした
と語っていた。5才で将棋を覚え、瞬く間に上達し(小学校1年生の段階ですでにアマ初段くらいはあったと言われている)、定跡をそのまま飲み込むのではなく、工夫を続けてきた先に現在の「藤井将棋」はある。
頭の鍛え方が違うのだ。その時、杉本昌隆八段は、こんな話もしていた。
 藤井が、電話で、この局面はこうすればいいんじゃないかと難しい話をするんですが、さっぱりわからないので、そうだね、と答えておきました
と。その
 さっぱりわからない複雑で難解な手順
こそが、いまの藤井将棋の源流にあるだろう。もう4年も、そんな手筋を、起きている間はずっと考えてきているのだ。よく
 藤井さんは読みが速くて深い
と言われるが、それはこうした日々の積み重ねの上に成り立っているのである。

そして、藤井聡太竜王が相手が誰であろうとも
 勝負に辛い(からい)
のは、子どもの頃から変わらない。まだ小学1年生だか2年生だかの頃、大人に交じってアマチュア棋戦に出場、腕自慢の大人達を
 ボコボコにした
という逸話の持ち主である。(もちろん、現在プロ棋士になっている人々で、幼少時に将棋を覚えている場合は、大体みんな同様のエピソードを持つ「神童」だった)
 将棋は年齢に関係なく大人に勝てるのがいいです
と、以前、藤井聡太竜王は語っていた。藤井聡太竜王は見た目がソフトな印象なので、余り気づかれないが
 友達をなくす手
を四段時代からよく指していた。いくつか選択肢がある内でも
 相手を完膚なきまでに打ちのめす手を選ぶ
のだ。小学2年生の藤井聡太少年が初めて臨んだ
 詰将棋解答選手権の写真
には、まだあどけない男の子が眼光鋭く、問題を解く姿が残っている。詰将棋解答選手権でも、本将棋の対局でも、藤井聡太竜王の射るような眼光の鋭さは今も変わらない。

定跡以外の手はないのか、それを探求していた子どもの頃から、藤井聡太竜王には
 もっと上に行けば開ける将棋の広い世界
が見えていたのではないか。
将棋をめぐるメディアは、書き手が自分の「理解の及ぶ範囲」で藤井聡太竜王を描こうとしてことごとく失敗している。
これまでの「定跡」が効かない、それが藤井聡太竜王だ。
新たなヒーローには、新たな描かれ方が必要になる。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧